彼方に見えた光

その日も、父は朝から呑んでいた。


目は血走り、呂律も回っていない。


恐ろしく不機嫌であり


訳の分からない


罵詈雑言を繰り返していた。


私は逃げるように学校へ向かう、


はずだった。


焦りでつい転び、


父の酒を溢してしまったのだ。


怒りが臨界点に達した父の目は


人間の物ではなかった。


獲物に襲い掛かる野獣のように


私へ向かってきた。


そしてその首を力の限りで締め上げる。


恐怖は通り越し、酸欠も重なってか


私の意識は少しずつ失われていった。


“ ……気が付いたかい? ”


目を開けると見知らぬ男がいた。


父よりもかなり年上に見えた。


“ 怖かったろう。もう大丈夫だよ。”


一瞬なんの事かと思ったが


それを追い掛けるように


恐怖の瞬間が甦ってきた。


猛烈な悪寒。ガタガタと歯が鳴る。


“ 落ち着きなさい。もう心配はいらない。


君は助かったんだ。”


その男は私の手を握り、そう言った。


そして私は再び眠りに落ちていった。


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