第33話 最後の砦 中編

 俺が皆のもとへ引き返すが、帰ってくる来るのが早かったので理由を聞かれた。


「つまり、博司は司令の言う事を信じたって訳なの?」


マチルダさんに聞かれたが、問答するよりも早く片付けたほうがいいかなぁ

っと俺は答えた。


「せめて、少し長引かせて相手が攻撃するか確かめなさいよ」

「俺もそれを少し考えましたが、威嚇でなく本気で狙って来たら嫌ですよ」

「それでも勇者なの?ハイダッシュとか言う魔法で避ければいいじゃない」

「撃たれてのに気づくなんて無理ですよ。それに、ここで問答してる場合でないですよ」

「仕方がないわね。それじゃ、皆で行きましょ」

「お願いします」


こうして皆で砦へ向かうが、砦に着くまでなにもされなかった。


「ようこそ、勇者一行様。改めて司令のバディストです。では、中へどうぞ」

「罠でないですよね?」

「魔王軍の軍人はそのような事をしない……とは言い切らないが、少なくとも

私は卑怯な事をせず堂々と戦います」

「そうですか。わかりました」


俺たちはバティストについて行くが、バティストはすべての部屋をという部屋の他に

風呂やトイレ、倉庫はもちろん、どう見ても人が入れない戸棚、引き出しの中まで見せて

本当に兵が居ない事を示したが、倉庫には物資もなかった。


「お判りいただきましたね」

「確かに、司令1人だけですね」

「わかっていただいたならば、外に出て戦いましょう」

「……そうですね」


元から戦うはずだったが、バティストを直接見たらなんか複雑な気分になって来た。

俺のイメージだと、魔王軍の軍人はもっと野蛮で好戦的で話し合いは

出来ないと思っていたけど、野蛮どころか誇りがある。

言うならば武士って感じかな、とにかく思ってたイメージと全く違う。

それに、相手は1人なのでたとえ強くても複数で戦うのはどうかと思ったが

峠で一騎討を思い出すが、指揮官クラスであの強さならば小さな駐屯地と

はいえ、最前線になる拠点を任されたるぐらいなのでかなり強いと想像できる。

さらに、上級魔族に匹敵する強さだというので、1対1の戦いは厳しいだろう。


 本音は1対多数は卑怯じゃないかと思うけど、綺麗事を言ってる場合じゃないか。

砦の前で俺たちとバティストが対峙する。

覚悟を決めているからなのか、1人であるのに何とも言えない威圧感がある。

バティストの能力がわからないが、魔法は使えるんだろうか。

ただ、剣を構えている所を見ると、剣の腕がある事は間違いないだろう。


「どうしたら良いですかね……」


相手は1人であるが、どう攻めたらよいかが正直わからないのでオーガストさんに聞いてみるが


「正直、俺もわからない。かなり強い相手と言う事だけはわかるが」


オーガストさんもわからないそうだ。


「あれこれ考えても埒があきませんので、とにかく魔法を撃ち揉めば良いですわ」

「そうですね」


イゾルダさんが言うとおり、あれこれ考えても自体が変わる訳ではないので

とにかく、数の多さと距離を取った攻撃を利用するしかない。


「今度は本気で当てる気で攻撃してください」


「わかりましたわ」

「わったのです」


さっきはあくまでも威嚇だったが、今度は本気で攻撃をする。

グレイとイゾルダさんは炎と氷でバティストを攻撃する。

大量の炎の玉と氷の矢がバティストに飛んでいくが、バティストは動かない。

全部が当たる訳ではないが、大量の物が飛んできてるのに微動だにしない。

動いたところで避けれる訳でもないが、かといって諦めている訳でもない。

きっと何かをするのだろうが、単純に考えれば魔法でシールドを張るのだけど

剣を構えたままなので、魔法ではない。

バティストは飛んでくる物をみて、剣を振り上げる振り下ろしたと思ったら

強い風が起こり、飛んで来た炎と氷はその風で軌道がずれバティストを避けていった。


 さらに、その風は俺たちの方にも来るが、吹き飛ばされる事はないが

風によって起きた土煙で、目を空ける事が出来ない。

この状態で接近されたらかなりまずい。


「ここはオレに任せてください!」


ルアナさんはフルフェイスのヘルメットで顔を覆い、砂埃の中を剣を構える。

フルフェースといっても、視界を確保するための隙間があるので

土煙の中で目を開けていられる訳ではないが、それでも何も無いよりはましか。


「そこか!」


ルアナさんの声がしたと同時に、金属同士がぶつかる音がした。

しかし、土煙と塵でどうなっているか確かめられれない。

金属音は数度したが、その間にグレイが風の魔法で土煙を吹き飛ばした。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫。ただ、受け止めるの精一杯でした……」


