第12話 畳工房
翌朝、再び紙工房へ。
一晩おいた紙は水が切れたが、今度は重しを乗せてプレスをするがプレスも丸1日かかる。
さらにプレス後も天日干しをするので、紙は意外と日数と手間がかかるから高いんだな。
「今日は、ここまでですね。他にやる事はありませんので」
俺も重しを乗せる作業を手伝ったが、それ以外に今日はする事もなく、昼前には工房を後にした。
「なんか、時間が大分できたな」
「やる事がないのなら早く出発するのです」
「それはわかるが、やはり紙が出来る所を見たい」
「乾燥が1日で終わるとは思えないのですよ」
「もちろん、それはわかってる。ただ、やっぱり自分が作った紙の完成を見たいから、明後日まで待ってくれ」
「グレイは博司様の事をわかっていますから構わないのですが、ただでさえ遅れているのに、さらに遅くなったらどうなっても知りませんよ」
「もう、十分遅れてるから、この際一緒だぜ!」
カッコよく言っては見たが、内心はどれだけ怒られるかびくびくしてる。
グレイはそれをわかっているかわからないが、呆れた顔で俺をみている。
「しかし、今日はやる事がないな」
「時間を潰しにしましても、この街で見るもはほとんどないですよ」
「確かにな」
観光地と言っても、温泉街は1日居れば全部周れるし、食事をしても宿に帰るまで時間はたっぷりある。
何かいい所がないかって思ったら、畳があるって事は畳屋があるって事か。
「そうだ、畳屋に行ってみようか」
「タタミとは宿の敷物の事ですか?」
「そうだよ。畳があるって事はそれを作る所があるって事だしな」
「そうですが、どこにあるかわからないのですよ」
「宿に戻って聞けばいいと思うぞ」
一旦宿に戻って、畳につて聞いてみると
「実は、畳は街中では作ってないのです」
「そうなんですか!?」
「はい、ちょっと離れた畑の中にある工房でつくっています」
「今から歩いて行けますか?」
「まぁ、行ける距離ですので、簡単な地図を書きます」
宿の主人に書いてもらった地図を頼りに行くが、パピーの街をでて東へ向かうと
畑があるが、この畑は野菜を作っているのではなくて、い草を作っている畑らしい。
「ちゃんとい草があるんだ」
「そのい草が、畳という物の原料なのです?」
「そうだよ、草から作っているんだ。ただ、い草表面だけで全部がい草で作っている訳ではないようだけど」
畳は畳床と畳表からなっているけど、表面の畳表がい草で出来ている。
作り方はまぁいいとして、畳は全部自然の物で出来てる。
「そうなのですか、全部草でできるのですか」
グレイは感心するが、俺もかなりうろ覚えって言うか、自分に畳の知識があった事が意外。
そういえば、うっすら何かの本やネットで読んだ程度の事が説明できるが
実はこれも勇者の力というか、レベルアップしてかしこさが上がったって事でいいのかな?
いや、それはないか。
畑の中にある畳工房に着くと、いかにも寡黙な職人さんらしい人ができたが
「そうか、そうか、今度の勇者様は日本から来たのか。それじゃ、畳は気になるよな」
っと思っていた感じと違う人だった。
「いやね、畳も実は王室に納めてて、かなり高く買ってくれるんだよ。
ただ、魔王軍が攻めてたから、この先続けられるかわからなかったが、パピーの街は被害が出来たが、ここは何故か教わってこなかった訳よ。
でも、流石に魔王軍にもここは何かって聞かれたが、畳を作っていますって言って実物を見せて使い方を教えたら、軍のお偉いさんが気にってよ、魔王様に献上するっていう訳でよ・・・」
なんか、落語を聞いてるような軽快な話し方をしているが、話も落語の演目ぐらい長い。
話しをまとめると、魔王軍の幹部が畳を気に入ったから、魔王様にも献上するから
この工房と職人さんの命、食料と水も保証してもらって無事だったって事だとか。
というか、この職人さん良くしゃべるな。
「なんか、落語家みたいですね」
俺は何となくつぶやいたら
「あれ、勇者様は落語をしってるのかい、流石だね」
っと言ってきたが、その後もあれこれ落語について語ったかが、きっと1時間以上話してたので内容は割愛する。
まとめると、先代の勇者が芸として落語を温泉街で披露してて、ご先祖様がそれを習ったが
あくまでも趣味であたが、それでも口伝で職人の家に受け継がれてきたそうだ。
あと、職人のお父さんの代で文字におこしたそうだが、需要はなかったらしい。
「なんか、関係ない話ばかりですまんな。ただ、今日は畳作りはしてなくてね」
「そうなんですか」
「今は新しい畳を作る為、い草の乾燥等をする時期なんだよ」
「それは仕方がないです」
「ただ、工房だけは見せてやるんで、来なよ」
職人さんに案内されて工房に向かったが、織機が3台あったがここは畳表を作る所だと言う。
「この織機でい草と糸を織って畳表を作るんだよ」
織機を見せてもらうと、機械ぽい造りでどうも手動に見えない。
「この織機は手織りではないですよね?」
「お、流石勇者様わかるね」
職人さんがいるには、これは水車を動力にして織機を動かしてるそうだけど、職人さんも構造まではわからないそうだ。
一応、メンテナンスできる人がパピーにいるそうだけど、説明されてもわからないそうだ。
構造は足踏み式の踏む部分を水車の動力で行うもので、いわば自動織機。
今日は動かせないけど、この世界だとこの織機はオーバースペックな気がするがどうなんだろう。
あとは、畳表と畳床を縫い付けて仕上げる作業部屋であるが、ここは機械じゃなくて手作業だそうだ。
