第13話 聖騎士
クソッ!
油断した 油断した 油断した!
ウィルは、ウィルは無事なのか!?
あと少し、ほんの少しでいいから右を……
カミラは変わらない表情の裏で激昂する。近づいてくる
「カミラと言ったな。顔だけ解放してやるから、大人しくしていろよ」
十字架の首飾りを持っていた男は、それを私の顔の前に持ってくると、十字架と顔の間をスッと手で一瞬遮る。
「ウィルをさっさと治療しやがれクソ野郎!!」
開口一番、自分では無く他人の心配が飛び出し、困惑する聖騎士たち。
「お前はこの状況を分かって言っているのか?」
「分かってるに決まってんだろ!あの子にもしもの事があってみろ。この国から人間を1人残らず消し飛ばしてやる」
「フッ、そんなことさせるとでも?」
「ああ。なんなら今すぐやってやろうか?クソ野郎」
どうもこの女はやりかねない。そう判断した聖騎士は1人をウィルの方へ向かわせる。
「色々と聞きたいことがあってな。ちゃんとした治療はそれからだ」
「ならさっさと済ませろ。あの子に傷1つ残すなよ?」
「はいはい分かった分かった」
聖騎士はカミラの脅しを気にも留めず、ポーチからペンと紙束を取りだした。
「まず1つ。お前は吸血鬼で間違いないな?」
「ああ」
「野良か?」
「ハッ!私が野良に見えんなら、お前の頭に詰まってんのは生ゴミだな!」
「威勢がいいのは結構。だが、大切な坊やが死んでも知らんぞ?」
「チッ」
聖騎士が書いているのは報告書か?だとしたら、知らない間に私達と人間の関係はかなり変わっているらしい。以前なら、どんな卑怯な手を使っても、即殺しに来たというのに。
「次。どこの家の者だ?野良でないというのなら、何かしら証明出来るものくらい持っているだろう?」
「ツェペシュ。左の胸襟の裏に家紋がある。それ以上は無い」
「……ほう。確かに」
聖騎士はドレスの胸襟を掴んで乱雑に引っ張る。カミラの動きについてこられるよう、かなり丈夫な生地を使っているため、破れこそしないものの、デリカシーの無い金属篭手が胸に当たっている。動けるのなら、グチャグチャに引き裂いて野犬にでも喰わせてやるところだ。
「……これが本物だという証拠は?」
「それは、ツェペシュが野良如きに遅れを取ったと言いたいのか?」
「おっと、すまんな忘れてくれ」
私は、聖騎士の謝る気の無い態度にますます腹を立てるも、視界の端で抱えられているウィルの為にも耐える。
全て終わったら覚悟しておけよクソ共が
「最後だ。随分大切にしているようだが、あの子供と、あとお前に襲われたという男とはどういう関係だ?」
「ウィル、ウィリアムは、南にある村がゾンビに襲われていたから助けた。それで、そっちの薄汚いのが盗賊だ。襲われたのは私達の方だよ」
「……それだけ?」
「なんだ?文句でもあるのか?」
カミラの返答に納得いかないのか、聖騎士は鉄兜の上からガシャガシャと頭を搔く。
「あの子供は、
「知るか。助けたくなったから助けた。それ以外に理由がいるか?」
聖騎士は暫く、視線だけで人を殺せそうなカミラの顔を眺めた後、紙とペンをクシャッとポーチヘ突っ込んだ。
「今から枷付きで解放してやるから、くれぐれも暴れてくれるなよ? まあ、並の吸血鬼じゃ枷がある時点で大した力も使えんが」
聖騎士はもう1人を呼び、腰に着いた黒く大きい手枷をカミラの両腕に嵌めさせる。これがある以上、カミラは見た目通りのただの美女になるはずだったが
「こんなもので私を制御しようだと?随分と舐められたものだな」
「あーあー、だろうなあ。お前ら5大家の奴らからしたら、ただの輪っか同然だろ?だがいいか?これが人間社会のルールだ。ウィリアムとか言う小僧が大事なら、それくらいの事は守れ」
皮肉にも、聖騎士の言っていることは正しい。
ウィルには出来るだけ血生臭い世界とは関わらずに生きてもらいたいし、
ウィルの治療も、カードの手がかりも消し飛ばす訳にはいかないのだ。だから、苦汁をなめる思いだが、仕方なく嵌められてやった。
聖騎士が十字架をしまえば、鉄に埋められていたように重く動かなかった体が一気に軽くなる。
「ウィル!大丈夫か?生きているな?怪我はどうだ?」
「気絶しているだけだ。何本か骨は折れているが、若い事だしすぐに治るさ」
「さっさと医者を寄越せ!」
「ああ。今から行くんだよ。俺が御者してやるからさっさと馬車に乗れ」
この場は大人しく言うことを聞くしかあるまい。
私はそっとウィルを抱き抱え、空気すら揺らさないように馬車へと飛び乗る。
「さっさとしろ!ノロマ!」
「口悪すぎるだろさっきから。見た目とのギャップどうなってんだ」
聖騎士の1人は呆れたように兜を脱ぎ、よっこらせと御者台へ上がる。もう1人はと言うと、存在感が消えかかっていた本物の盗賊の拘束しているところだった。
「おい。
「ん?ああ盗賊という事で確定だろうし、暫くは牢屋暮らしになるだろうな。大方興味があるのはその後だろうが、拷問にかけてアジトの場所やら仲間やら、諸々抜き去ったあとは処刑だな。私に殺させろー、とか言われても無理だぞ?」
「いやいい。人間の殺し方は残酷だからな。私達でもそこまではしないぞ。だが今回ばかりは気に入った。散々痛めつけてやれ」
カラカラとゆっくりと進む馬車の脇、盗賊の男が絶望なんて言葉が生ぬるい表情をしているのが小気味よい。
私は一瞥睨みつけてやってから、目的の街、ペスティモンテへと入っていった。
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