俺からしたら、視界が無い状態で剣を受け止めただけでもすごいと思う。


「私の剣を受け止めるとは、女子おなごにしてはなかなかだな」


バティスト令もルアナさんが剣を受け止めた事に関心をしている。


「しかし、受け止めるのが背一杯でしたね。これでは勝負にならん」

「……」


ルアナさんもそれがわかっているらしく、何も言えない。

ただ、ルアナさんは諦めておらず、また剣を構える。


「ルアナさん、1人で戦うつもりですか?」

「そう言う訳ではありません、前衛を担当するだけです」


ルアナさんは自分に引き付けて、出来た隙をついて欲しいという。

ただ、剣の腕でけではなく、力でもルアナさんは負けている。

この事は本人もわかっているが


「正直、ここまであまりお役に立っていません。なので、やらせてください」

「ルアナがそこまで言うなら、任せるわ」

「ありがとうございます」


マチルダさんもルアナさんの本気を感じて任せる事にした。


「任せるけど、死んでは駄目だわ。魔王の所までいくんだから」

「わかっています」

「ならいいけど、心配だから博司もちゃんと見なさいね」

「え、俺が?」

「女性を守るのは男の役目ででしょ」

「今時、男女なんて関係ないと思いますよ」

「ここではそうでしょ。つべこべ言ってないで、行きなさい。

あと、ルアナの剣にもスキルをかけておくわ」

「わ、わかりました」


ここは異世界だから、現在の理論が当てはまらないのは間違いではないか。

マチルダさんルアナさんの剣にスキルを施すが、今戦っている騎士たちの

武器にもスキルを施してある。

俺たちが話している間、騎士5人が戦っているが5対1でも互角どころか

バティストの方が押している状態で、どれだけ強いんだ。

時々、グレイとイゾルダさん、ドゥニーズさんが魔法で支援をするが

その魔法も剣ではじくが、どうも剣が特別らしい。


「俺たちも加勢します」


俺とルアナさんが騎士たちに加勢する。

騎士たちにルアナさんが相手をするので、その隙をつく。

騎士としては卑怯になるが、この場合は仕方がない。

スキルを施してあるので、一撃でも決まればかなり大きな

ダメージを与える事が可能。

ただ、その一撃を当たる事がかなり難しい。

囲まれないように間合いを保ち、剣も魔法が施してあるのか

空振りでも強い風が起こり、こちらの動きが止まるので接近が出来ない。


 なので、まずは動きを止める事になるが、ルアナさんがその役目をする。

ルアナさんはバティスト相手にかなり強引であるが、剣を打ち込んで動きを止める。

戦い方としては無茶であるが、あえてやっている。

バティストもそれをわかってはいるが、何度も来る打撃にさすがのバティストも怯んでいる。


「無茶な戦い方だな。力は若い女子にしてあるが、体力が持たんぞ」

「1対1ならそうだが、仲間がいます」

「そうだったな」


バティストも包囲されている事に気づいている。

完全に囲んだので、流石のバティストもこれでは不利だろう。

今回も峠の時の様にスキルで従属させても良いが、この状況だと無理かもしれない。

それ以前に、接近がとても難しい。

隙が出来れば良いが、5人相手でも互角以上に戦える相手なのでかなり厳しいが

ルアナさんに引き付けてくれてるから、隙は僅かに出来ている。

しかし、いざ隙を狙おうとすると、ルアナさんとの間合いを取り斬りかかって来た

相手をいなす。

間髪入れずに斬りかかっても、やはりいなされてしまいまったく攻撃が当たらない。

これを何度も繰り繰り返すが、魔法も剣も一撃も与える事が出来ない。


「はぁはぁ、このままではどうにもなりませんね……」

「そうですね……」

「相手は1人なのに、誰も一撃も与えられないとは……」

「私1人にこのようでは、次の魔王様との戦いには勝てませんよ」


軍は引いて、直接魔王が戦うと言う話を聞いていたが、バティストクラスが言うなら

この話も本当なんだろう。

しかし、バティストクラスとはいえ中級魔族でこの強さならば魔王はどれだけだろう。

このままでは本当に勝つ事が出来ない。


「ルアナさんが引き付けてくれたのに、不甲斐なくてすみません」

「いえ、皆さんのせいではありません」

「ほんの一瞬でもいいので、動きを止められれればよいのですが」


メイさんの言う通り、動きをほんの少し止められばよいがいい方法がない。

包囲しても駄目となると、いい方法が思いつかない。


「果歩のスキルで水を出して、地形的に自分達の方に流れてくるから使えないのが」

「グレイが土の魔法で土手を作るからそれは何とかなるのです」

「しかし、水を貯めても俺たちも同じだし、距離をとっても当たらないしな」

「わたくしがその水を凍らせて身動きを止めますわ」

「そうか、その手があったが。しかし、氷の上では俺たちもうまく動けないのでは」

「博司様はあれこれ考えすぎなのです。動けなくなったところを魔法か

矢を撃ち込めばいいだけなのですよ」

「た、確かに。氷は厚くなるとそう簡単に割れなくなるしな」

「それでは、さっそくやるのです」

「わ、わかった。それじゃお願いします」

「はいなのです」

「わかりました……」

「任せてくださいな」


今までも考えるよりも実際に行動して、ここまで来たんだから

今更あれこれ考えてるよりは行動あるのみで果歩のスキルで出した水をだし

その水を凍らせて動きを止める作戦を実行する事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る