第29話 突破

 やり方はどうあれ、一騎討には勝った。

ただ、倒れてままで自力で立ち上がる事が出来ない。


「博司、起こしてあげるわ」


マチルダさんが手を差し伸べて起こしてもらったが、勇者補正があるとはいえ

本来は出せない素早さを出したから、身体の負担はかなり大きいみたいだ。


「まったく、だらしがないのです」


グレイはそう言いながらヒールをかけてくれたが、お陰でかなり楽になった。

でも、明日になったら全身筋肉痛になったりしないよな…。


「グレイ、ありががとう」

「べ、べつにこれぐらい当たり前なのです。そのためにグレイはいるのです。」


グレイは素直でないが単に恥ずかしがっているだけかな。


俺たちの横ではアーティが兵達に引くように命令するが、撤退を少し待って待ってもらう。


「撤退する前に聞きたいのですが、今回はどれぐらいの兵を使ったのですか?」

「第1部隊と第2部隊、合わせて700だ」

「元々は何人いました?」

「元は1000だ。300は駐屯地の守りのために残してある」

「わかりました。駐屯地の突破は難しいですか?」

「道に関があるが守りは薄い。突破するだけなら簡単だ」

「そうなんですね。あと、駐屯地は水で流せたりします?」

「元々低地ではあった場所に、土を盛ってかさ上げをした。

だが、突貫工事だったため安定せず、今も土を足して踏み固めている」

「大水が来たら崩れそうですか?」

「実際に、博司たちが来る前に大雨で降りかなり土が流された。

第1部隊が流された水の量の半分程度でも、十分な被害を出せる」

「わかりました、ありがとございます」


アーティの情報では、大水を流せば十分な被害を出せそうだ。

ならば、果歩のスキルで駐屯地に被害を出して、その隙に先に進めばいいな。


「駐屯地を超えた先はどうなってます?」

「関を超えてすぐの所に、パスの街。パスの街とレイクの街の間に砦があるが、

砦の兵は撤退したと正式に伝達された。

また、魔都の防衛ラインも撤退し、魔王直々に戦うと言う話があるがこちらは

正式な伝達が来ておらず、まだ噂の範疇だ」


隊長も魔王直々に戦うと言う話もあると聞いたが、やはりまだ噂の範囲内の様だ。

あと、街と街の間の砦は正式に撤退したと言う事だ。

ただ、気になるのはこの峠は撤退させなかったという事だ。


「勇者が召喚された情報が来た時点で、砦の計画が始まったが想定以上に

手間取り工事が遅れていた所に博司たちが来た。

当初の計画では砦は半分程度は出来ている計画で、峠で倒す計画であった」


当初は未完であっても、半分ほど出来ている計画だったらしい。

つまり、俺が時間の猶予を与えてしまったが、それ以上に工事が難航して

道が塞がらない状態でよかった。


「峠で足止めをする計画だったのですね」

「ああ、だから峠の兵は撤退しなどころか、わざわざ駐屯地を建設し

砦と駐屯地の2段構えの守りの敷く計画だった」

「そうだったんですね」


どうやら、峠で足止めをして消耗する計画だったらしいが魔王軍の消耗は

思っていたよりも深刻でみたいだな。

逆言えば、峠を越してしまえばあと魔王の居る魔都へ行けばいいだけなんだな。


「情報ありがとうございます。あと…わかっていると思いますが、卑怯な勝ち方をしてすみません」


俺が謝ると


「聖剣で斬られれば確実に散っていた。武人として、死は恐怖ではないが

生かされた以上、まだ役目がある言う事だ。

それに、後ろを取られた時点で我が弱いと言う事だ」


アーティは笑うが、何だろういかにも武人という感じでカッコいいな。


「スキルは解きますね」

「ああ、わかった」


俺はスキルを解くが、このまま駐屯地へ撤退すると思ったら


「撤退はせず、ここで負けた事にする。いざとなったら下級魔族の街に行くまでだ」

「えーと、戦わないのですか?」

「負けて戻ってきたら恥な上、兵も本音とては勇者とは戦いたくない」

「そうなんですね」


兵のほとんどが徴兵なので、勇者と戦って命を落としたくないのが本音である。

ただ、戦争である以上、兵の命を落とすのは仕方がないがそれは指揮官としての

能力が低いと言う事になる。

なので、アーティは出来るだけ兵を生かして帰れるのが優秀な指揮官と考えている。


「しかし、それは敵前逃亡になりませんか?」

「負けて捕虜になったと言う事にすればよい。伝令のバッドを送る。

こいつは我との付き合いが長いから、我の言う事はなんでも聞く」


アーティは伝令のバッドに負けて捕虜になった事を伝えるように伝え

飛び去ったが、バッドは伝令の他に偵察も行っているそうだので見かけたら注意だそうだ。

ただ、バッドも多く失われたで、偵察に回すバッドがかなり不足しているため

俺たちが魔王領に入った事はわかっていたが、街の中の行動などは

わからなかったそうだが、俺たちが偵察をしてた事もわからなかったみたいだ。


「では、ジュルダンさんに頼んで街へ連れて行ってもらいます」

「ああ、わかった。それでは街へ向かうと」


