第6話
「温めてくれない?」
その言葉に男は戸惑った。
このままだと、彼女を犯してしまいかねない――しかし、それは――
分かっていた。
そもそも、こんな世界で、こんな遭遇など滅多になかった――いや、滅多にあり得ないことでもあった――
いや、それは自分の声に過ぎず、彼女の心内を理解できるわけでもなかった――
だからこそ――男は自分への誘惑に負け彼女に手を伸ばし――背へ腕を伸ばした。その瞬間彼女は、声を震わせ涙を流し始めた。
「どうしてかわからなかった――だって、なんでこんなことをしているのかも分からないの……とても寂しくて、寂しくて――もう一人ぼっちなんだって思いながら生きてきたのに、君が居たから――もう離れたくない、もう一人は嫌……けど誰かと一緒にいるのも、今までの、今まで大切に保っていた何かが壊れそうで――初めての感覚なんだ、君に……君の……今だけで、たった一瞬だけでもあともう少しでいい、君の温もりと香りが欲しい」
「一瞬だけで良いのかい?」
その言葉は堪え難く、耐え難い苦痛に変わり、そして涙となってあふれた――
「嫌だ――できるだけ、できるだけずっと、でもずっとは無理だって知ってる――だから――だから――君のが……君のを私に注いで欲しい――君とずっと離れていても、この味は忘れることはできないだろう?――この想い出でこの後の寂しさを埋めるから、だから――君に――抱いて――」
それから、瞳を閉じると開こうとはしなかった――ただ、温もりが唇に触れる生暖かいその感触が生々しくも背中をこそばゆく這って、ただその恐怖と、好奇心と、寂しさに全てが詰まって、ただ、ただ力強く離さないように自分から進んで抱擁を外さなかった――
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