第6話
『こんなものかな』
「結構書き込みましたねえ」
○犯人は“殺人鬼”と呼称される
・実行犯A、実行犯B⇒いずれも仮名
・実行犯Aは人格チップを破壊する襲撃犯
・実行犯Bは政治家(特に名のある重役)の素体を破壊する襲撃犯
・実行犯A、Bは同一人物の可能性(まだ定かではない)
※以下はどちらか分からないので両名『殺人鬼』と仮称
・望月現世は何者かにより生身が殺害
→しかし、素体がカプセルから出る条件として
-管理者が直に実行プログラムを起動する必要がある
-必ず生体保存プロトコルの認可パスコードを5名以上の一級管理者から得なければいけない
-その一週間前に7つの認可申請を行わなければならない
⇒加えて、生身の素体がカプセルから出たとして、すぐ歩行したりはできない
→何ものかによって、望月現世が連れてこられた可能性アリ
・彼女は自殺に見せかけた他殺→頸動脈が刺され死亡
→刃物の所持は規制がかけられている→義体には犯罪ができない→では第三者の素体による犯行→違法の賭博場であれば“可能性アリ”
・監視カメラの映像はサブも含めて改ざんされている→ハックは確定
・翌日、何者かが留守中に事務所に侵入しブラックボックスを床下に隠す→ブラックボックスの中には紙が入っており――人間としての正解を問う――と書かれてある
・殺人鬼はこの国の中枢部を出入りできる存在と推測
・公安:中星智郷と接触、彼が事務所を出た後に資料部屋から耳が発見
「しかし、こう見るとますます分からなくなりますよ、敵の正体が」
「そうだな……まあ少し、喫茶店に行って考えよう、あそこならいくらでも煙草が吸える」
「先生禁煙したんじゃないんですかい?」
「考えてもみろ、VRなら肺は汚れんし、汚れたとて取り換えればいい」
「不健康ですねえ」
瞬間、二人の義体はまるで電源が落ちたかのように、その場に項垂れた。
――視界が白黒に彩られるや直ぐにセピア調の景色へと色が付き、段々と鮮やかになってゆく。
「先生、いいですねえその服――」
「そうかぁ? というかなんなんだいその体は……」
星屑弥生は、義体姿とほぼ変わらぬ体躯であったものの、シャツにパンツと、最近気に入っている23世紀調の服装に対して、猿山は体からして違っていた。
「別に、事務所的に恰好自体は好き勝手にしてもらって構わないとは言ったけれど、獣人は流石に自重したらどうなんだい」
「でもこれで気分は上がりますよ?」
「君個人の話をしているわけじゃない、僕が気に入らないってだけさ」
「先生が何といおうと、自分は自分の好きな恰好しますよ」
「まあいいけども……」
実に複雑な気分のまま、星屑弥生は助手を連れて、いつもの喫茶店に入るやコーヒーを頼む。「いつもの」で通じるわけないのに、彼はそう言って、いつもお気に入りの彼女を困らせる。
「馬鹿みたいなことはよせと言ってるだろう」
「いいじゃないすか、確認ですよ」
「君はいつも逃げられてるらしいが納得だよ」
「げっ、そんな酷い」
「酷いのは君の残念な価値観だよ」
星屑弥生の探偵録 蜜柑 猫 @Kudamonokago_mikan-neko
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