第11話 紙づくり

 温泉から部屋に戻ると布団が敷かれていたが、グレイは布団に潜り込んでいた。


「ベッドがないのでどうやってねるかわかりませんでしたが、これが布団なのですか」

「そう、これが布団だ」


俺も久しぶりの布団に寝てみるが、晩夏とはい標高が高いらしい王国の夜は涼しいので薄手の中綿入り布団はちょうどよくて気持ちがいい。

しかし、中綿入りの布団はとても高そうな気もする。


「中綿入りの布団は高そうだな・・・」

「王国は涼しいので綿花が育ちにくく、綿わたは南の帝国からの輸入なので高い

のです」


やはり、中綿入りの布団は高いんだな…。

しかし、温泉に入って布団に入ってると、このまま眠りそうになるが、食事の時間になるで食べに行かないと。


「このままだと寝てしまうから、食事を食べに行くか」

「そうでなのです・・・」


グレイは寝落ち寸前であるが、無理やり起こして食堂へ連れて行った。



 出された食事は流石に和食ではなかったが、聞いたところによると味噌や醤油もあるらしい。

ただ、これらも醤油蔵や味噌蔵が魔王軍によって街が占拠されたのと、大豆畑が

荒らされて収穫できず、さらに帝国からの塩の輸入が途切れってしまったために、仕込めなかったそうだ。

塩自体は王国でも岩塩が採れるのでなんとかなったそうだけど、それでも4割近くは帝国からの輸入だったらしい。


「しょうゆやみそは知ってますが、生産量が少ないのでかなり高いです」


グレイも醤油や味噌はしってはいるが、生産量が少なく上に9割がパピーで消費されるので

それ以外ではほとんど流通せず、王都でも売られてはいるがかなり高い。

参考に醤油は約1リットルで500リフル・・・つまり、6000円もする。

味噌は1kgで400リフル、つまり4800円とこれまたお高い。

なので、貴族や金持ちが自慢する時に使うらしいが、どんなふうに使うかは気になる。


「俺の居た国じゃ、一般的な調味料だから安いが、この世界じゃ高いのはしかたがないか」

「作っている所がパピーのみで、蔵も2づつしかないからなのです」

「他の所で作らないのか?」

「製法が秘密にされているからなのです。もちろん、作ろうとした人はいたみたいなのですが、うまく行かなったみたいです」

「そうなんだな」


製法が秘密とと言っても、実際は製造に携わった人から話は聞けたらしい。

ただ、実際に作ってみても、うまく行かなったそうだけどきっと温度管理や

醤油はかい入れをしないといけないが、これがとても難しいらしい。

ワインやチーズがあるので醸造技術自体はあるが、醤油と味噌はまた違って難しいんだろうな。

ただ、話しをきいたせいか、醤油や味噌の味が濃いしくなってきたかも。

この世界の食事は基本的に塩味で、コショウなどスパイスは貴重なので不味くはないけど、味の違いがあまりないので飽きては来た。


 食事をした後は、特にする事もないし、温泉に入って食事をして

ふかふかの布団に入ったら簡単に寝落ちしてしまった。



―そして翌日


 今日はこの街の製紙業を見る事にする。

一応、トイレで使う紙はあったので、工房で話を聞く事にした。


「あの宿にトイレみたいのがありましたが、あれはトイレでよいのです?」

「一応、トイレであるかな。水洗と言えば水洗かな」

「つまり、排泄物を水で流して溜めないってことなのですね」

「そういうことだけど、あれはそのまま川に流しているが、俺の世界では地面の中にそれ専用の水路を作って、浄化する場所へ送ってから川や海に流すが、この世界でそこまでしなくてもいいかな」

「地面の中に水路を作る事もすごいのですが、何故、流した水を浄化するのです?」

「理由はいろいろあるが、病気を防ぐためとか川や海の水を汚くしないためとかかな。ただ、流れてるのはトイレの排水だけじゃないが」

「そうなのですか」

「俺の世界ではこの世界より人の数がすごく多いし、この世界にない物があるから一旦水を綺麗にしてから流してるんだ」

「どれぐらい人がいるのです?」

「俺の国だけでも1億人を超えてる」

「1憶人なんて、すぐばれる嘘をつかないでくださいのです」

「いや、本当だって」


グレイは疑うが、王国の人口は把握されているだけ30万人ほどらしい。

帝国は200万人らしいが、グレイの知っているデーターは5年前なので

ちょっと古いが、魔王軍との戦いがあったから減っているかもしれない。

魔王領の人口も一応あって1万人らしいが、これは人型をした魔物ベースで

これもデータは20年前と古いのである。

ただ、日本より国土が広いと思う王国で30万人となると、1億人を超えてる事を信じられないのは仕方がないだろう。


「本当か信じられませんが、調べる方法がないので信じるのです」


本当は1憶2000万だけど、1憶でも十分多いからいいか。


「それはいいとして、宿で教えてくれた工房はここみたいだな」


宿でトイレの紙の事を聞いて、仕入先の紙工房へやって来た。

工房の主に宿にあった紙の話をすると


「あの紙はうちで作っている中で一番薄くて、柔らかい紙なのですよ」

「そうなんですか」

「以前来られた勇者様に、出来るだけ柔らかい紙を作って欲しいと言われましたが、製造をする前に勇者様が戻られてしまったので、製法もかなり大まかにしかわからず、独自に研究を重ねましたが・・・それでもあのような硬い紙しかできないのですよ」

