第34話 最後の砦 後編

作戦はこうだ。

まず前後に、魔法で土手を作るが、グレイなら離れた位置でも作る事が可能。

ただ、作った土手を破壊されないように、出来るだけバディストを引き付ける。

土手を作ったら、果歩のスキルで水を貯める。

水位は出来るだけ高い方がいいので、最低でも腰の高さでないといけないが

確実に動けなく用に胸の辺りまで欲しいかな。

卑怯かもしれないが動きを止めた所を打撃を与える。

うまくいくかはわからないが、とにかくやるしかない。


 俺とルアナさんと騎士がバディストを引き付けるが、その間にグレイが後方に土手を作る。

土手の高さは大体、2mぐらい。

土手の補強と破壊を防ぐためにドゥニーズさんがシールドを張る。

あとは俺たちがバディストから離れて、土手を作らないといけないが

このタイミングがかなり難しい。

後ろに土手が出来た時点で、何かをする事はバティストもわかっている。

俺とルアナさんと騎士5人が交代で足止めして、1人づつ離れていく。

最後の1人はルアナさんになったが、なかなか逃がしてくれない。


「どんな作戦がわかっているようで、なかなか逃げしてくれないのです」

「なんとかできないか?例えば落とし穴を作るとか」

「それが出来るなら最初がやっているのです。穴はむりですが、盛り上げる事はできるのです」

「そうか、その手が有ったか」


土手が作れるのだから、足元を盛り上げてバランスを崩せばいいのか。

何でこんな簡単な事を思いつかなったのだろう。

というか、水を貯めないでこれでいいんじゃないのか。


「グレイ、頼んだ」

「はいなのです」


グレイがバディストの足元の地面を盛り上げると、流石にバランスを崩した。

ただ、すぐに体勢立て直したので、あまり効果はなかったがルアナさんが

離脱する隙は出来たので、素早く離脱。

グレイも追いつかれないように足元を不安定にし、素早く土手を作った。


「果歩、頼んだ」

「はい…」


果歩がスキルを発動すると、水がみるみる貯まっていく。

グレイの魔法で不安定になった足元にさらに水が貯まると

流石のバディストでも、身動きが遅くなる。

水も腰のあたりまで貯まると、ほぼ身動きが取れなくなった。


「一体何をする気だ」

「身動きできなくしてるだけです」

「そうか。しかし、水の中では条件は同じだ」

ではですね」

「まだ何かをするのか」

「すぐにわかりますよ」


水が胸の高さぐらいまで貯まると、水を止めて今度はイゾルダさんの魔法で凍らせる。

かなりの水の量だが、イゾルダさんの力ならば凍らせる事が可能だとか。

貯まった水がみるみる凍っていき、バディストも気づいたが凍る方が早く閉じ込められた。


「なるほど、こう来たか。しかし、この量の水を瞬時に凍らせるとは人間とは思えん」

「魔族に人間じゃないと言われるのは誉め言葉ですわね」


イゾルダさんはちょっというか、かなり嬉しいそうだけど

魔法の腕を魔族に人間じゃないと言われるのは誉め言葉。

ただ、イゾルダさんの場合違う意味でも喜んでるけど……。


「流石にこの厚さの氷からはでられん。首を跳ねるなら跳ねろ」

「そうしたいですが、まずお話を聞かせてもらいます」

「こちらは話す事はない」

「こちらはあります」

「そうか。どちらにせよ、死が決まっている。悪あがきはせず、何でも話す」

「そうですか。では……」


俺はこの後の魔王軍がどうなっているか質問した。


「魔王様の命令で軍は防衛線も解いて、魔都へ撤退してる」

「魔都の守りを強化したと言う事ですか?」

「それも違う。魔都についたら、魔王様直々の部下がでてくる」

「その部下と戦うと言う事ですか?」

「それも違う。魔王様のもとに案内し、直接魔王様と勝負をするそうだ」

「そうなんですか。この話は聞いてましたが、本当なんですね」

「司令クラスのみに配られた秘密の書類がある。

ただ、兵の動きから大体予想がつき、兵の間でも噂になっていたが」

「わかりました。ありがとうございます」

「他に聞きたい事はあるか?」

「そうですね……」


この際だから、魔王の事も聞いてみた。


「現在の魔王様は先代の魔王様の娘だが、魔王の器ではない。

まつりごとはいいが、戦いには向いていない性格だ。

魔王にしては人間で言うところの、優しすぎるというやつだ。

人間なら良いが、魔王で優しいのは甘いと言う事。

この戦もしたくなかったが、立場上、しなけばならなかったようだ。

だから責任を取り、自ら戦う事にし兵を引かせたと聞いている」


やはり同じ答えであったが、階級が高いため信憑性が増した感じだ。

この砦を超えたら次は魔王戦となるって事か。

つまり、最終決戦となる。

しかし、ここでこれだけ苦戦したとなると、魔王との戦いはどうなるんだろう。

