第17話 幸せな街
「出店が多いな」
「そうですね。夜までこんなに賑やかなのは初めて見ました」
2人は現在、ペスティモンテ中央通りをゆったりと歩いている。あちこちから蝋燭やランプの明かりが漏れ、右を見ても左を見ても、酒を飲んで大騒ぎする客で溢れ返っている。
「カミラさんの地元には、こういうところは無かったんですか?」
「ああ。こんなに平和なのは無かったよ。ここは治安がいいんだな」
夜更けに1人で出歩いていたら変なのが釣れるのなんの。身体中からモクモクとクッサい煙を立たせて。下卑た視線を向けてくる輩には、お返しに目玉をくり抜いてやったりもしたっけ。
そんなことを繰り返していたら人が寄り付かなくなったなぁと、懐かしい気分に浸る。
しかしそれを遮る腹の音。
2人とも腹が減っている。
「どんなのが食べたい? 好きなところに連れて行ってやろう」
「お腹にたまればなんでも! 硬いパンじゃなければ最高です!」
欲の少ないウィルの注文に、私は少々困りながら店を物色する。賑わっているところなら間違いはないか? と適当に決めようとした時、喧騒から少し外れて、少女が呼び込みをしているのが目に留まった。
「少し行ってみよう」
「はい」
明かりも最小限で人もまばら。しかし客は入っているのが見て取れる。
「硬くないパンはあるか?」
「はい! ありますよ! どうぞこちらへ!」
少女に手を引かれ、静かな店内へ。
「おかーさん! お客さん連れてきた!」
「いらっしゃい! おや、一見さんかな?」
「ああ。安静にしてなきゃいけない連れが居るからな。混みすぎてなくて丁度いい」
お世辞にも広いとは言えない店内には、私たちを除いて3人の客。互いに顔見知りなのか、店主を巻き込んで笑顔で話している。
「こちらの席へどうぞ!」
「ありがとう」
ウィルをそっと降ろし、2人は小さな木の椅子に座る。
「メニューは、壁の木簡から選んでください!」
少女が笑顔、と言うよりかはドヤ顔で指さす壁。視線を向ければ、直ぐにその理由がわかった。
「白パンに、肉、野菜。それに魚まで? どうなってるんだここは?」
誰がどう見ても高級料理店では無い外観のクセして、メニューが豪華すぎる。いいとこの貴族の食事じゃないか。
「驚きましたか? この街じゃこれが普通なんですよ!」
曰く、1度ペストで滅んだ後、貴族たち上流階級のもの達は寄り付かなかったそう。それを好機と見た下級の商人や農民たちは、総出で街の復興に励み、今の
しかし、問題はそれからだった。
復興したと聞きつけるや否や、貴族が支配に掛かったのだ。幸い、この都市は城郭都市。守りには強い地形だった。さらに幸運が重なり、攻めてくる兵士たちの大半も、悪どいやり方に疑問を覚え、ペスティモンテ側は幾度も撃退。
結果、貴族たちに捨てられる形となって、今もこうして存在していると。
「この豊富な食料はね、近くに畑も酪農場も、海まであるから自給自足が出来てるのさ。町民の格差が少ないからこそ、みんな平等に飲み食いできるって訳さね」
「すごい……幸せな街ですね!」
「でしょー!」
少女は街が褒められてよほど嬉しかったのか、お盆を持ってクルクル回っている。
ただ、子供が呑気にはしゃいでいるところ悪いが、私には少し引っかかるところがあった。
「貴族がいないのなら何故聖騎士がいる? あいつらはどちらかと言えば貴族側だろう?」
「お客さん! 「あいつら」なんて言っちゃいけないよ! でもま、それはあたしたちも不思議でね。騎士様たちがやって来たのはつい最近のことで、最初は皆ビクビクしてたんだけど、なんでも治安維持だってことで、今では犯罪も減って有難い限りではあるんだよ」
この街に長く住む住人にも、それ以上のことは分からないらしい。別段侵略されてる訳でもなし、さらに治安を守って、権力を誇示するような態度も取らないと来た。
今では皆、頼りになる存在だと言う。
少々の疑問は残るが、注文していた『おすすめ』が届いたことで興味は失せた。
バスケットいっぱいの白パンに、肉と野菜がゴロゴロ入ったシチュー。大きなソーセージが並んだ熱々の鉄板まで付いて銀貨3枚なのだから驚きだ。それに私は赤ワインを。ウィルは果実水を付けてもらった。
私は久しぶりの、ウィルは初めてのご馳走に舌鼓を打ち、夜は更けていった。
帰り道、下品なオヤジに絡まれたりもしたが、そんなことはどうでも良くなるくらい、気分のいい夜だった。
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