葬られた真実

「その後なんだ。悲しい出来事が起こったのは。」


自治会長は、一言一言噛み締めるように言った。


「お父さんの暴力は、その後もエスカレートして賢也君、君にも及ぶようになった。」


「お母さんは、それだけは何とか阻止しようと懸命に訴えた。」


「しかしお父さんは一切耳を貸さず、むしろお母さんを浮気者と罵り、殴り続けた。」


「そんな矢先、あの事件が起こった。お母さんはもう限界を越えていたんだよ。」


私はどうしてもその先が聞きたくて


自治会長の方へ身を乗り出した。


それを察した彼は、観念したように続けた。


「お父さんを、…包丁で刺してしまったんだ。」


『えっ?』


全く予想もしない答えに呆然とした。


「幸い軽症で、それほどの騒ぎにはならなかった。しかし… 。」


「既にその時、お母さんの精神は壊れてしまっていたのだよ。」


それから母は、警察の取り調べを受け


直ぐに精神病院へ送られた。


母も父と同じく精神を…。


その後は母の遠縁にあたる人が


世話をしているらしい。


父が私に話していた内容とは全く逆の


余りにも壮絶過ぎる母の人生だった。


私の心に人生で初めて


うっすらと灯火が点された気がした。


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