第28話 一騎討

 土塁の陰に隠れて息を整えていると、魔王軍がやって来たが

他の兵と違う鎧を身につけた兵が先頭に居たが、これは指揮官だろう。

土塁の10mほど手前で立ち止まるが、攻める様子はない。

これを見たオーガストさんが


「もしかしたら、指揮官同士での一騎討を申し出るかもしれない」

「そうなんですか?」

「魔王軍が指揮官先頭になって行進してきた時は、一騎討を申し出る時と

勉強したが実際に見た事はないのでわからないが」

「アベルが言う通りと思います。通常でしたら、立ち止まらず攻めてきますので」

「そうなんですね…」


メイさんのいうアベルとはオーガストさんの名前。

確かに、兵は整列して攻めてくる気配はない。

しばらく様子を見ていると、指揮官が一歩前に出た。


「我はこの隊の指揮官アーティである。勇者殿との一騎討を所望する」


風な軍人な感じがするアーティは勇者と一騎討を所望するが

果歩は一騎討は無理なので俺かマチルダさんになる。


「あのタイプの軍人は女と戦うのは嫌うから、博司に決まりだわ」


マチルダさんはそう言うが、確かに女性とは戦わらない感じの人だけど、

強さならばマチルダさんの方が上。


「我は女と戦う気はない。聞いたところによれば、1人男の勇者が

いると聞いておる。さ、前へ出るのだ」


マチルダさんが言ってた通り、女性と戦わないタイプの軍人であったが

それすなわち、俺が一騎討の相手をする事となる。


「博司、骨は拾うわ」

「まって、マチルダさん、それって死ぬって事じゃ」

「鼓舞するための冗談よ、早く行きなさい」

「わかりましたよ」


俺は指名されたので、指揮官の前へ出るが


「なんだ、今度の勇者は子供じゃないか。我は子供とは戦えぬ」


確かに、17歳だから子供であるが法的には来年で成人にはなるけど。


「戦えないのならば、どうするのですか?」


俺が聞くと


「一騎討をやめて、後ろにいる兵達が戦うまで」


と答えるが、そうだよね。


「これでも聖剣を授けられた勇者です」


俺が聖剣を見せると、指揮官は目の色を変えた。


「聖剣の持ち主か。それならば、遠慮なく戦える」


しまった、逆にやる気を出してしまったか。

何で俺は聖剣を見せたんだ、バカだな。

考えてみたら、この指揮官ならば不意打ちなんてしなさそうだから

あのまま、素直に引いておけば良かったかな。


「その前に、一つ聞いていいですか?」

「何なりと」

「勝敗は…どうなったら決まりですか?」

「どちらかの命が無くなるか、あるいは負けを認めた時だ」

「わかりました。ただ、勇者と言っても、俺の剣の腕は素人同然。

あなたの様な武人が素人と変わらない勇者を斬った所で、自慢にもなりませんよ」

「それは本当かな?一騎討から逃げるための方便はあるまいな?」

「違います。もし逃げる為でしたら、先ほどすんなり引いています」

「確かにそうだな」


よし、話は通じる様だ。

本当は一騎討なんてしたくないけど、この状況では引けそうにない。

せめて、ハンデを付けて欲しいな。


「せめてンデを付けて欲しいのです」

「ハンデ?構わないが、どんなハンデを付けよう」

「そうですね、体格差もありますし、こちらは見ての通り薄い防具のみ。

一撃でも食らえば、こちらは終わりですが、アーティさんはしっかりした鎧なので

この差はどうかと」


俺の防具は皮の鎧というかチョッキと、その下に薄手のチェーンメイルを着ている。

グレイトの旅では皮のチョッキだけを身につけてたが、防刃ようとして

今回はチェーンメイルも身につけているが、無いよりましっと言った感じだけど。


「確かに、こちらも鎧を脱ごう。そして、こちらは剣も使わず素手で手加減をしよう」

「ありがとうござます。条件はそれでお願いします」

「勇者殿は聖剣でかかってくるがよい。さらに、攻撃魔法以外なら使用しても良いぞ」

「わかりました。あと、博司といいますので、博司と呼んでください」

「そうか、博司殿、それでは一騎討といこうではないが」

「わかりました」


なんとか、剣を使わないで一騎討をする事になったが、一騎討の前の

ウォーミングアップで指揮官は岩を殴ると...岩が割れたのであった。

って、ちょっとまて、岩を割れるパワーがあるとは知らなかったぞ!

あれを食らったら、確実に死ぬって!


