第17話 出発前日

 果歩の作ったトイレから戻った後も、少し雑談をしたが緩いとはいえ

軍なので消灯時間があり、俺も小屋に戻る。

果歩とマチルダさんは同じ小屋だけど、俺は1人で別の小屋。

男女別々なのは仕方がない。

パピー以外はグレイと宿でも別の部屋だったが、寝る直前までグレイが俺の部屋に居て

色々話して楽しいまま寝たので気にしてなかったが、そのせいもあって寂しく感じてしまう。

とはいえ、俺も寂しくて寝れないなんて言う年じゃないから平気だぜ。


 ……強がってみたが、夜中になったらやっぱり寂しい。

別の部屋と言っても、グレイは隣の部屋だったから近くにいた。

パピーの宿だと、隣の布団で寝てた訳だし。

もちろん何もしてないが、グレイはお約束というか寝相が悪かったけど。


 考えてみたら、グレイも年齢が妹の博美と一緒なの、実は性格も結構近い。

流石に妹は「なのです」口調じゃないけど、つまらない事はつまらないって言うし

怒ると燃やすとはいわないが、殴るって言ってくるし。

念の為言うけど、実際には殴っては来ない、あくまでも怒っていると言う事を表現してるだけ。

ただ、グレイの場合に本当に燃やしそうで怖いけど。

だから、本音を言うとグレイの前ではお兄ちゃんモードになる。

しかし、妹は今は反抗期といった感じで、お兄ちゃんキモイっていうけど

本音ではグレイみたく照れ隠しなだけだ…だよね、そうあって欲しい。


 俺にとってグレイは従者であり、この世界の事を教えてくれる先生でもある。

グレイにとっては俺は勇者であるが、俺の世界の事を教えてもらえる先生でもある。

主従関係はあるけど、かなり緩い主従関係。

グレイはあれこれ言うけど、俺の言う事は聞いてくれてるし、信用もしている…と思う。

モンスターとの戦いも初めから息が合ってたから、グレイとは気が合うのかもしれないな。

眠れないからグレイの事を考えたが、一緒に旅をして戦ったからだろうな。

グレイに恋愛感情がある訳じゃないが、グレイの事は大事と思ってはいる。

そんな事を考えて、俺は眠りについた。



翌日、魔王領へ向かう為の最後の話し合いを司令と勇者3人、従者3人、ドゥニーズさんでする。

魔王領の情報は貿易が行われていた10年前の物が最新なので、現在はどうなっているかは不明あった。

しかし、捕虜や捕まえた残党の情報から、特に変わっていないそうだ。

ただ、その捕虜たちも1年は魔王領へ戻っていないので、現状はどうなっているかわからないらしい。

なので、砦などが築かれている可能性が全くない訳でもない。

こちらの戦力は限れており、勇者一行6人の他に同行する20人もいるが、

この20人は瘴気の耐性があるとはいえ、魔王が住む城まで行けるかはわからない。

また、瘴気の中では単なる移動だけでもかなりの体力を消耗するので魔王城までたどり着けない可能性が高い。

なので、魔王と戦うのは実質勇者3人と従者3人、ドゥニーズさんの7人といってもいい。

7人で魔王軍と戦うとなると、まさにゲームやアニメ、漫画の勇者パーティーだな。


「これだけの軍勢が居ながら、勇者様とその従者の方々。ドゥニーズ様に頼る事を謝罪をする」


司令は頭を下げるが、こればかりは仕方がない。

200年前の勇者一行は3人だけで、魔王領に行ったそうだ。

もちろん、前回も従者はいたが、今回と同じ様にこの場所に野営をしている時に襲撃を受け、負傷してしまったそうだ。

今回も奇襲や襲撃を警戒していたが、一切なかった。

前回は境界付近での戦いが主で、膠着状態だったためこれを打開するために勇者召喚を行ったそうだ。

そのため、魔王軍側も戦力に余裕があり、頻繁に襲撃があったそうだ。

勇者3人だけなのでかなり大変だったそうだけど、境界に近い街は人間との貿易をしていたため、人間に協力的だったため協力者が居て助かったそうだ。