「簡単だが、工房はこんな感じだ」
「作業は1人でやっているのですか?」
「いや、家族で5人でやっているが、今日は作業は休みなんで、パピーで湯につかり行ったよ。俺はい草の様子を見に来たんだが、そうしたら偶然勇者様たちが来た訳だ」
どうやら、運が良かったらしい。
聞いたところでは、昨日は完全に休みだったので昨日だったら誰もいなったそうだ。
「そういえば、畳工房はここだけけですか?」
「魔王軍が来る前は俺の所の他にあと2軒あったが、魔王軍が来る前に逃げて、未だに帰ってこないんだ。この前手紙が来たが、死んじゃいないが、どちらも年寄で後継ぎがいないんで、やめちまうそうだ」
うむ、この世界でも後継者鵜不足なのか。
職人さんの所は息子さんが後継になってくれるので良かったが、その後が大変かもしれないな。
俺の国も文化だからこの世界でも残って欲しい。
「ただ、ありがてえことに、物好きって言っちゃ悪いが、若い姉ちゃんが弟子入りしたんだよ。せっかくだから、息子の嫁になってもらいたいところだよ」
職人は笑いながら言うが、話を聞いた雰囲気からこれは結婚しそうだな。
俺の勝手な想像だけど。
簡単であったけど、一通り説明してもらった。
「今日はありがとうございました」
「グレイも勉強になったのです、ありがとうございましたなのです」
「いや、いいって。勇者様が来る前に、女勇者様もここに来たんだが、やっぱり日本人だったよ。日本人っていうのは畳が好きなんだな」
なんか、かなり重要な情報を聞いたが、女性2人と聞いてはいたが1人は日本人って事か。
「実は俺、先に来た2人の勇者に会っていないのですが、1人は日本人ですが、もう1人はどこ出身かわかりかります?」
「来たのはその女勇者様1人だっが、どうもメリケンとか言う所らしいが、よくわからん」
メリケンってアメリカって事だよね、確か。
ってことは、もう一人はアメリカ人か。珍しく?日本人だけじゃないんだな。
「そうですか、ありがとございます」
「いいってことよ。ただ、俺も聞いたけだから、もう1人の勇者様とは会ってはいないんだがな。俺はまだやる事があるから、勇者様達は気を付けてかえりな」
職人さんはガハハはって笑いながら、工房へ戻って行ったが気づいたら日も大分傾いていた。
工房からパピーで戻るが、今回は先に来た2人の話を聞く事が出来た。
「実はグレイも先に来たお二人には直接会ってないのですよ」
「そうなのか」
「勇者の従者は勇者召喚時に指名される仕組みらしいのですが、グレイは博司様の召喚時に指名されたのですよ。お二人の姿は離れた所でみてはいるのです」
グレイも姿は見ているというが、会った時の楽しみであえて容姿は聞かない。
お約束でポロっといいそうだけど、グレイも実際にお会いしてからの楽しみなので
っということで言わなかった。
「グレイは俺の従者になって良かった思うか?」
「いきなりなにをいうのです、気持ち悪いです」
「いや、何となくだから答えなくても別にいいぞ」
従者候補に選ばれていたとはいえ、いわば自動的に選ばれた訳だから好きで俺の従者になった訳でもないだろうからな。
「王都を出発するのに2か月も待って、出発して18日経ってもまだパピーでこんな事をするとは思わなかったのです」
確かに、2か月待ったのに寄り道ばかりだからな。
通常だったら、パピーまで9日で行ける所を16日と倍近くかかった訳だから、本音は
嫌になってると思うが従者だから口に出さないだけだろうな。
「でも、知らない事を教えてもらいグレイは嬉しいのですよ。それに・・・」
「それに・・・なんだ?」
「耳元で話しますから、もっと近くに来て欲しいのですよ」
そう言われて、近くによると何か触れる感触がしたが、これはグレイの唇だった。
「グ、グレイ、何をしたんだ!?」
予想外の事で俺は慌てるが、グレイは
「ちょっとしたお礼なのです。口ではないので、初めはまだ残しておくのですよ」
と言って、笑うのであった。
「博司様、最初は怖くてしがみついていましたが、今はわたしもモンスターは怖くないのです。強くなったのは博司様のお陰です、ありがとうございます」
グレイが何時もの口調と違う、丁寧な話し方でお礼した。
そういえば、最近は俺の背後からこっそり攻撃すると言うよりも、的確に後方支援をしているって感じになってかも。
時には前に出て、最初の頃みたく俺にくっつく事はなくなったけど・・・。
何か、頭が追い付かないが・・・嫌われてないとって事だけは確かだな。
頬へのキスも気っと親愛の証だから。気にする事はないか。
「では、宿に戻るのですよ。グレイはお腹が空いたのです」
何時もの口調戻って、にひひっと笑うがグレイはやっぱりこうだよな。
でも、考えてみたらグレイは王立の魔法学院に入学してから実際はさっきの話し方がが本来かもしれない。
キャラ付けの為にこんな口調でしゃべっているが、だから最初のスキルの練習の時は従属しなかった訳だな。
つまり、グレイは腹黒ではなくて、本当の自分を隠したから素直じゃないって事だったかな。
ただ、これは俺の勝手な考えではあるけど。
「俺も腹が減って、風呂に入りたから戻るか」
「はいなのです」
俺はグレイと宿へ戻るが、何時もは後ろをついてくるグレイが今は横に並んで歩いていたのであった。
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