第32話 最後の砦 前編

 パスの街から砦へと向かう。

砦に何人の兵がいるかわからないが、数人だろうが数十人だろうが関係ない。

兵を倒して、砦を超えて先に進むだけだからだ。


「砦に着いたけど、どうするの?」

「兵の数がどうあれ、こちらから攻めるしかないかな」

「攻めると言っても、どうやって攻めるのです?」


俺とマチルダさん、グレイと話すが攻めると言っても、兵の数が不明な上に

こちらも戦力が少ない。

砦は守る方が有利で、攻める方法は離れた距離から魔法や矢を撃ち込むしかないか。


「敵の数がわかりませので、まずは魔法を矢を撃ち込んで相手の出方を確かめましょう」

「そうですね、それでいきましょう」


メイさんも同じ事を提案したので、離れた距離から魔法と矢を撃ち込む事にする。


「それではグレイとイゾルダさん、ドゥニーズさんお願いします」

「わかったのです」

「おまかせあれ」

「わかりました」


3人それぞれ魔法を使って炎、氷、石を砦に打ち込んいく。

さらに、果歩の出した水をイゾルダさんが凍らせて、氷の塊として撃ち込んでいく。


「流石に丈夫だな」

「石づくりなので、炎はあまり効果がないのです」

「氷と石はそれなりに効果がありますが、敵は出てきませんわね」

「あれだけ攻めれば出てくると思いましたが、来ませんね」


魔法で出した物理攻撃は砦の壁が崩れるほどであったが、兵が出てくる気配はない。

これだけやっても出てこないと、本当に兵がいるかも疑問になる。


「そもそも本当に兵が居るのかな?」

「確かに居ない可能性もありますが、かといって確認に行った所を襲うかもしれません」

「そうですね。でも、どうしたらいいんだろう」

「無暗に突っ込むのも危険だが、何もせずに眺めている訳にもいかないからな」

「あの……矢に文をつけて射ってみるのはどうですか?」

「それはいいけど、効果があるかな?」

「わかりませんが、やるだけやってみても良いと思います」

「駄目な時は仕方がないか」


ファイエットさんの提案で、矢文を射ってみた。

矢は砦の天端てんばに届いたようだけど、これで反応がればいいんだけどな。



―― 一方、砦の中では


「司令、先ほど射られた矢に文がついております」

「文だと?読んでくれ」

「こちらは勇者一行である。砦の中に兵が居たら我々と戦うように

っと書いてあります」

「そうか、勇者一行は我々の事が居る事を把握してている訳では無いようだな」

「それならば、このまま無視して籠れば良いのでしょうか」

「物資は撤退時に全て運び出したため、今朝、街から運んだ分しかない。

これではもっても2,3日と言ったところ。籠ってやり過ごすのは無理だ」

「そうなると、ここを捨てて逃げるか、戦うかしかありません」

「軍人としては最後の一兵になるまで戦うべきであるが、司令としては兵を

無事に返すのも役目。犠牲になるのは私だけでよい」

「それは、つまり……」

「私だけ残り、残りの者はここから出ていくが良い、これは命令だ!」


司令はあえて大声をだすが、普段は大きな声を出す事がないため

わざとやっていると言う事は兵たちもわかった。


「こちらの私を入れて6人しかおらず、到底勇者一行には勝つ事は出来ない。

峠の駐屯地も壊滅し、生き残った者は負傷者を治療するという名目で故郷に帰した。

生き残ったと言う事は、まだ生きろと言う事、命を無駄に捨てるな、これも命令だ」

「わかりました。では、失礼いたします」


兵は敬礼をして砦から出ていくが、1人のだけで出て行かない兵が居た。


「なんだ、お前まだいたのか」

「今は親父と俺の二人だけから、上官と部下ではなく、父と子として話す。

親父、生きて帰って来てくれよ」

「勇者と戦って生きて帰ったと言う事は、逃げ帰ったと言う事だぞ。

逃げ帰ったと言う事がばれたら無能扱いだ、このバカ息子め」

「駐屯地を壊滅させられた時点で、十分無能だ、このバカ親父」

「そうだな。既に無能だから、ここで散っても逃げ帰った所で変わらん」

「ああ、そうだよ。だから、俺は行くから、絶対に帰って来てくれよ、絶対だぞ!」

「わかったからさっさといけ、これは上官命令だ」

「はい、わかりました」


敬礼をして残った司令の息子も砦を後にした。



――


矢文を射るために、出来るだけ高い所に登ったファイエットは

砦の中から矢文を回収したのを確認して、降りて来た。


「中から兵が出てきて、矢文を回収しましたので兵はいます」

