第5話

「ごめん」

「い、いや……こちらこそ、なんていうか申し訳ない……」

「同じ言葉なんだね」

「ここは故郷なんだ……祖父の」


 と、首から下げた何かを握って「ふーん……まあそれでも、十分奇跡だよ、コーヒーだけど大丈夫?」と、缶コーヒーを差し出すと、彼は笑顔で「好き嫌いはしないタイプだ」と答えるので、おかしくなって吹き出した。


「あはは……贅沢なんだね」

「ど、どういう事だい?」


 困惑する彼に、ひとしきり笑うとその余韻を残しながらも説明する。


「こんな時に、好き嫌いなんて事考える人は少ないって意味……生きるために、必死過ぎて嫌いなものとか考えてこなかったんだ」

「それは……ごめん……」

「いいんだ……君の心が豊かな証だよ」


 そうして、夜が更けるまで彼と話し合った――


「なあ、君はいくつなんだい?」

「ん?私は分からない……そもそもそう言うのは気にしたことがないかな、君は自分がいくつなのか分かるのかい?」

「僕は18だ……君は見た感じ僕よりも若そうだ」

「それは嫌だなあ、私は誰よりも上にいたいからね」

「強欲だなあ……」


「寝ないのかい?」

「今夜は星が見えやすいんだ……」

「星を観察してるの?」

「うん……」

「将来は学者か何かかい?」

「冗談が上手いなあ、好きなんだよ……夜空が」

「月が綺麗ってね」

「月があったら……そう言ってただろうね」


「ねえ、一緒に寝ないの?」

「そんなバカな事言ってないでさ――」

「あのさ……このずっと寒い時期……昔は冬って言っていたらしいよ」

「まだあの時のままだったら、夏の季節だったろうね」

「ねえ――」

「な――!?」


 しつこく話しかけてくる彼女の声に彼は、寝返りを打って振り返る――と彼は驚いた顔をして固まっていた……。

 そこには、女が一人、今日初めて会って色々と打ち解けてきた女が裸で、横たわっているからで――


 分厚い寝袋を開く形で、見えてはいけないものが全て見えている――

 足の方を見ると、脱げ切らずまるで足枷のようにして衣服が下げられており、また上半身は何も着ずにさらけ出している。


「温めてくれない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る