戦いが終わり、峠の防壁を解いてジュルダンさんに経緯を話すと受け入れてくれた。

また、隊長はアーティも来るを喜んでいた。


「待っている間に車を町から持ってきましたので、皆さん乗って行けます」

「ありがとうございます。俺たちは駐屯地を処理してからパスの街へ向かいます。

あと、同行の魔術師も街までお願いします」

「わかりまた。パスの街は私の街みたく人間にいい感情がないので、お気をつけてください」

「はい」

「博司たちならば、この戦いを終わらせる事が出来るから頼んだ」

「はい、この戦いを終わらせます。そのために来ましたので」


アーティは魔王が負けるのは複雑ではあるが、戦いが終わるのであれば

それはそれで構わないそうだ。


 俺たちはみんなが街街へ戻るのを確認し、俺たちは峠を下ってパスの街を目指す。

全員、車に乗り進んでいくと駐屯地が見える場所があった。

駐屯地は思ったより規模が小さく、上から見ると低地にある事がわかる。

さらに地形をしっかり観察すると、手前に川があり上の方から流すとその川に流す事がわかる。

峠の上で流した水はこの川に全部流れたようで、水が流れた跡は戦った場所から

下の道にはなかった。


「駐屯地を流すとたら、関の辺りから流さないと駄目ぽいな」

「そうですね…地形的にかなり近づかないといけないようですね…」

「関まで行く必要はないと思いますが、場所によっては街まで被害が出ると思いますね」


メイさんの言う通り、ちゃんと場所を選ばないとパスの街に被害が出るうえに

駐屯地には被害を与えられない問題がでる。

なので、果歩のスキルを場所を吟味するが、駐屯地が真下になる位置で

道が九十九折りになり、川とはなれる場所があるのでここで使えばいいかもしれない。


「確かに、この場所は駐屯地に直接水を流せるうえ、高さがあるので効果的ですね」


メイさんもこの場所が良いと言うが、実際にその場所に行ってから判断する。


 峠道をかなり下って、駐屯地が真下に見える場所に出たが地形的にも

遮るものもなく水を流すには絶好な場所だ。

メイさんが言うには地形的期のも水が流れた跡があるので、確実に駐屯地に流れてるとも言っている。

ただ、遮るものがないため向こうからも丸見えではあるが、日も暮れてきて

この場所は山陰になっており、下からはやや見えづらい。


「向こうが気づく前に、果歩頼む」

「わかりました…」


果歩がスキルを発動するが、多すぎても少なすぎてもいけないので調整が難しい。

ただ、水を出した後でも調整が可能なので、効果を見て判断する。

果歩が水を出して流し始めるが、峠の戦いで出した量よりやや少なめにする。

水はメイさんが言っていたとおり、駐屯地へとまっすぐ流れていく。

ただ、思ったよりも水量が少ないので、可能な範囲で水量を増やす。


 一方、駐屯地では捕虜救出作戦のため、兵が準備をしていた。

夜襲をする計画だったので、ちょうど駐屯地を出発する準備中であった。

兵たちは出発準備をしている所に、雨が降っていないのに水が流れて

来たので大慌てになる。


「こ、この水はまさか…全員、退避!」


駐屯地の司令が果歩のスキルと言う事に気づき、退避命令を素早く出したが

斜面を滝のように下った水の勢いはすさまじく、建物や兵たちも流されていく。

壊れた建物の瓦礫に捕まるが、水の勢いが激しくて耐えられずそのまま流される。

ただ、峠の上と違い、岸にすぐに上がれるので助かった兵の数は多かった。


 一方、駐屯地は壊滅的な被害を受けて使用は不可能になった。

建物も物資、食料もほぼ全部流されてた上、かさ上げした盛土もかなり流されて

これで駐屯地としての使用は不可能にになった。

また、流された兵たちも戦意を失い、パスの街の先にある砦へと向かったが

これは戦うためではなく、一時的避難であった。


「果歩、ご苦労さん」

「は、はい…」


連続してスキルを使っての出、果歩も疲れている。

自力で歩けるが、かなりきつそうだ。

イゾルダさんが果歩が車に乗せるのを手伝ってくれた。


「ありがとうございます…」

「主を助けるのが従者の仕事ですわ」


イゾルダさんが従者らしい事を言っているが、これが本来なんだろう。

普段の言動は何とも言えないが、従者に選ばれるのでちゃんとした人ではある。


「これならば、ここは使い物になりませんね」


メイさんが被害状況を見るが、建っている建物はほぼなく、盛土もかなり流された。

これならば駐屯tにとしての機能はないだろう。

関は残っているが、混乱しているのでその間に突破すればいい。

急いで車に乗り出発するが、関は門が開いていて速度を落とさず突っ込む。

突破した事に気づいた兵士もいたが、1人や2人ではどうにもずただ見ているだけで

簡単に突破する事が出来たのであった。


「全車無事突破しましたね」

「このままパスの街に向かいます」


御者は車を止めずにパスの街へと車を走らせが、すぐにパスの街到着したのであった。

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