Prussian Blue

白野椿己

プルシャン・ブルー

深夜1時半、寝なければいけないという思いと反比例するように冴えていく瞳。また明日も14時ぐらいにウツラウツラと舟を漕ぐことになりそうだな。

何をする訳でもなく椅子に座り直し、ぐっと後ろに伸びてからゆっくりと瞳を閉じる。ふぅーっと大きく息を吐いた、凄くしんどいという訳でもないけれど、なんとなく趣味で楽しく過ごす気にもなれない。

やる気という花だけが摘まれて無気力ばかりの花畑なんて、そんなのちっとも素敵じゃない。カチカチとマウスを動かして海の中の動画を検索した。

「クジラ、いいなぁ」

柔らかく深い青の部屋、シュワシュワと小さな泡が上へと昇っていく。大きくて穏やかな瞳と目が合ったような気がして少しだけドキリとした。

ゆっくりと漂うように静かな海でうずくまりたい。キラキラと差し込む小さくて無数の光の筋、目を細めて見上げる水面は宝石みたいに綺麗なんだろうな。

なんだか久しぶりに絵を描きたくなってくる。

クジラが身を寄せ合って優雅に泳いでいる姿を見ていると、永遠に時間が続いていくみたいだった。


今週末、大好きな親友が結婚する。

そしてあなたはまた1つ私の知らない人になっていく。他愛のない話で夜通し電話することも、予定もなく一緒に街を出歩くことも、計画もせずふらりと旅行に行くことも、何も気にせず好きな物を沢山食べることも、どんどん気軽に出来なくなっていく。

特別楽しい思い出でもない出来事たちが、どんどん泡になって消えていく気がした。

そして私は何も変わらないまま、仕事をしてなんとなく過ごして、何かに思いを馳せるだけ。深夜2時半、もう寝なければ。涙の海で泳ぐよりもクジラになってゆっくりと深海に潜って眠りにつきたい。


そんな空想を、プルシャンブルーの絵の具で塗りつぶした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Prussian Blue 白野椿己 @Tsubaki_kuran0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