24 写真の構図

「……ねーセイ、ちょっといい?」


 次の日。話してた通りに、お昼を一緒に作るためにと十二時過ぎに来たセイを家に上げて、スマホを操作していた私は、げんなりとした気持ちになった。


「なんですか?」


 ジャケットを脱いでいたセイに、


「これ見てほしいんだけど」


 と、スマホの画面を見せる。それを見たセイは、神妙な顔になって、


「いつ出会った……学歴……歳……職業……年収……」

「あ、いやそこじゃなくてね。最後のとこなんだけどね」

「写真送ってってやつですか?」

「そうそう。ほんと今さっきね、またセッティングしたからって送られてきたから、恋人できたからそういうのもう大丈夫って送ったんだよ。そしたら、早速というか、これが来てね……」


 私はため息を吐いて、


「見せないって言うのも不自然だしさ、一枚でいいから撮っていい?」

「いいですよ。……そうですよね、恋人だと、そういうものも持ってて当たり前ですよね……」


 セイは、なるほど、といった顔になった。


「じゃあね、んー……セイだけの写真もさすがに変だし、二人で写ってたほうがいいよね?」

「そう思います」

「じゃ、ここ座ってもらっていい?」


 私は座ったソファの隣を示す。


「ああ、はい」


 セイに座ってもらって、カメラを起動させて、


「どういう構図がいい?」

「構図?」

「抱き合ってるとか、首に腕回してるのとか、キスはさすがにあれだけどさ、それっぽいのを送らないと満足してくれないと思うんだよね。まあ、セイになるべく合わせるし、私はただ隣に座ってるのでもいいんだけど」


 言って、セイへ顔を向けたら、


「…………なるほど…………」


 膝に頬杖をついて、その手で、俯けている真っ赤になった顔を覆っていた。

 うん、ピュア、健在。


「じゃ、このままで撮ろっか」


 精神的負担は与えたくないんだよ。頼んでる側として。


「えっ、いや、ですけど」

『みゅう』


 セイが慌てて顔を上げたのと同時に、ローテーブルの下にいたクロが出てきた。


「クロ? どした?」


 クロは私を見たあと、セイへと顔を向け、しっぽをゆるく振る。


「えっ?! いや、だ、それ、はさすがに……!」


 セイが顔をさらに赤くして、動揺を表すように手が空中で迷うように動く。


「いえ! そういう訳では決して! でっ、ですけど、ナツキさんが、その……了承してくださるか……」

「ねえセイ」


 声をかけたら、セイの肩が跳ねた。


「っ! は、はい……」


 ギギギ、と顔をこっちに向けてくる。その目は、私を見たり、そらしたり。


「クロ、なんて言ったの?」

「いえ……それは……」

『にゃおう!』

「分かりました言います! ちゃんと伝えます!」


 セイがクロに押されてる。


「……あ、あの……ですね……」


 セイはもう完全に私から目をそらし、顔を真っ赤にしたまま、ぼそぼそと説明し始める。


「クロさんが言うには、ですね……その、まず、僕が座って、……僕の足の間にナツキさんが座って……ナツキさんが、その、僕にもたれるようにして、僕が、……ナツキさんを後ろから、その、抱きしめるようにすれば……恋人っぽいだろうと……」

「……なるほどねぇ……」


 恥ずい。セイの気持ちが分かる。

 私はクロに顔を向けて、ゆっくりと説明する。


「あのね、クロ。私たちはね、本当の恋人じゃないし、そこまでする必要はないと思うんだよ。……てか、クロ。そういうのどこで知ったの」

『にゃ』

「えっ」


 セイが驚いた声を出した。


「なんて?」

「……以前に、ナツキさんが、家に呼んだ方にそうしているのを見た、と……」

「んえ?」


 驚いた顔をこっちに向けるセイに、私も同じ表情を向ける。


「前に……? いつ……? 誰と……?」

「いや、聞かれましても……」

『ンなぉ』


 そこにシロまでやって来た。棚の上にいたミケも、トン、と棚から降りて、こっちに顔を向ける。


「え、あ、え? 何人か? 人が来た、時に? ナツキさんがそのうちの一人の、その中で一番背の低い方に? そうしていた?」


 背の低い?


「あ、ユイちゃんのことかな」

「ユイちゃん、ですか」

「うん。会社の後輩でね、可愛い上に有能でね、あ、この子なんだけど」


 私は画像ファイルからそれを選び、セイに見せる。


「この子」


 見せたそれは、会社の同僚たちとこの家で呑み会をした時のもの。その時、最後に記念にと、解散前に集合写真を撮ったのだ。

 で、そこに写っていたのは、私がユイちゃんを、さっき言われていたような、抱いた状態のもので。


「二人用のソファにさ、最初四人で収まろうとしてね。けどやっぱ無理があったから、私がユイちゃんを膝に乗っけて、三人でなんとか座って、あ、ちょっと見切れてるこの人ね、この人に撮ってもらった訳なのよ」

「はぁ……」

『『『ニャア』』』


 説明してたら、今度は三匹同時に鳴いた。そしてセイが固まった。


「……今度はなにかな?」

「……き、のう……抱きしめあったんだから……今更だろうと……」

「……」


 まあ、一理ある、気もする。


「じゃあ、ミケ、クロ、シロ。勝負しよう」


 私は三匹に向き合って、人差し指をそっちに向けて、


「あっち向いてホイ」

「え」


 セイが驚く中、私は指を左へ向けた。けど、ミケは上を、シロは下を、クロは動かないで真正面を向いていた。


「あ、クロちょっとずるーい。けど全敗だ。しょうがない」


 私はセイへ顔を向けて、


「じゃ、やりますか」

「え」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る