第7話 謎
カミラと未だ意識の戻らないウィリアムは、薄い月明かりの元、村からほど近い川に足を運んだ。
目的は、父親が生きているのならウィリアムの返還と、血肉に汚れ何が書いてあるか分からないカードの洗浄だ。
カミラは川に落ちないよう、ゆっくりと水際に近寄り、カードを手ごと、そのまま水面へと突っ込む。
「はぁ。しかし何故あんな事に?今どきゾンビ騒ぎなんて珍しい」
カミラの独り言は、誰が答えるでもなく、水が無へと流し去る。ただ、口に出してみて少々の違和感を覚えることがある。それは、このカードがどういう経緯で女の頭の中に入り込んだのかという事だ。ゾンビ化したところに都合よく入り込んだのならまだしも、カードが原因でゾンビ化した可能性も捨てきれない訳で
「お祖母様のやりそうなこと、ではあるな」
色々と考えは浮かぶが、本人が居ないのでは確認のしようも無い。カミラは意識を切りかえ、もう綺麗になったろう、川から手を引き上げる。
さて、カードの裏は、あのゾンビにも浮かび上がっていた紋様が。そして肝心の表には
「黒死の街……それと、エルジェーベトの家紋?」
てっきり弱点を消すための道具か材料かが書かれていると思ったが、これはどういう事だろうか。『黒死の街』というのもアレだが、それ以上に何故エルジェーベト家の家紋があるのか?
これはカミラの祖母、ヴィクセン・ツェペシュが始めたことだ。ならば、ツェペシュの家紋があるのが普通なのでは無いのか?
「うーん。1枚目、には何が書いてあったんだろう……というかそもそも、今誰が持ってるかも知らないのよねー」
あの広間での騒ぎが起きたあと、どうなったのか私は知らない。いきなり乱闘騒ぎになるもんだから、手近な
「あーあ、出遅れもいいところね!」
「ゴホッ、エ゙ホッ!……」
あ、起きた
「体調はどう?ウィリアム」
悪夢でも見たのか飛び起きた少年は、カミラの声が耳に入らなかったようで、忙しなく首を回している。
「そんなに心配しなくても、ここは安全よ」
「母さ、みんなは!?村に化け物が出て、父さんも母さんも僕を守ろうとして!それで――」
カミラは慌てふためく少年の頭にポンと手を置く。そして告げるのだ。残酷にも
「済まない。君のお母さんは、私が殺した」
「……あ、ああ。ア゙ア゙ア゙ーー!!……」
殴りかかってくるくらいの予想はしていたが、意外にも少年は聡いのか、それともただ勇気が無いだけか。ただ私にしがみついて、声を上げ泣くことしかしなかった。
ウィリアム……ウィル、か。
この少年にはおかしな感情が湧き上がる。どこにでもいる普通の人間のはずなのに、何故だか大切に思えて。恋とも違うこの感情は、何だろう。不思議だ。
「もう落ち着いたか?」
「はい。すみませ、あ……助けてくれてありがとうございました」
少年が目覚めてから小一時間ほど、彼は目が真っ赤になるまで泣き続けた。それで今は、顔を川に突っ込んでいる。
「おい……あんまり出すぎると落ちるぞ?川に流されたら私、助けに行けないからな?」
「ぷはっ!大丈夫です。この辺りは浅いですし、流れも遅いので」
驚いた。さっきまであんなに泣きじゃくっていたのに、もうスッキリした顔をしている。彼なりに切り替えが出来たということか?
私の口から「大丈夫なのか?」と出かけるも、咄嗟にそれを飲み込む。本人があの調子なら、わざわざ他人が出しゃばるものでもないのだろう。
「あ!そうだ。お姉さん、さっきも言いましたけど、助けてくれて本当にありがとうございます。それで、なんで僕たちの村に?」
「捜し物だ。……このカードなんだが、見覚えは無いか?」
「う、うーん。無い……と思いますけど、ずいぶん高そうな紙?ですね?」
そりゃそうだ。そこいらの少年が見たことあるはずも無し。当面は『黒死の街』というのを調べ歩くことになりそ――
「でも、この『黒死の街』って言うのは知ってますよ!」
「え!?」
「僕が生まれる前くらいだったらしいんですけど、父さんが話してました。ここよりずっと北に、病気で滅んだ街があるって」
「そっ、それが『黒死の街』なのか!?」
「『黒死の街』というか、『
乗り越えた?1度滅んでいるのに?まあいい。次のカードの手がかりを見つけたかもしれないのだ。
カミラはウィルに見られているのもお構い無しに、喜びを露わにする。
あれ?かっこいいお姉さんかと思ってたけど、実は違う?
ウィルの抱いたカミラへの第一印象が崩れかけたのはまだ内緒
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