解き放たれた呪縛

あの後、父は逮捕され、


私は施設に引き取られた。


病室にいた男性は近所の民生委員。


以前から父はマークされ


定期的に付近をパトロール


してくれていたようだ。


あの朝、獣のような雄叫びを聞き


ただ事ではないと


警察を呼んでくれたのだ。


私は12才にして天涯孤独になり


施設へと送られた。


しかし、あの地獄の日々を思えば


全てが幸せだった。


中学、高校、そして奨学金で大学まで。


悪夢のような父の呪縛から


ようやく解き放たれたと思っていた。


超難関の国立大学を卒業し


私はいわゆる一流企業に勤める。


仕事は楽しく、懸命に励んだ。


お陰で同期の誰よりも出世は早く


五十の声を聞く前に


取締役にも選任された。


だが人間関係は乏しく


日々の挨拶と本当に軽い世間話のみ。


結婚もせず、友人の一人もいない生活を


数十年続けてきた。


それで良いと思っていた。


どこかの誰かと不本意な


生活をするくらいなら


一人でいた方がよい。


またあの悪夢のような生活が


もう二度とやってくるはずもないのに


私の身近にその気配を漂わせる。


このまま一生、


父の亡霊に悩まされるのか?


諦めかけた時、


彼が亡くなったとの一報が


突然、本当に突然舞い込んできた。


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