第16話 吸血鬼②

「5家というのはなんですか?」

 

 さっきから話の途中にちょくちょく出てくる『5家』やら『5大家』

 その2つは同意義で、ローウェンはカミラを5家筆頭と言っていた。

 

「ま、簡単に言やあ貴族制みたいなもん……だよな?」

 

 ローウェンも全てを知っている訳では無いらしく、語り部はカミラへと移る。

 

「ああ。始祖たる『ツェペシュ』

 そしてその兄弟だった『エルジェーベト』『パウル』『ヘイグ』『ハールマン』

 人間の言葉を借りるなら、この5つの家が吸血鬼社会のトップだ。その下にわらわらといる分家を束ねる役割があるらしいが、そんなの名ばかりだな」

 

 カミラの話によると、吸血鬼にはまともな協調性がないのだから、誰が上だの、誰が下だのを決めても殆ど意味が無いらしい。結局は力比べ。個人の能力に寄るのだとか。

 

「律儀に守ろうとするやつなんて、5家本人かそれの利権にあやかりたいだけのやつらだろうな」

「その内容だと、お前は保守的立場にいるという事か?」

「さあ?どうだろうな。私は大切なものだけ守れればいいし、それ以外ははっきり言ってどうでもいい。それに、5家が崩壊しようとも、結局は強いやつが上に立つんだ。なら私があぶれることは有り得ない」

 

 この慢心とも取れる発言に、その場にいた男衆は目を丸くする。

 

「いや、随分と……自信があるようじゃないか。昨晩あっさりと十字架に囚われていたのに」

「あれは傍に守るものがあったからな」

 

 私は瞬きをする間も与えず、ウィルを抱き上げ自分の膝に座らせる。ゆっくりと頭を撫で、自分のせいで、とも思わせない徹底ぶりだ。

 

「えっと……因みに、もし僕があそこにいなかったら?」

「ん?決まっているだろう。腕でも脚でも無理矢理ちぎって、全部消し飛ばしてたよ」

 

 その発言は、今まで教会と、それによりもたらされた十字架の力を頼りにしてきたローランには信じ難いものだった。無意識に首元のチェーンを掴む。

 

「そうだ。無駄だとは思うが一応忠告だ。それ十字架、あまり過信しない方がいいぞ。まともに効くのは精々分家の下の方……もしかしたら野良だけかもな!」

 

 私の煽るような口調に、ローウェンは堪らず噛み付く。

 

「そんなわけが無い!今まで何回も何回もこれに助けられてきた!毎月の点検だって欠かしていないし、教祖様お墨付きだ!」

「そうかそうか!何度も助けられたか!良かったじゃないか。今まで出会ったのが雑魚で」

 

 今まで化け物を数多く倒してきて、順風満帆な人生を送ってきたのだろう。少し遊んでやっただけで、まるで熟れたトマトだ。

 ローウェンは思い切りテーブルを叩き、「外の風に当たってくる」と言って出ていった。

 

「あの……何もあそこまで言わなくても。もう少し仲良くとか」

「無理無理。どこまで行ったって奴らとは敵同士なんだ。私もアイツを信用してないし、向こうも私を信用してない。ほら、監視まで付けてるのがいい例だろ?」

 

 僕としては、カミラさんが吸血鬼だからというのではなくて、内面を見て判断してもらいたいんだけどな。本当は優しい人なのに。

 

 ウィルにとっては、見ず知らずだったのに世話をしてくれて、命の危機に犯されながらも守ってくれて。

 カミラの優しさを再確認すると共に、それが他者へ伝わらない悔しさも湧き上がってくる。

 

「さ! どうでもいいことは忘れて、邪魔者は消えたんだ。夜の街に繰り出そうじゃないか!」

「え? でもさっき大人しく待っとけって」

「いいんだよそんなの。向こうが勝手にいなくなったんだから。私に汚いケツを拭いてやる義理なんか無いよ」

 

 私は地味でくたびれた感じの服に着替え、ウィルを抱え直し、宿泊していた病院を出る。話している最中に軽食は採っていたが、2人とも足りていなかったので、繁華街と思しき場所へ向かって行く。

 

「怪我はどうだ?痛まないか?」

「はい。大丈夫です。びっくりするくらい揺れないので」

「はははっそうだろうそうだろう!」

 

 先程とは打って変わってご機嫌なカミラは、軽い足取りで夜道を歩く。

 ウィルもそんなカミラを見て、少しほっとした様子で寄りかかった。

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