野営地

第14話 到着

 紙が出来た翌日、パピーを出発して先行している2人の所へ急ぐ。

ただ、ここから先は駅が2か所しかなく、2か所目を過ぎたら街もない。

かつては途中に宗教都市である、聖オーリアがあったが魔王軍との戦いで壊滅してしまった。

復旧は始まってはいるが、ほぼ全てが破壊されてしまったので1から作り直す状態のため、まだ手が付けられていない。

俺達はその聖オーリアを通過している最中である。


「本当に建物が残ってないな」

「話には聞いてはいましたが、実際に見ると酷いのです」


原型をとどめているのは大聖堂ぐらいであるが、それも正面の一部のみで8割方破壊されていた。

また、一般の住宅地は基部分しかなく、他の大きな建物も壁と柱が一部柱残るだけであった。


 住民はもちろんおらず、被害調査と再建計画の為に数人の人がいるだけ。

今、俺値が通っている場所は街の大通りであるが、建物の跡からかなりにぎわっていたと事がわかる。

そして、ここに来て戦いが現実味をおびてきたのであった。


「今までは地のモンスターと戦ってたけど、これを見ると魔王軍はすごいんだな」

「グレイも魔王軍との戦いは聞いた話だけなのですが、ここでは1か月にわたり街中での戦いが繰り広げられるそうなのです」


 グレイが言うには、魔王軍との戦いの前に市民は戦いに参加する志願者以外の避難させ

ここで魔王軍を食い止める作戦だったがそうだ。

最初の1週間は街の手前で食い止めていたが、段々と押されてついに街の中に魔王軍がなだれ込む。

そこからは市街戦となり、戦いの生き残りや脱出した教会の幹部の話では建物の一部屋を奪い合う戦いであったそうだ。

そんな戦いでなかなか決着がつかず魔王軍もしびれを切らし、建物ごと破壊する作戦に切り替えてたそうだ。

そのため、すべての建物が破壊されてしまったそうだ。

貴重な物は疎開されて無事であるが、それでも失ったものは人的な物を含め大きすぎたそうだ。


「これからはその魔王軍と戦うんだな・・・」

「そうですね・・・博司様は怖いですか?」

「実は初めのうちはそうでもなかったが、これを見て怖くなった」

「グレイも怖いのですが、お役目なので戦うのです」

「俺もここに来た以上、役目を果たすよ」


勇者召喚って簡単に言うが、やっぱり命がけの役目なんだと今になって気づいたのであった。



――――


  聖オーリアから7日、やっと先行した2人の野営地へ到着したのであった。

ただ、野営地といってもここが魔王領へ攻め込む拠点となるので、ちゃんとした街になっていた。


「皆さん、遅くなってすみません、手洗博司、今到着しました」


到着早々、皆の前で土下座をするが、皆何をしてるのかわからず

黒髪の女の子・・・果歩さんがみんなに意味を説明してて理解してくれた。


「わかったから、立ち上がって」


金髪でグラマーなお姉さんはマチルダさん。

見た所、年上で正にお姉さんって感じで、俺好みである。


「わたしはマチルダ・オハラよろしくね」


マチルダさんは右手を出したので、握手をするのかと思ったらそのままグーパンで殴られた・・・。


「まったく、遅い!遅すぎるのよ!わたし達はここに3か月近く待ってたのよ!」

「す、すみません。何も言う事はありません…」

「親からは人に手をあげるなって言われているけど、ここは別の世界だら構わないよね」

