【会話のみ】幼馴染みの最終回

下東 良雄

幼馴染みの最終回


「ねぇ、ナオト」


「ん?」


「高校、卒業しちゃったね」


「そうだな、三年間あっという間だった」


「この通学路歩くのも最後かぁ……」


「桜が綺麗だな」


「桜舞い散る中、最後の下校……だね」


「そうだな……」


「卒業式、みんな泣いてたね」


「トモミは笑顔だったな」


「うん、泣いて『さよなら』より、笑って『またね』がいいなって」


「トモミらしいな」


「私らしい?」


「いつでも笑顔で前向きでさ、小さい頃からそうだった」


「うーん……そうなのかな。自分じゃ分かんないや」


「俺、昔は引っ込み思案だったからさ、トモミってスゲェって思ってた」


「そういえば、小さい頃は私の後ろにくっついて歩いてたよね」


「それを言うなって……」


「あはははっ、あの頃のナオト、可愛かった」


「今も可愛いだろ?」


「あはははははは、何言ってんのよ」


「でもさ、そんな風に俺を見てるって知って、ショックだった……」


「そうなの?」


「一応、俺も男だからさ」


「可愛いじゃイヤだった?」


「女の子には、カッコいいとかって言われたいだろ?」


「ハイ、ハイ、カッコいいですよぉ〜」


「ちぇっ、そうやってバカにすんだから……」


「ふふふっ」


「でもさ、そんなバカ言いながら、ずっと一緒だったな」


「幼馴染みだからね」


「トモミ」


「なに?」


「ゴメンな」


「何が?」


「トモミ、彼氏いたことあったか?」


「んー、無いねぇ」


「それって、俺がそばにいることも関係してると思うんだよね」


「そうかな?」


「トモミ、男子に人気あったしさ」


「人気っていうか……みんなヤリたいだけでしょ?」


「あのバカが変な噂流してたからな……」


「うん、本田でしょ?」


「トモミと修学旅行でヤッたって」


「喘ぎ声がスゴいらしいね、私」


「ふざけやがって……」


「その話、信じてる……?」


「そんなワケあるか!」


「ナオト」


「ん?」


「ありがとね」


「何がだよ」


「私、知ってるよ」


「何を?」


「本田と殴り合いの大喧嘩したって」


「結果も知ってんだろ……」


「ナオトがボコボコに……」


「そういうこと」


「本田、空手やってるの知ってるでしょ?」


「知ってるけど……あのバカ、トモミのこと……」


「なんて言ってたの?」


「言えるか……」


「どうせ『あのブス、頼めば誰でもヤラせてくれる』とかでしょ?」


「まぁな……」


「それで私のために怒ってくれたんだね」


「ボコボコにされたけどな」


「知ってる? その喧嘩からナオト、女子の間で大人気だったのよ」


「ありえねぇだろ、自分から殴りかかって、返り討ちにあってんだから」


「でも、最後まで掴みかかって『取り消せ!』って叫んでたって」


「だって、そりゃ……」


「あれから本田の株は、女子の間ではずっとストップ安の紙切れ同然」


「あのモテ男が?」


「だって本田の話が仮にホントだったとしてもだよ」


「うん」


「誰がエッチまでした女の子を侮辱するような男と付き合いたい?」


「そりゃそうだな……」


「それよりも、女の子の名誉のために果敢に戦ったナオトが……」


「ボコボコにされてもか?」


「そんなの関係ないよ。ナオトのことカッコいいって、みんな言ってた」


「そのわりには全然モテなかったな、高校生活三年間」


「あー……私のせいかもね……」


「トモミの?」


「さっきのナオトの話じゃないけど、私がそばにいるから……」


「彼氏彼女ができないのは、お互い様か」


「たぶんね」


「おっ、そこの公園寄っていこうぜ。桜がスゲェ綺麗だ」


「うん!」


「こうやってトモミと歩いたりできるのも、これで最後かな」


「最後……なの?」


「進路も違うしさ」


「そう……だね……」


「俺は就職、トモミは進学」


「うん……」


「小さな頃からずっと一緒だったけど、俺らの物語は今日が最終回だ」


「最終回……? 最終回って何?」


「あー……言い方悪かったけど…」


「『私たち』の物語なんでしょ? 最終回ってなによ!」


「トモミ…」


「『私たち』の物語を勝手に終わらせないで!」


「ゴメン……ほら、ハンカチ」


「ありがと……私も大声出してゴメン」


「俺が言いたかったのはさ、付き合い方が変わるってこと」


「付き合い方?」


「これまではさ、同じ学校に行ってたから一緒にいたって感じだろ」


「まぁ、そうかもね」


「これからは進む道が違うから、いつもと同じようにはいかないよな」


「そんなこと……」


「そんなことないか?」


「現実的に考えたら、そんなことあるよね……」


「でもさ、俺、トモミがいないなんて考えられないんだよ」


「私だって……」


「明日から俺らも大人だ。新しい物語をトモミと紡ぎたいんだ」


「ナオト……」


「高校生の今日まで、俺たちは幼馴染みだ」


「うん」


「明日からは恋人としてトモミにそばにいてほしいんだ」


「ホントに私でいいの……?」


「俺はトモミがいい」


「こんな桜の樹の下で告白なんて、ナオトってロマンチスト?」


「茶化すなよ」


「ふふふっ、じゃあ返事するけど……」


「するけど……?」


「言葉なんていらないよね……」


「トモミ……」


「ファーストキスの味は、いちごミルクの味だったわ。ふふふっ」


「さっきキャンディ食べたからな……」


「ナオトも初めて?」


「当たり前だろ! トモミ以外にそんな……」


「ふーん、あ、顔赤いよぉ〜?」


「トモミもだろ!」


「あははっ、そうだね。顔がすごく熱い」


「トモミ」


「なに?」


「いままでありがとう」


「うん、私もありがとう」


「これからもよろしくな」


「こちらこそ」


「トモミは言葉なんていらないって言ったけど……」


「うん」


「やっぱり必要だよな……」


「どういうこと?」


「トモミ、ずっと好きだった」


「過去形なの……?」


「そうだ、過去形だ」


「今は?」


「愛してる」


「えっ?」


「愛してるよ、トモミ」


「ねぇ、ナオト……」


「ん?」


「本田が流した噂、気にならない?」


「全部ウソだと思ってるけど……そりゃ……正直言えば、気になるよ……」


「じゃあ、確かめてみて」


「え?」


「私がそんな女かどうか、ナオトに確かめてほしい」


「トモミ……」


「ふふっ、ほら早く!」


「わっ! ちょっと待てって、腕を引っ張るなって!」


「早く確かめて!」


「ちょ、そんなに慌てんなよ」


「私だって初めては愛してる人にあげたいの!」


「お、おま、そんなあからさまに……でも、その前に」


「ど、どうしたの、急に手をつないだりして……」


「俺も男だからさ、トモミとエッチしたい」


「うん! だから……」


「でもさ、それよりももっとしたかったんだよ……」


「何を……?」


「手をつないで、一緒に帰りたかったんだ。ずっと……」


「ナオト……」


「幼馴染みとしていられる最後の時間だな」


「桜が散るのとともに、最後の時も過ぎていく……」


「桜が散れば、また鮮やかな若葉が芽吹く」


「うん」


「また新しい花をふたりで咲かせよう」


「ふふふっ、ステキな彼氏ができて嬉しいな!」


「バーカ、ほら行こう、トモミ」


「うん!」


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