魔都へ

第35話 魔王の覚悟

魔王城に勇者が最後の砦を超えた事が魔王ルイーサに報告された。


「そうか、わかった。下がってよい」

「失礼いたします」


報告に来た伝令が居なくなったのを確認すると


「ねえねえ、ついに勇者がきちゃうよ、どうしよう」


ルイーサは慌てるのだった。


「どうするも何も、ご自分で言ったのですから戦ってください」

「わかっているけど、やっぱり戦うのは嫌だよ、痛いし」

「だったら、なぜ兵を引かせたのですが。せめて近衛隊が戦っても良かったのでは?」

「だって、兵の数はかなり減っちゃったて、これが原因で民の支持さがってるし。

それに、民は戦を早く終わらせてほしいみたいだから、わたしが負ければって思ったから……」

「勝つ前提でなくて、負ける前提ですか……」

「だって、パパが勝てなかったのに、わたしが勝てると思う?」

「先代の魔王様は戦いに負けたのでなく、スキルで魅了されたので。

それが無ければ勝っておりました」

「でも、魅了のスキルって近づかないと使えないんでしょ?

近づけたって事は、勇者が強いって事で、普通に戦っても負けたんじゃないの?」

「普通に戦ったら、こちらが勝っていました。ただ、勝てると思い油断して隙が出来たのは確かですが……」

「結局、パパが悪いじゃん」

「……結果的にはそうなりますね」


側近のブルーナはため息をつく。

ルイーサは統治者としては有能であると言えるが、魔王として優しすぎる。

人間ならば歴史に残る名君となるが、魔王として見たら失格と言ってもいい。

ただ、これはルイーサもわかっていて、魔王としての威厳を見せるために

ほぼ壊滅状態の軍を引かせて、直接勇者と戦うと決めたのであった。


 ただ、決めたのは良いものの、やはり戦うのは苦手。

魔王だけあり、戦えばかなりの強さであるのは間違なく、勇者たちを倒せる事も出来る。

ただ、戦いが嫌いな性格なので戦いを避けたいと思っている。


「そうだ、和睦を結ぶのはどうかな?」

「結ぶのに失敗したから勇者が来たのです。勇者が来たという事は、もう話し合いの余地はありません」

「そ、そうだよね……。やっぱり、戦うしかないよね……」


勇者が来たという事は、人間側は話し合いを拒否した証。

つまり、今となっては和睦を結ぶ事は不可能である。

ルイーサはため息をつくが、戦う事になった以上はしっかり戦う事を決めた。


「勇者たちが来るのは何時になるのかな?」

「早ければ2日後ですね」

「2日後ってはやくない?」

「勇者たちが使っているのは高速車のなので、それぐらいで着きます」

「ああ、それじゃ早いか……。普通の車だったら、4,5日あるから少しは心の準備が出来たのに」


ルイーサは再びため息をついた。


「都についたらわたくしが出迎えます。そして、1日か2日は色々理由をつけて

足止めしますのでその間に覚悟を決めてください」

「わ、わかった。勝っても負けても、これで戦が終わるんだから覚悟を決めるね!」

「そうですね、覚悟を決めて散ってください」

「ちょ、ブルーナ、何で死ぬ前提なの!?」

「これは出陣前の武人に言う応援の言葉なのです」

「そうか、わかった!わたし、がんばるね!」

「その意気です」


ブルーナはルイーサを鼓舞させるが、もちろん武人にかける言葉というのは嘘である。

ただ、あまりにも簡単に信じて呆れてもいるが、やる気を出しているのでそのままにしておく。


「戦いに慣れれるのは良いのですが、装備の点検をしておきましょ」

「装備って……あの恰好をするの?」

「はい、戦いの時の装備ですので」

「ほ、本当にあの恰好をしないと駄目なの?」

「はい、戦いでの正装ですので」

「前から思うんだけど、あれ本当に正装なの?」

「正装と言ったら正装です。実際に過去に2人いた女性の魔王が身につけてました」

「でも、女性魔王の時は人間はもちろん、魔族同士でも戦はなかったんじゃ……」