 一方、今回は主力部隊が大打撃を受けため、戦力維持のために打って出なかった司令は分析している。

魔王軍の戦力は無限の様に思えるが、魔族やモンスターも湯水のように湧く訳では無いようなので、やはり数に限りはある。

魔族にもクラスがあって、下級になると人間とほぼ同じで、魔王軍に入れないらしい。

中級だと魔王軍に入れるが、一般兵であり1対3ぐらいで人間の兵でも一応倒せるそうだ。

ただ、中級魔族は魔王軍の主力であり、魔王軍の全体の7割を占めている。

そのため、数が非常に多くて、まともに戦ったらやはり勝てない。

魔王軍の残り3割は魔族以外のモンスターとの事。


 上級となると、魔族1人に対して、50人の兵士が必要になるそうだが、それでも倒せるかわからない。

さらに勇者でも上級魔族1に対して3だそうなので、1体の魔族を相手するに3人がかりとなるそうだ。

ただ、上級魔族自体は実はそこまで多くなく、大体は政治の仕事が中心なので軍人は全部で4人だそうで、そのうちの1人が今回の侵攻の総司令だった。

情報では残りの3人は1人は総司令、2人が各方軍司令となるらるしいが、魔王軍の方面軍は境界を守る第3軍、中央を守る第2軍、魔王城の防衛ラインに第1軍からなるらしい。


 今回の侵攻は第3軍と第2軍によって構成されて、第1軍は本土防衛のため残されたらしい。

なので、今回の侵攻で全軍の3分の2の戦力を投入したが、大打撃を受けて今が好機との事。

ただ、司令と言ってもいざとなったら、直接戦うのでかなり大変そうだ。

また、魔王城を守る近衛部隊もいるそうで、四天王はいないらしいが近衛部隊隊長が魔王の次に強いらしい。

これらを倒してやっと魔王と戦うことになるとかで、魔王となると強さが正に別格らしい。

勇者3人がかりでも勝てないと言うが、どうも勇者3人の力で魔王を弱体化させる事ができるらい。

ただ、弱体化と言ってもやっと3人で互角に戦える程度になるだとか。


「それにしても、魔王軍をマチルダさんだけでよく押し返しましたね?」


話し聞いて俺は疑問に思ったが、マチルダさんの攻撃強化はマチルダさんだけではなく

他の人の武器にも付与できるそうで、普通の武器も伝説の聖剣と同じ攻撃力に出来ると言うので、これこそチートスキルと言っていいかな。

一般兵の剣や矢にも付与して、魔族や魔物相手でも余裕に戦えたそうだ。

特に弓矢への付与は、ロングボウによるアウトレンジ攻撃をしたそうだ。

しかも、命中すれば一撃とは言わないが、2,3矢が当たれば魔族を倒せるそうだ。

命中率は低いが、雨の様に矢を降らせれば魔族といえたまったものじゃない。

ただ、1本、1本、付与するの大変って思ったら、矢筒に付与すればすべての矢に付与されたそうだ。

しかも、折れるなど破損しない限り持続するから、本当にチートだな。


マチルダさんのスキルは

『攻撃力は伝説は聖剣と同じであるが、付与された物の耐久性は変わらない』

という弱点があり、例えばすぐ折れる木の枝も伝説の聖剣と同じ攻撃力を付与できるが

耐久性変わらないため、1撃で折れてしまいただの木の枝に戻るそうだ。

その点、矢は実質使い捨てで離れた位置から放つので、この弱点もあまり問題にならないそうだ。

しかも、命中しなくても原型を保っていれば、効果は持続するので

矢に触れただけでもダメージを与えるので地雷的な使い方が出来るそうだ。

なので、わざと外して魔王軍の後方に地雷原を作って撤退時に損害を出すという方法も取ったそうだ。

こう考えると、なかなか戦略家だなぁ。


 さらに人に付与すれば、素手でも倒す事ができるそうだけど、これは勇者以外に行うなうと身体が耐えれなくて、1発殴ったらだけでも腕の骨がバラバラになるらしい(実際に試したらしいが魔法で治療は出来た)。