「それについても言う事はありません…」

「ま、私に殴られて何もないのは、流石勇者よね」


マチルダさんは実はスキルを使っていたそうだけど、普通に殴られたよりも痛くないから手加減をしてくれたと思ったら違うらしい。

試しに、木を殴って見せたけど…太い木を素手で殴って倒したのであった。


「スキルを使えば素手で木を殴って倒せるからね。ただ、人間を殴ったのは博司が初めてだわ」


マチルダさんは笑うが…何もなかったから良かったけど、何かあったらどうするんだろう。


「その時はその時で、治療できる人は大勢いるから大丈夫よ」


またマチルダさんは笑っているが、治療が出来てもやばそうな気がする。

というか、下手したら骨折ですまない感じもするけど…。

それはともかく、これで勇者3人が揃ったので、ついに魔王領へ進軍する事となる。


俺達がこんなやり取りをしていると、兵士がやって来て


「指令殿が集まるようにおっしゃっておりますので、勇者様達もお集まりください」

「わかりました」


兵士について行くと、司令官が壇上に上がりこれからの事を説明する。


「本日、ついに勇者3人がここに揃い、これで念願であった魔王領へ向かう事が出来る。

魔王領へは2日後に出発する。だた、魔王領へ入れる者は限られている。

勇者とその従者の他に同行でいるのは、適正がある者のみだ」


魔王領はいわゆる瘴気がある為、普通の人だと徐々に弱って行き、場合によってはそのまま死ぬ事もある。

そのため勇者とその従者以外は適性がないといけないが、適性がある物はかなり限られている。


 適性は魔力だけではなく、体質的なもののあるらしい。

そのため、適性を魔石を使用して調べるとの事。

ただ、俺が来る前に適性の調べは終わっていたけど。


 適性があったのは総勢5000人のうち、20名ほどで構成は魔法使いなど魔法が使える人が15人、残りはポーター5人であった。

魔力だけではないと言っても、やっぱりほとんどが魔力を持ってる人だった。


「以上、20名が勇者達と共にするものだ。全員が無事、帰還する事を我々は祈っている」


20名の名前が読み上げれ、場は盛り上がる。

その中にはウィルダさんのお姉さんである、ドゥニーズさんも含まれていたが

これは果歩さんが名前を呼ばれた時にハーフエルと言う事を教えてくれたので、お姉さんとわかった。


その後、訓示が述べられて解散となったが、魔王領に入る準備を皆がしてるのを見ると否応なしに緊張が高まった。



解散後、俺達は3人は小屋へ戻った。

野営地と言っても、テントでなくしっかりした小屋になっているのは

この世界にはテントに出来るほどの丈夫な布がないためらしい。

それに、年単位でここに野営する可能性があるので、しっかりと建物を作ったらしい。

念の為言っておけど、小屋はちゃんと男女別々。

ただ、男の勇者は俺だけで、従者も全員女なので小屋は俺1人で使用することになる。

1人はちょっと心細いが、今は俺の所に果歩さんとマチルダさんが来ている。


3人で先ほどの受け取った同行者のリストに目を通す。


「魔法が使える15人のうち、5人は魔法使いって訳じゃないんだ」

「騎士の方なのですが、騎士もある程度魔法が使える方が多いそうです・・・」


なるほど、魔法騎士って奴かな?


