第14話 三目並べを止めたくて、

その日も、特別棟四階の部室の扉を開けた僕の耳に、悲しげな嘆きが入ってきた。


「うわぁん!」

わかが、チョークを片手に、黒板に向かって泣き叫んでいる。


何事……?


霊気にあてられ、ついにおかしくなってしまったのだろうか……


「あ、あの、どうしたの……?」

「ふぇぇん……もうやだぁ……」

声が届いていないのか、わかはただ泣きべそをかくだけ。


僕は部屋に踏み入って、彼女の相対している黒板を覗き見た。


そこに書かれていたのは、三掛ける三のマス目。

マス内には、いくつかの丸とバツ……


「三目並べだ……」


僕は少し青くなる。

それ自体はいい。

相手が見当たらないのが問題だった。


わかがひとりでやって、ひとりで泣いている素っ頓狂な可能性もなきにしもあらずだけど……


予想通り、彼女の隣で、チョークがプカプカと浮かび、マスの左下にバツをつけた。


「うわぁん! 止められてしまいました……」

「……仲良くなったの?」

「なってないです! 相手しないと呪うっていうから……あぁ脇腹突っつかないで! やりますやります!」


本人にとっては悲劇だろうが、傍からは申し訳ないが微笑ましい。

そして、今日も元気に下着が透けている。

ブラウスを突き上げる胸は黒板に迫り、マス目を消しかけていた。


「いや、集中しろあたし……勝てば終わり、勝てば終わり、勝てば……あっ!」

彼女は喜び勇んで黒板に被さり、右隅のマスに丸をつけた。


「ダブルリーチです! あたしの勝ち!」

喜色満面に飛び跳ねると、ぽよんぽよんと効果音が立つ。

敗者となった浮遊する白棒は、間髪入れずにマスの線を引き伸ばし始めた。


「あぁっ⁉︎ マス目足さないでください! ズルです!」

必死に訴えるも、その間にさえ白線はぐんぐん伸びていく。


さすが幽霊。


汚い。


「そんなにいっぱいやだぁ! 先輩助けてぇ……」

「む、無理だよ、ごめん……」

「うわぁん……もうやりたくないよぉ……」


目に涙を浮かべるわかに同情しつつ、定位置に座ろうと後ろを向く。

そこで初めて他の存在に気づいた。


「え、貞子……⁉︎」


かと思ったら、柳女さんだった。

いつものように、寄せた机の前に座って、スマホをいじっている。


気配を全く感じなかった……もう少し生者の感じを出してほしい……


僕は、ゆっくり、存在を消すようにして、教室後方の椅子を取ろうとした。


不用意に近づけば、また椅子からコケられるのがオチだ。

猫を怖がらせないかのように、そろりそろりとカニ歩きで横を通り……


ガラガラッ――!

突然、ドアが開いた。


「ふぇぇ! お化け⁉︎」

柳女さんが飛び上がり、

「ふぃぇえ‼︎ 男‼︎」

近くにいた僕に目を剥いて、椅子から落ちた。


あぁ、僕の努力が……


――お客さんだよ。


状況をまるで気にしない機械音声が、ドア前から響いてきた。

我らが部長である。


続いて、


「お、お邪魔しまぁす……」

と、女性の声。


ジャージを着た女子生徒が、国木田さんの後ろについていた。


わかがチョーク片手に、

「また人間が来た……」

と、森に隠れ住んでいる鬼みたいなセリフを吐き、柳女さんは来客にビビって再び着席に失敗する。


僕は、彼女に見覚えがあった。

この前、教室までインハイゴリラを呼びに来た、部活の人だ。


室内の人間たちの過敏な反応に、女性生徒も身じろぎしていた。


「なんか、ウチ来ちゃダメだった……?」

――いえ、これが平常運転なので。どうぞ。

国木田さんが手で案内する。


彼女こそが、僕たちの携わることになる、最初の依頼主だった――




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