第4話 崩れ去る平和
なだらかな大地。干し草や家畜たちの匂いが混じった風。
村の他の子たちは『くさい、ダサい、つまらない』と言うけれど、僕は案外気に入っている。
「ウィルー!水汲んできてくれー!」
「分かったー!今行くー!」
これは何でもない、名前すらない極々小さな村に住んでいる、1人の男の子が体験した出来事
「こっちの家は、魚かな?こっちはー、肉だ!」
少年の住まう村は裕福では無かった。
だが、時折巡回してくる商人や村の大人たち、そんな彼らのお陰で食うに困ると言ったほどでは無い。が
「父さん!水汲んできた!今日の夕飯は……」
「あーいやすまんなー。ちょっと失敗しちまって」
芋、芋のスープ、パン、水……
「芋、ずくめ……となりはお肉食べてる、のに」
「だから悪かったって!こう、な?銃向けた途端何かに気づいたみたいに逃げられちまって。何かがいたなら追いかけられんだろう?な?」
とまぁ、たまにはこんな日もある訳で、それでも僕は、こんな多少の不自由込でこの村が好きだった。
だけど、最近変なことが起き始めている。
「うーん。また、か」
「あなたこれお弁当……って、またなの?」
「さては父さん、お仕事中に居眠りしたでしょ?」
「は!?いやまさかまさか!する訳がないだろ!」
全力で否定する父に対し、僕と母は疑いの目を向ける。
なんと言っても目の前のこの有り様、獣に食い荒らされたとしか見えない畑がそれを物語っている。
「ほんとーにー?」
「ああ当たり前だ!大切な食料を守るためなんだぞ?そんなに疑うなら昨晩一緒に警備したマックに聞いてみるといい!」
ああそうか。昨日は父さんの他にもマックさんもいたのか。
「ならいいや。きっと真面目に働いてたんだね」
「お、おいこらウィル。何故マックの名前を出した途端に」
「え?そりゃ――」
「あなたと違って真面目だからですよ?ねえジョン?」
母さんの声色が冷たい。さては何かやらかしたなと、僕は母が親指で指さす方へと目を向けた。
そこには無造作に脱ぎ捨てられた靴下と、泥?らしきものが床に落ちていた。
「いやいやいや!俺じゃないぞ!いや、確かに靴下はそうだが、泥がつくようなことなんて何も!」
「はいはい。言い訳は掃除が終わってから聞きますよ。あ、洗濯は全部自分でやって下さいね」
静かに怒る母親の怖いこと怖いこと。
ウィルは半分ばかりの同情が籠った目で連れていかれる父を見送った後、何とも言えない有様となってしまった畑に向き直る。
「何処から忍び込んだんだろうか?あの真面目人間のマックさんがいたんだ。こんなになるまで気が付かない方がおかしいし……足跡は、無さそう?」
となるとネズミ?はたまた鳥か?
足跡が見つからず、かつ警備を掻い潜って畑を食い荒らす。
この事件は、ウィルの少年心に火をつけたと言っても差し障りのないものだった。
「よし!
母さん父さん!今日お昼いらない!ちょっと冒険してくるー!」
「あ……全くそそっかしい子ね」
「全くだ!誰に似たんだか」
この時の母の心情は、いいか。
因みに、駆けるウィルには『スパーンッ!』と景気の良い音が聞こえたとか何とか。
さて!
飛び出したはいいものの、何をしようか。
取り敢えず、畑に罠を置くことは決定。
しかし夜に荒らされたのだ。昼にまたやってくるとも考えにくい。
ウィルが小さな頭を悩ませること数分、突然すっくと立ち上がった。
「何か!」
何かとは何か。それはウィル自身もわかっていない。
ただ、昨日父が獲物を仕留め損ねたのは、「獲物が何かに気づいたから」だと言っていた。
「もしかしたら、見たことない動物がいるかも!そしたら商人さんに売って、お金を沢山貰って!沢山美味しいものを買って!」
妄想は始めたらキリが無い。
ウィルはペちんと自分の頬を叩き、森へ向かって駆ける。
父には危ないから1人で行くなと言われている森。
だがしかし、少年の好奇心の防波堤となるには、それは余りにも弱すぎた。
少年は駆ける。
薄暗い森へ、1歩、また1歩と
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