母の痕跡

父は、10年服役した後


精神病院でその余生を過ごした。


幼少の頃、彼と過ごしたあばら家は


長い間、


家人を待ち続けて朽ちていった。


それでも遺品などを整理するため


親族に立ち会って欲しいと


自治会の人から頼まれ


気が進まないながらもここにやってきた。


40年の時が流れていた。


家の中はあの頃とほとんど変わらなかった。


一年中置かれていた炬燵。


ほとんど使われることのなかった食器類


乱雑に置かれた衣類や生活用品。


それらを眺めながら


父の使っていた机に気付く。


仕事もろくにしていなかった彼には


酷く不釣り合いに見えたが


少し気になったので引き出しを開けてみた。


いつのものか分からない書類や


文房具に混じって一冊のノートを発見した。


端の方は折れ曲がり、とにかく古い。


表紙には何も書かれていない。


最初のページを捲る。


日付の後に何やら


ボールペンで記されている。


どうやら日記のようだ。


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