第10話 先暗い旅路

「死ぬ、かと、思った……」

 

 大木から飛び降り、カミラの腕から開放されたウィルは、どさりと地面に抱きつく。

 

「そんな大袈裟な。あの程度の高さから落ちたところで……ん?」

 

 人間は死ぬんだっけ?でもなんか高いところから飛び降りても平気な動物が……猫と混ざってる?

 

「ま、まあ無事だったんだからいいじゃないか!」

「いや!いやいやいや!無事とかそんな話の前に、さっきのアレなんなんですか!?すっごい……こう、空飛んでましたよ!?」

「別に飛んでないが。そうだな、私は人間じゃない。でも危害を加えようとは思ってないから安心するといい」

「え、あ、はい」

 

 実の所、カミラがただの人では無いというのは、ウィルは何となく感じ取っていた。

 だってそうだろう?化け物が沢山うろつく村から無傷で助けてくれたし、こんなド田舎には不釣り合いな、何かすっごい高そうなドレス着てるし。

 さっき空を跳んだことで確信できていた。

 

 それでもやっぱり、自分が何なのか、教えてはくれないんだよなぁ。

 

 何か意図があるのか。はたまた子供だからと見くびられているのか。後者だとしたら中々不愉快だが、本人が語ろうとしないのなら踏み込んではいけない。

 

 僕は大人だからァ!それくらい察せられるんだ!

 

「さ、もう地面とのハグはいいだろう?日が昇る前にさっさと進もう」

「あ、はい!」

 

 幾ら怖――驚いたからって、みっともない姿を晒しすぎた。

 ウィルは服に着いた土やら草やらを払い、先を行くカミラの背を追いかける。

 

「あの、さっきみたいに跳んだりはしないんですか?」

「なんだ?もう1回跳びたかったか?」

「い、いえいえ!全く!地に足つけて歩くって素晴らしいですよねー!」

「ふっ、安心しろ。あんなの何回もやってたら疲れるし、そもそも目立つからな。普段はしないよ」

 

 じゃあなんでさっきは?と聞きたかったがやめにした。なんかバカにされそうだなと、そんな勘が働いたからだ。

 

「ほら、キビキビ歩けー。あんまり遅いと置いてくぞー」

「ぐっ、はーい!」

 

 そうだ。僕にはもう何もしなくても守ってくれる人はいないんだ。迷惑にならないように、しっかりしないと。

 

「それで、ペスティモンテまではどれくらいかかるんだ?」

「ああそれでしたら――」

 

 2人の他愛ない会話は、風や森の声によってかき消される。

 これからの旅が平和になりそうで――

 

「おいあれ、随分な上玉じゃねえか?」

「……確かに。から逃げ出してきた姉弟ってとこか?髪色も同じだしな」

「ふーんで?どうするよ?」

「何、決まってんだろ?」

 

 始まったばかりだと言うのに、どうやら平和にはならなそうだ。

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