「すまんぬ、博司殿。ちょっと力を入れすぎた。本番は手加減をするので、ご安心を」


いやいや、手加減をしてもやばいって。

馬鹿だなぁ、やっぱりあの時引いて、皆と戦った方が良かったよ。

これじゃ、本当に骨を拾ってもらう事になりそうだが、勝てばいいんよね。

ただ、勝てる未来が見えないけど…。


 アーティと向き合って一騎討と相成った。

正直、勝てる気がしないし、死なない程度といっても食らったら絶対にやばい。

骨の1本や2本どころか、内臓がどうなるかもわからない。

ただ、こうなてしまったら、もう自棄だ、やるしかない。


「では、はじめるぞ」

「はい、お願いします」


俺は剣を構えるが、指揮官も構える。

考えてみたら、軍人だから格闘も出来るよね…。

ああ、やっぱり失敗したが、もう後には引けない。

突っ込んだら、カウンターを食らって一撃で負けるに違いない。

かといって、攻めれたら絶対に終わりだし…どうしよう。

そういえば、ハイダッシュって使った事なかったな、いきなり本番であるが使ってみよう。

あと、卑怯だけど懐に入った所で、スキルを使って「参った」って言わせればいいか。

この際、どんな手を使ても勝つ事にしよう。


 とは言ったものの、やはりこちらから攻めるのは厳しい。

ただ、相手の懐に入るのはハイダッシュを使うしかない。

なので、俺はハイダッシュを唱えて、指揮官の懐めがけて突っ込む。


「む、早いで、この程度なら問題ない」


そう言って、指揮官は身をかわすが、実はこれはかなり抑えてある。

ハイダッシュも自分でスピードが調整できるので、大体の最大の20%程の速さで

試しってみたがこれぐらいの速さだと、回避されると言う事はわかった。

次は40%で試したが、これもかわされたもののかすった軽度であるが剣が当たった。

ただ、かすったっ程度でも聖剣で斬られたら、結構なダメージを受けたようだ。


「流石、聖剣だ。かすった程度でも、これだけの傷を受けるとは」


聖剣が当たった右腕に、数センチの傷が出来たが出血をしているが、魔族の血も赤いのか。

大体、魔族後の色は別の色だったりするが、この世界では一緒なんだな。


「この程度の傷、大したことはない。では、今度はこちらから行くぞ」


今度はアーティがこちらに向かってきたが、ハイダッシュで何とか回避。

速度はやはり40%であったが、結構ギリギリだった。


「流石に、回避したか。ただ、魔法での回避は何度もできまい」


やっぱり、魔法で回避している事はバレてるか…。

確かに、長期戦になったらこちらの方が不利。

こうなったら、聖剣の力を試してみるか。


(確か、イメージをすればいいんだったな…)


俺は指揮官が近づいたら腕が届かない距離で長くなるようにイメージしたが、これでいいのだろうか。

試すには、またこちらに来てもらわないとなっらないが、アーティは

踵を返して、再びこちらへ向かって来た。


俺が聖剣を構えて、イメージするとアーティが指揮官が拳を打ち出したと同時に

聖剣が伸びて指揮官へ向かっていく。

アーティもそれに気づいて、ギリギリの所で何とか回避したがこれをかわすなんて。


「なるほど、聖剣をそのような使い方が可能と聞いていが、本当に出来るんだな」

「その事を知っているのですね」

「話に聞いていただけだけだがな」


先代の勇者の時も軍に居たそうだが、直接勇者と戦ってはいないが

聖剣が形状変化するという話しが兵士の間に広まっていたそうだ。


「とはいえ、このままでは埒が明かない。やはり、剣で勝敗をつける」

「…わかりました」


ハンデがあっても、指揮官の方が強い事は明白でこのままだと確実に負ける。

それに、剣も素手も正直変わらず、1撃でも食らえば命がないだろう。

剣だろうが拳だろうが、この際関係ない。


「では、行くぞ」

「わかりました」


俺とアーティは剣を構えてにらみ合う。

まともに戦ったら、俺の負けは確実。

そうなると、100%のハイダッシュで懐に入るしかないだろう。


 俺は考えるが、アーティに隙なんて全くない。

それに、相手も俺が斬りかかってくる所を狙ってくるだろうし。

斬られたら、首が飛ぶか、腕が飛ぶか、身体が真っ二つになるかのどれかだろ。

そう考えると、懐に入るのではなくて、腕を狙えばいいのかもしれない。

いや、待てよ斬るのでなくて、スキルを使えばいいんじゃないのか?

そうだよ、スキルを使って参ったと言われればいいんだよ。

よし、100%のハイダッシュで後方に周ればいい。

成功するか、しないかなんて考えるら失敗するからやるしかない。

俺は覚悟を決めて、聖剣を構えて指揮官へと突っ込んでいく。


「考えなしに突っ込んでくるとは…」


アーティも剣を構えて俺に向かってくるが、剣を振りかぶった一瞬の隙を見て

俺はMAXのハイダッシュを唱えてたが、剣がかすかに体をかすめたが間一髪回避に成功。

身につけてる皮の防具は切れられたが、その下に付けている薄いチェーンメイルで

ギリギリ防げた。


「かわしただと」


アーティは目の前から俺が消えたが、流石MAXのハイダッシュだと

アーティも対応できないようで、空振りして隙が出来た背後に周り

スキルを発動するが…緑になり成功だ。


「これでこっちの勝ちだ、負けを認めるんだ」

「わ、わかった…。剣は置く…」


指揮官は剣を地面に置くと、負けを認めたのであった。

ただ、100%のハイダッシュは思った以上に身体に負荷がかかっており

俺も身体の力が抜けて地面に倒れ込んだのであった。


「一応、勝ったけど…これじゃ、恥ずかしいな…」


俺はそう言いながら、地面に大の字になって天を仰ぐ。

ただ、これならばスキルを使わないで、普通に聖剣で倒せたんじゃと思ったが

指揮官クラスにしか知らない情報もあるだろうし、勝ちはは勝ちだから構わないか。

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