バディストを倒したら魔王を従属できるLV500には達するかな。

ただ、500は最低条件で、スキルが確実に効果がある訳でない。

スキルの効果がないとなると、魔王を倒さないといけないが

バディストと戦ってこれだと、魔王には勝てないだろう。

先代の勇者も戦って勝ったではなく、スキルを使って魅了を使って勝った。

つまり、戦って勝つ事はほぼ無理と思った方がいいだろう。


「他に聞きたい事はあるか?」

「特にないです」

「そうか。ならば、首を跳ねてくれ」

「……わかりました」


バディストは首を跳ねてくれというので、言われた通りにする。

ただ、これでは戦いに勝ったというより、処刑だ。

戦いの中で首を落とすのはまだしも、これでは後味が悪い。

峠で兵の首を落としたが、あれは……戦いの中での出来事の1つと誤魔化している。

ただ、今度は作戦とはいえ、身動き出来ない相手の首を跳ねるのは何か違う気がする。


 俺が躊躇していると、ルアナさんが来て


「博司様がやらないなら、わたしがやります」


と言って剣を構えた。

普段はオレというルアナさんがわたしと言ったのは気になったが

俺と2人だからなのか、本気と言う事を見せるからなのかはわからない。

ただ、後から聞いたが、ルアナさんは結局なにも答えなかった。


「ルアナさんがやる必要はないです」

「いえ、わたしがやります。今の博司様は迷いがありますので無理です」

「……」


ルアナさんに見透かされた……のではなく、握っている剣が震えているので

誰が見ても迷いがあるのがわかる。


「これは戦いでなく、処刑と思うのはわかります。しかし、処刑であっても

相手に苦痛を与えずに最期を迎えさせるのも処刑人の役目……っと本で読んだことがあります」


ルアナさんは俺より1つ年上なのにすごいな。

考えてみれば、戦士は命を奪う職業なので覚悟が出来ているのだろうか。

俺もこの世界に来て、命のやり取りをしたけどここまでの覚悟はない。


「いえ、俺がやります。勇者が従者にやらせるなんて、悪役のボスみたいですよ」

「わかりました。お願いします」

「震えた腕で斬られたら、斬れるものも斬れず、たまったものではない。

躊躇なく思いきり振り抜くんだ」

「わかりました」


これから首を落とす相手にアドバイスをされるが、苦痛を与えず最期を迎えるためだ。

ルアナさんとバディストが言うように、躊躇したらダメだ、最期ぐらい苦痛を与えず

逝かせるのも情けなんだろう。


「では行きます」


俺は息を整えて、震えを止めて剣をバディストの首に振り下ろそうとしたとき


「ちょっと待て!」


っと声がしたので構えるのをやめたが、声の主は魔族の兵だった。


「なんだ、バカ息子、逃げたんじゃないのか」

「バカ親父の遺体を取に来ただけだ」


会話から親子と言う事はわかる。


「勇者に言っておくが、俺は戦いに来た訳じゃない、だから親父の敵討ちはしない。

ただ、親父の首と身体は回収させてくれ」


多分、言っている事は本当だろう。

遺族として遺体を回収したいのもわかるので、承諾した。


「ありがとう。親父はともかく、俺は勇者相手に勝つ事はできないからな」

「いいか、バカ息子、バカな親父の死にざまをその目に刻め」

「ああ、バカ親父の最期をみとどけてやるよ」


口では強がっているが、顔は下を向いている。

やはり、自分の親が処刑と変わらないかたちで死ぬのは辛いだろう。

ただ、俺も本音はでこんな事をしたくないが、しなければならい。


「では、今度こそやります」

「ああ、しっかりやってくれよ」

「はい」


俺は首の後ろに剣をあてて、剣を振り上げると躊躇なく振り下ろした。

聖剣だけあって、骨に当たっても全く抵抗なく剣はそのまま抜けていく。

そして、氷に剣が当たると同時にバディストの首が氷に転がった。


「お見事です、博司様……」


ルアナさんが言う。

そして息子さんも


「苦痛を与えず、親父の最期を迎えた事に感謝する」


と礼を言った。


「これで、戦いは終わりました。氷を消しますので一端離れてください。

遺体を運ぶのは手伝いますか?」

「ありがとう。遺体は自分で運びます。自分の遺体を勇者に運ばせたら

親父の首が『なにをしているバカ息子!』って怒鳴りますよ」

「わかりました」


俺たちは氷の上から離れて、魔法を解くと氷が消える。

息子さんは遺体を背負い、首を抱えて一礼して去っていく。

俺たちは各々の祈りをささげて、車に乗り最期の砦を超えてたが

息子さんは俺たちの乗った車を見送ったが、わずかに見えた顔は

幾筋の涙が頬を流れていたのであった。

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