第4話 トラウマ
ダンボールの中をある程度出し、一息つく頃には19時50分を過ぎていた。
窓から見える景色は真っ暗。
優々に手伝ってもらったおかげで、面倒な作業もあっという間に終わり。
進行状況としては、ダンボールがあと数個。中に入ってるのは本やフィギャアなど、生活必需品じゃないものばかり。
あとは適当に自分でやろう……。
そんなことを思いながら、休憩中にじゃんけんで負けて近くのコンビニで買ってきた緑茶を飲んでいると。
ソファで隣に座っていた優々が突然立ち上がった。
「夜ごはん作ってあげる」
「…………勘弁し」
「ん? なに?」
聞こえないように小声で呟いたつもりだったが、怖い笑顔が向けられた。
手料理を振る舞われるのは嬉しい。だがそれは、食べられないものを作らない人からのものに限る。
そう、優々はとんでもないほど料理下手なのだ。
「一応確認なんだけど、今までどんな料理作って俺に振る舞ってくれたっけ?」
「もぉ〜忘れないでよね。オムライスでしょ? 焼きおにぎりでしょ? あと焼肉丼!」
よく自信満々に言えるな。
俺にとって優々の手料理は若干トラウマなんだけど。
「普通ケチャップを入れるはずのチキンライスにチリソースをとんでもない量入れて、生卵のまま包み込んだオムライス」
「ゔっ」
「強火でずっと焼いてたせいで片面黒焦げになって、1つフライパンをダメにした焼きおにぎり」
「ぐわっ」
「豚のひき肉を蒸し焼きにして長時間放置したせいで火災警報器が鳴り響いて、結局冷凍のからあげをご飯の上に乗っけた自称焼肉丼」
「た、たまたま不運が続いちゃっただけなんだけどな、なぁ〜……」
偶然だと言ってくるが、かなり目が泳いでる。
優々って昔から嘘つくの下手だ。
「とりあえず一緒に住むんなら、当番を決めたほうが良さそうだけど」
「でもそうなったら理央くんがご飯作ることになるじゃん」
「もちろん」
「むぅ」
自分で料理下手だって自覚あるだろうに、なんでそんな不満そうにするんだ?
「まずは胃袋を掴むことが大切なのに……」
「なんか言った?」
「いや別に。こっちの話」
何を隠してるのかよくわからないが、中々折れそうにない。
もうこれ、俺がトラウマを乗り越えるしかないのかな……。
若干諦めムードでソファに体重をかけ、リラックスし始めると。
隣りで立ち上がっていた優々が座り直し、俺と目線を合わせてきた。
「頑張って料理練習してちゃんと食べ物を作るからさ。いい?」
「……仕方ないなぁ」
「やった!」
俺は押しに弱いということを理解したお願いにまんまとやられ、首を縦に振ってしまった。
その後話し合い、最終的には料理当番は交代交代でやることになり。
他の家事はかさならないように交代交代でやり、もしできないことがあればそれを「貸し1」にして、後日何らかの形で貸しを返すということになった。
貸し1制度を決めたとき、なぜか優々がニヤニヤしてたけど……あれはなんだったんだろう?
ちなみに俺はこの貸しで料理当番を譲ってもらうつもりだ。
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