なので、勇者以外には使えないが、実は人に付与し場合は攻撃魔法にもスキル付与がされるそうで。

しかも、解除するかその人が大怪我でうごけなくなるか死亡しない限り、効果が続くそうだから本当にチートだな。

ただ、難点が全くない訳じゃなく、力の調整をしなと触れた物が壊れてしまったり

人間もちょっと小突いただけでも吹っ飛んでしまうそうだ(これも実際に確認済み)。

なので、戦闘が終わったら速やかに解除する。


「なんでも付与できるのはすごいですが、回数制限とかはないのですか?」


俺がマチルダさんに質問すると


「魔力がある限り何度でも付与可能だわ。しかも、1回当たり魔力が1しか消費しないの」

「今のマチルダさんの魔力はいくつですか?」

「1週間ぐらい前に調べ時は1000あったから、1000回は行けるわ。ここに来た時点でも、魔力は800あったわよ」


マチルダさんは初期値から魔力が高かったそうだ。

しかも、スキルでの魔力消費はレベルに関係なく1だったそうだ。

ただ、初めは他人に付与できる事は知らなかっただけど、説明書を読んで知ったそうだ。

また、レベルアップによって1回の付与で付与できる個(人)数が増えて行ったそうだ。

ちなみに、今のレベルだと1回の発動で最大30個(人)まで付与できるそうだ。

っという事は、3万個や3万人に付与できるから本当のチートだな。

実は一番危険なのはマチルダさんで、魔王軍を1人で押し返したって言うのは間違いないな。


「しかし、魔王領では弓兵が居ないので、魔法以外は接近戦になる」


司令はこう言うが、確かにそうだ。

魔法に付与できるから大丈夫と思うが、魔力の消費も年齢や個人差があるが

消費過ぎると一晩寝ただけでは完全に回復しない。

さらに、通常ならば馬車に乗ってるだけでも少しずつ回復するが、瘴気から身を護るため、動かない事による自然回復も見込めないらしい。

なので、魔法は無駄に使えないそうだが、魔力回復のポーションはあることはあるが貴重なので数は少ない。


「もし、協力者に弓が使える人が居ればよいのですが」

「魔王領にも下級魔族は弓を使う者もいるそうだ」

「なるほど。でも、協力してもらえますかね」


下級魔族は魔力も人間と同等だというが、それでも歴史に名を遺す伝説級の魔術師レベルの魔力をもっている。

ただ、本当に人間と同等以下の魔力しかない下級魔族の方が多いらしく、ここ居る魔術師の方が下級魔族より魔力があるそうだ。

普段から下に見られているならば、こちら側に引き込む方法もあるが、魔王に弓を引く勇気はないかもしれない。

とはいえ、人間側の魔族もいるそうだから、これは利用しないと。


「ふふふふ」


俺は思わず、笑い声が出てしまったが、完全に何かを企んでいる笑い声だった。


「なんか、博司様が悪い事を考えています」

「ああ、俺でも悪い事を企んでるとわかる」

「でも、悪い事を企んでる男性も悪くありませんわ。きっと、わたくしをあんな風に…」

「いいから、今は黙って」


1人だけ反応がおかしいが、そんなに悪い顔をしてたのかな?

どうあれ、現地の協力者を探すのは大事だ。

ただ、人間側と言っても魔族に違いないから、本当に信用できるかはわからないけが。


「正直、作戦らしい作戦はない。ただ、勇者様達が無事に帰ってくる事を祈るしかあしません」


司令はすまなそうに言うが、


「そのために俺達が来たのです、魔王を倒して全員無事帰還します」

「わたし達に任せてください、司令」

「わたしは…博司さんやマチルダさんみたいな自信はありませんが…無事に帰ってきます」

「それではよろしくお願いします、勇者様ならびにその従者、そしてドゥニーズ様」


司令が頭を下げ、俺達は


「「「魔王を倒して勝ってきます」」」


と答えたのであった。

そして、明日の朝、日の出とともに魔王領へ立つのであった。

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