「あとはポーターだけど、移動は徒歩なのか」

「そうよ。普通の馬も魔王領へは入れないのよ」

「普通の馬じゃなかったら大丈夫って事か」

「普通じゃない馬をどこから連れてくるのよ」

「だったら、魔王領から連れて来ればいいんじゃないか?」

「簡単に言うけど、そんなことできるの?」

「それが出来るんだな」


マチルダさんに俺のスキルについて説明したが、そんなスキルがあると信用してくれない。


「だったら、試しに使ってみてよいですか?」

「別にかまわないわよ」

「それじゃ失礼して」


直接触れるのはよしておいて、マチルダさんの顔の近くに手をかざしてスキルを発動させると、緑の紋章が現れたので成功だ。

レベルアップしたせいもあって、直接触れなくてもスキルの成功率は人間なら100%に近い…っと言いたいが、試したのはグレイとマチルダさんだけ。

一応、モンスター相手に試してるが、従属させたところでさせる事もないから

すぐ解除して結局は倒してしまったけど。

ただ、今になってモンスター同士で戦わせてもよかったかもしれない。


「変わった所は特にないわよ」

「見た目とかはかわないですが、成功した場合はこのように緑の紋章がでるので」


マチルダさんに手の甲に出ている紋章を見せが、これはスキル発動時に皆出るらしく納得してくれた。

ただ、マチルダさんの場合は赤だけしかないそうだ。


「スキルが発動した事は確かだけど、わたしに何させるの?」

「そういわれても、胸を自分で揉むとか・・・なんて冗談ですよ」


っと言ったが、マチルダさんは自分の胸を揉みだしたのであった。


「博司、こうでいいかな…」


頬を赤くして、恍惚な表情で大きな胸を揉んでいるが、どうやら冗談でも命令の部分が先だとキャンセルされないらしい。

っというか、こんな表情で自分の胸を揉むとは思わなくてこっちがはずかしい。

果歩さんも真っ赤にしてるが、指の間からちゃんと見てはいるから興味はあるらしい。


とはいえ、こんな事をさせるつもりじゃなかったし、この世界ではセクハラがないかもしれないがこれはまずい。


「すみません、やめてもよいですよ。つい、ぽろっと言ってしまっただけで、そのつもりはかなったので謝ります」


そいうと、マチルダさんは胸を揉むのをやめて


「別いいって、怒ってないよ」


って言ってくれたが、従属してるからな許してくてるだけでかな。

なので、スキルを解くけど何されも文句は言えないけど、だた説明書には

スキルを解いあとも影響が残るらしく1度許せばその状態が続くとあり、いわば洗脳に近い物らしい。

解除すれば問題ないと思ってただけに、思ったよりやばいスキルだった。


「と、とりあえず、スキルは解きますので」


スキルを解除したが、マチルダさんは納得してはくれた。

そして、果歩さんは自分の胸を見て、ため息をついていたが気にしない事にしておこう。


「つまり、そのスキルは何でも従属させられるって事ね」

「はい、そうです」

「人を従属や動物、モンスターを従属させるって怖いけど、博司はそんな使い方しなさそうね」

「ええ、まぁ・・・」


さっきの事があったので、はっきりとないと言えないのが辛い。


「果歩さんのスキルはなんですか?」

「わたしのスキルは…湧水です。どこからでも水を湧かせる事が出来ます…」


果歩さんのスキル湧水は地面だけじゃなく、木や草など、水分がある所から水を出す事ができるらしい。

さらに言うと、人間や動物からも水分を出す事が出来るそうだけど、それってかなりやばい感じがする。

使い方によっては人間や動物から水分を無くして、殺す事も可能じゃないのかな。

ただ、果歩さんは肉や川魚から水分を抜いて、干物を作る事に利用してるとか。


 ただ、これは偶然に発見したらしく、スキルの練習をしてる時、何気なく木に使ってみたら木から水がでて枯れたそうだ。

試しに、草や食べるために獲って来た魚にも使ってみたら、やっぱり水が出て枯れたり、乾燥したそうだ。

この事は説明書には書いてなかったそうだけど、どうやら試した人がいなかったためらしい。


「本当に偶然なんです…。ただ、使い方によってはかなり強力になりますが、悪用したらいけないと思います…」


喋り方からして、果歩さんは気が弱いと言うのはわかるけど、最初はやはりモンスターと戦う事に躊躇したそうだ。

なので、マチルダさんが押し返してくれて良かったと思ったが、魔王軍との戦う事になって逃げたかったそうだ。

ただ、従者のイソルダさんに自分が戦わないと別の人が死ぬと言われて、戦えるようになったそうだ。

とはいえ、いきなりラストダンジョンに出るような敵が出て来たのでまともに戦えなかったそうだけど

マチルダさんが倒した分も、果歩さんの経験値になったのであっという間にレベルアップしたそうだ。


「そうなんですね」

「あの…博司さん、わたしは16歳で年下なので…さんづけはやめてくてだい…」

「そうだったんだ、でも、流石に呼び捨てはなんだかから…果歩ちゃんでいいかな?」

「それだと、戦闘中に気が入らなので…果歩で構いません…」

「それじゃ、果歩で」

「はい、博司さん」

「俺も博司でいいよ」

「いえ、わたしは呼び捨ては無理なので…」


性格的に呼び捨てが出来ないので、博司さんと呼んでもらうけど果歩に呼んで

でもらうと…なんかむず痒い感じがする。


「まったく、日本人は呼び方が面倒ね。仲間だったら気楽に呼びなさいよ」

「ま、これは日本人特有の物だから仕方がないです」

「そうなのね。でも、私と話す時は丁寧じゃなくてもいいわ」


マチルダさんは面倒くさい感じに言うけど、こればかりは仕方がない。

マチルダさんとは気楽に話すようにといわれたので、普段通りに話す事にした。


「ところで、博司にわたし達の従者を紹介してなかったからしておかない?」


マチルダさんが提案するが、俺も2人の従者にあってみた。

皆女性と言う事はヒューゴさんから知らされていたので知ってはいる。


「そうだな、今のうちにしておこうか」

「そうですね…」


俺達は従者を紹介する為、3人がいる小屋へと向かったのであった。

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