「そうなると、後は人数となるけど街で聞いた話だと、数人と言ってたけど実際は無何人だろう」

「この際、人数は関係ないわ。なぎ倒すだけだわ」


マチルダさんは良くも悪くも好戦的だけど、勇者としたら変じゃないかな。

しかし、矢文を送ったからと言って相手が出てくるとは限らない。

場合のよっては無視をして、こちらから向かわせるかもしれない。

とはいえ、相手が出てくるまで待つしか方法がない。


多分、30分ほど経った頃だと思うけど、砦を見ていたファイエットさんが


「砦の上に誰か出てきました、1人の様です」


と報告するが誰かが居る事はわかるが遠くて俺たちによく見えない。


「恰好からかなり位が高い人のですが、もしかしたら駐屯地の司令かもしれません」


魔王軍は基地司令になれる階級は鎧や服装でわかるそうなので

街で聞いた司令かもしれない。


「私は峠の駐屯地の司令のバティストである。この砦は私だけである。

軍人である以上、例え1人であっても戦わず投降はしない。

私はここにるので、全員で攻めてくるがよい」


やはり指令であったが、ここにいるのは1人だけという。

ただ、本当にに1人なのかそれとも罠なのかはわからない。

さらに、1人でもあって上級魔族だったらかなり強いが

上級魔族も見ればわかるそうなので、違うそうだ。

ただ、司令クラスとなると中級でも上級魔族と同等の強さを持っている

とファイエットさん教えてくれた。


「司令が出てくると言う事は、本当に1人かもしれません」

「そうだとしても、信じてもいいんだろうか?」

「ここれであれこれ言ってても仕方がないでしょ。相手が全員で攻めてこい

っていってるんだらから、その通りにすればいいわ」

「た、確かに」


向こうが攻めてこいと言ってるので、言った通りにするが

いくら相手が1人でも無暗に攻めのは良くない。

今回も離れた位置から魔法を撃ちこんで、相手の様子を見る。


「それじゃ、グレイ、イゾルダさん、お願いします」


グレイとイゾルダさんがさっきと同じく、炎や氷の魔法を撃ち込むが

わざと当てないようにして相手の様子を見るが、ファイエットさんは

当たらない事がわかっているようで、微動だにしないそうだ。


「当てる気がない事がわかっているみたいです」

「となると、本気で攻めたほうがいいってことかな?」

「いや、相手を下に降ろすんだ。本当に1人ならば高い所にいないで

堂々と降りてくるようにというんだ。真の軍人程、こういう言葉に弱い。

さ、博司行ってこい」

「そうですね……って俺がですか!?」

「当り前だろ、勇者一行の代表は博司だろ」

「いや、代表になったつもりはないというか、自然とそうなっていただけで

俺が勇者のリーダーと1度も言った覚えはないです」

「ここまでお前が色々話をしただろ。ここに来たのも、博司が情報を手に入れてたからだろ」

「確かにそうですね……」

「それに、魔王軍は女と話す気はない。だから、どちらにせよ博司が行くしかないぞ

「わかりました」


オーガストさんに言われて、俺が司令と話をする事になった。

ただ、俺が行って攻撃して来たら嫌だけど、その時はすぐに引き返すぞ。


 俺が砦に向かって行ったが、向こうからは何もしてこない。

もしかしたら、足を止めた所を狙っているのかもしれないが、結局は何も

起こらないまま砦の真下まで来た。


「俺は勇者の手洗博司と言います。司令にお話があり来ました」

「話とはなんだ」

「司令の言っている事が本当ならば、その場所から降りてきて戦ってください。

それに、本当に司令1人なのか信じられません」

「なんだそんなことか。そうだな、ここにいては私が1人と言う事を示すため

他の者と一緒にこの砦の中を案内する。戦うのはその後で良いな」


バティストはこういうが、俺はすぐに返事が出来ない。

砦の中を俺たちは全く知らないし、兵が隠れているかもしれない。

ただ、ここで問答しててもはじまらないだろうし、敵をわざわざ中に入れる

ような事をしない気もするので言葉を信じてみる。


「わかりました、皆を連れてきます」

「わかった。私も砦の下で待っている」


バティストは結局下に降りてくるそうだけど、これだったら砦の中を見る意味はない

気もするが、兵が隠れていない事を確かめるためなので別にかまわないか。

俺はみんなの元へ引返したのであった。

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