ルイーサの指摘にブルーナは少し怯んだが、戦争はなかったが公式行儀や

や儀式の時に使っていた事は事実なので慌てず答える。


「公式行儀や儀式の時のも使用た物です。由緒正しい衣装なのです」

「た、確かに、即位の時にも着たけど……人間の女王の即位に呼ばれた時

あんな恥ずかしい恰好をしてなかったけど……」

「いわゆる文化の違いです」


人間との関係が良好だっ時、王国の女王の即位に来賓として呼ばたことがあった。

ルイーサはその時の衣装を思い出したが、ブルーナは文化の違いと言って誤魔化した。


「とにかく、装備を合わせましょう。最近、お身体が一層いやらし……立派に

なりましたので、サイズ合わせをしないといけませんので」

「わかったよ……」


ルイーサも諦めて、サイズをあわせるため奥へ行く。


奥に行くと、侍女を読んで装備を合わせる。

装備と言ってもさっきからルイーサが恥ずかしいと言っているが、かなり露出が多い装備……というよりも、衣装である。

いわば、ワンピースの水着と言ってもいい様な恰好であるが、これが正装となっている。

なぜ、こんな物が正装になったかは、詳しい記録が残っていないが初代の女性魔王が

淫魔族の系統だったためで、国民を魅了する効果があった言われている。

ただ、現在のルイーサの衣装にはこの効果はない。


「うー、着れたけど色々きつくて、動いたら破れてるよ」

「むしろ破れ……いえ、破れても魔力で直せますし、サイズも調整可能です」

「だったら、早くサイズを合わせてよ。あと、これにマントをつけたら……変な人っぽいけど……」

「そのマントは魔王の印です。それが無ければその衣装の威厳はほぼないです」

「つまり……マントがあれば衣装はどれでもいんじゃ……」

「いえ、その衣装とマントがあって初めて完全な正装となるのです!」


ルイーサに力強く言うが、押せば納得するのを知っているためである。


「わ、わかったよ……。魔力の効果で全身に防御力があるとはいえ、露出ははずかしいよ」

「露出といっても、手足がでているだけです。後、胸がちょっと露になっていますが

これぐらい、どうってことありません」


ルイーサの豊満のバストの谷間だけではなく、先端以外がほぼ見えてると言っても

いいぐらいであるが、本来はもっと隠れていたのをブルーナの趣味でこうなった。


「こ、こんな胸がでたら、激しく動いた時にでちゃわない?」

「それも狙いです。男ならそれでイチコロです!」

「でも、男の勇者は若い男1人だけみたいだし」

「若い男だからこそですよ!」


ブルーナが力強くいうので、ルイーサは納得しかけたがやはり胸を見られるのは

恥ずかしいと譲らず、もっと覆い隠さないと戦うのを拒否すると拗ねたのであった。

素直過ぎると言ってもいいぐらいのルイーサが拗ねるのは余ほどの事なので、こう

なったら流石のブルーナも引くしかなかった。


「わかりました。これでどうですか」


露になった胸の半分が隠れたが、ルイーサとしてもこれでも露出しすぎと思ったが

再び、ブルーナに押されて納得させられたのであった。


「これでよいですね」

「本当はまだよくないけど……仕方がないかな」

「本番の時に魔王らしい威厳を出してください」

「わ、わかった」

「あと、明日と明後日は少し戦いの訓練をしておきましょう」

「最近、あまり魔法の訓練してなかったから丁度いいかな」

「わかりました。では、本日は執務にお戻りください」

「うん、わかった。わたしも覚悟を決めたからね」

「その意気です、魔王様」


こうしてルイーザは覚悟を決めたのだが、この覚悟は勇者と戦う覚悟ではなく

勇者の前で露出が多い衣装を着ると言う意味での覚悟を決めた

というのはブルーナは知らなかったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る