「そうなんですね」


代々研究を重ねて、現在の硬さになったそうだが、かつてはわかりやすいくいえば段ボールぐらい堅い紙であたそうだ。

なので、今の紙は一応、お尻が拭く事が出来る堅さにはなったそうだ。

とはいえ、思いきり拭いたら傷になそうなので、そっと当てて拭う感じになるけど。


「グレイも使いましたが、葉っぱよりは水を吸うのですよ」

「女性の方はそこまで悪くないと聞いていますが、それでも大の方はいまいちと言われています」

「紙の作り方はどのようにしています?」


ここの紙の作り方は繊維をローラーで伸ばして、水に数日つけてそれを重ねて重しを乗せる方法とのこと。

これはパピルスの作り方に近い感じになるのかな。

ただ、トイレの紙は水につけるだけじゃなく、細かくして加熱して繊維を柔らかくてそれを水と混ぜる。

水に混ぜた物を型に入れて重しで1日かけてしてから、天日で乾燥させるというやり方だそうだけど、それでも繊維が太いので硬いそうだ。


「なるほど、だから硬いのですね」

「自分達が知っている方法はこれぐらいなので、知っていれば教えていただけますか?」

「俺もうろ覚えなので、何とも言えませんが・・・実際にやりながらの方がよいかもしれません」


 原料の三椏みつまたを大きな篭いっぱいに持って来てもらい、水を張った大鍋に火を沸かしてもらう。

湯が湧いたら、そこに三椏を入れてぐつぐつに出すが、確か灰を入れるはずと思って

竈から灰をもってもらうが、どれぐらい入れたらいいかわからないので、とりあえず多くならない程度にいれてみた。


 煮えたら、繊維だけ取り出して一旦冷ます。

冷ましてる間は食事をしたり、街をぶらつくかまさに冷やかしだな。

冷めた繊維をほぐして、水に入れていくが割合がわからないけど、あまり多く入れる必要はないかも。

確か、小学校の時に和紙の紙漉き体験をした時に聞いた割合は数%とかだった気がするが、これもうろ覚えなのでわからない。

繊維の量自体がすくないので、少量の水にドロッとなるまで少しづつ入れたが

この時、繊維をほぐすはずなのでほぐしておいた。


 ドロっとした液ができたら、紙をいてみるが手元にある道具だと目が大きくてうまく行かない。


「もっと目が細かい物・・・ザル見たい物はりますか?」

「ザルがよくわかりませんが、水を通す入れて物はありますので、持ってきますよ」


主はザルのような目が細かい物を持って来たので、それでやってみたらひとまずできた。

ただ、厚さは均一ではないが、試作だしどうせ拭いて捨てるものだからかまわない。

思ったよりも


「なんだか面白そうなので、グレイもやりたいのです」


珍しく、グレイがやりたいと頼んだので、やってみたがどっかに偏ってしまい、薄く紙上にならない。


「思ったより難しいのです、博司様は上手なんのです」

「俺もちょっとやっただけだけど、なんか上手くできるんだ」


正直、自分でも意外と上手に出来て驚ている。

あと、主にもやってもらったが、最初はうまく行かなかったが、慣れたら素早く漉くので、流石プロ。


 漉いた紙は板の上に重ねて、一昼夜かけて水を切るってその後は。

ただ、流石に1日ではできないので、今日はここまで。


「勇者様、ありがとうございます。確かに薄い紙が出来そうです」

「俺もうろ覚えなので、うまく行ったかわからないですよ」

「いえいえ、それでもやり方がわかれば、こちらで研究してやりますので後は任せてください」

「わかりました。ひとまず、今日作った紙が出来るかまた明日来ます」

「わかりました、お待ちしています」


今日はこれでおしまいであるが、三椏を煮て冷ますのに時間がかかったのでもう夕方だ。


「今日は珍しく、グレイも楽しかったのです」

「それはよかった」

「あまりうまく行きません出たが、植物から紙が出来るのは面白いのですよ」

「そういえば、普段の紙は何を使っているんだ?」

「普段は羊の皮を使うですよ」


そうえば、羊皮紙というのがあったな。

紙って言うか、羊の皮そのものなんだけど、紙みたいだから羊皮紙っていうらしい。

ファンタジーや中世ヨーロッパが舞台のアニメやドラマ、映画だと

端が丸まった紙で文字を書いてるが、あれが羊皮紙かな。

つまり、良くイメージするファンタジー世界の紙?みたいだな。


「と言う事は、植物から作る紙は高いのか?」

「値段は倍以上するです」

「それは高いな」

「なので、植物の紙は重要な書類や本に使うのですよ」


この世界ではまだ活版印刷は無いようなので、紙を使う本は高くてほとんど流通してないらしい。

本は王国関係の施設と宗教施設にあるだけであるが、ファンタジー世界なのに

ここまで宗教の話がが出てこないのは、魔王軍によって宗教都市が壊滅的になったからしい。

王国の宗教の中心になっている都市は魔王領に近い所にあったそうだ。

過去形なのは最初の激戦地がその都市で、魔王軍を倒すため魔法を使える

聖職者たちが前線に立ったものの、ことごとくやられてしまい、大司教や枢機卿なども命からがら脱出したが、それでも幹部の大部分を失ったそうだ。

残った幹部の人たちは王都にいるが、重要な経典や聖書、資料は開戦前に疎開してあったとはいえ、それでも多くの歴史的に貴重な物が失ったそうだ。


 人的にも物質的にも大きな損害を出して、今の教会は政治に口を出せる状態ではなくいらしい。

ただ、勇者召喚は聖職者によって行われたそうだが、召喚に必要なギリギリの人数だったと。

なんとか人員は足りたから良かったが、実はかなりやばかったのかも。

グレイが時々失敗して、隠蔽してるような事を言ってたけど・・・いや、気にしないでおこう。


 宿に戻ると、今日も温泉に浸かり、美味しい物を食べて、ふかふかの布団で眠るが

やっぱり、日本人は畳の上で布団で寝るのが一番だね。

って、なんか年より臭いかな?

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