第26話 漂流。

ワタクシとしたことが……」


 アリエスは、寒々とした巨大ロボットのコックピットで、白いシルクの下着だけを身に付け、自分自身を抱き締めて座っていた。



 初の実戦で素直に喜ぶ事が出来ない、運が良かっただけの勝利を収めたアリエスと巨大ロボットドラグヌフ


 敵からの敗北信号を確認し、撤退を邪魔しないと返事を返すが、そこで元々ゼロだった魔素エネルギーが完全に底をついたのか、コックピットの生命維持機能を除いて、全ての機能が停止する。


 アリエスも魔力を殆んど使ってしまったため、アリエスの魔力を巨大ロボットドラグヌフに与える為に、種族固有のスキル技である『魔力逆流エナジーリバース』を使用する事も出来ない。


 そこからは、アリエスとドラグヌフは、二人きりで宇宙空間を漂流する事になった。




「私としたことが、何でこんな目に……」



(――――いえ、違いますね。私ごときだからこそ丶丶丶丶丶丶丶丶丶、こういう事態になっているのですわ……)



 アリエスが長い回想を終え、意識が現実に戻ってみても、もちろん状況は変わっていない。

 全て、自分の増長が招いた結果だった。


 巨大ロボットのコックピットに膝を抱えて小さくなっているアリエス。

 白いシルクの下着だけを身に付け、心細そうに震えている吸血鬼ヴァンパイア族の少女。



 密かに、コックピット正面と左右のレンズが、少女の姿を記録に収め始める。

 回復した魔素は、最優先で記録装置に回されるべきと、この恐るべき巨大ロボットドラグヌフは考えていた。




『クロマグロ号』はザンドとグレゴリを下船させて、既にこの宙域を離れてしまったのだろうか。



(――救難信号を打つべきなのでしょうか……?)



 救難信号は思わしくない相手を呼び寄せてしまう可能性がある。

 強敵をようやく退けた今、出来れば避けたい選択肢なのだが、アリエスは状況に追い詰められつつあった。




「何モ心配スルコトハナイ。我ガ魔素ヲ回復スルマデ、ユックリ待ッテイレバ良イ」



 その言葉に、ぶるりと震えるアリエス。



「モウ一度説明スルガ、生命維持ニ関シテハ本当ニ何モ心配スルコトハナイ。食事、排泄、必要ニナッタラ言ッテクレ。全テ我ニ任カセテクレ」




 やはり、アリエスの耳には巨大ロボットドラグヌフの声が明るく聞こえる。




「それにしても、ドラグヌフ。貴方の破損した箇所の修復はどのようにすれば良いでしょうか?」




 アリエスが未熟だった為、ドラグヌフは右腕が完全に動かなくなり、胸部装甲も破壊されてしまった。




「安心シテ欲シイ、シバラク、高魔素風呂ニ毎日入レテクレタラ、ソノウチ治ルダロウ」




「そうなのですね……凄い……」




 別の話題はアッサリと終了し、また下腹部あたりを意識してしまう。




(――『排泄』って、ドラグヌフはどう処理するというのでしょう……?)




 そろそろ、アリエスの膀胱は『限界』を迎えつつあった。

 念の為、処理の方法について、詳細を確認する必要がある様だ。




「――その、『排泄』する場合には、貴方はどの様な設備を備えているのです?」




「排泄用ノチューブ等ヲパイロットノ体ニ繋ギ、吸イ上ゲテ化学的ニ処理スル」




 アリエスは「なるほど」と思った。




(――『小』の場合は、チューブか何かを私の『おしっこ』の口に接続して、吸い上げて排出する。それだけのこと……なのでしょうか……?)




 意識すればするほど、『尿意』が高まってくるアリエス。




 なんと言えば良いのか、説明が難しいのだが、この巨大ロボットドラグヌフの言葉を素直に信じれば、とても良いシステムだと思う。

 思うのだが、何か見落としている欠陥――落とし穴が隠されている気がする……。




(――他の方法は無いのでしょうか? もう少し検討してみないとですわ)




(――例えば、宇宙空間に出て直接してしまう。そしたら? 半永久的に私の『おしっこ』が宇宙空間を漂ってしまう事に……。他の方へ迷惑を掛けてしまうかもしれない。「なんだこの液体は?」なんて言われたら? 凍って小惑星の一部になったら? 「新しい物質を発見した!」なんて事になったら? DNA検査か鑑定魔法で持ち主の名前が判明したら?)




 そこまで想像して、顔を真っ赤にして、ブンブンと頭を横に振るアリエス。

 前世の時の様に、男性であれば、気持ちよく宇宙に放出できた気もするが、この少女の体と心では、まったく出来る気がしないのは何故だろう。


 ――やはりここは、巨大ロボットドラグヌフ処理丶丶を頼むしかないのだろうか。




「ドラグヌフ。その……」



「ハイ、何デゴザイマショウ。食料、水、ソレトモ『排泄』?」



 何故か執事口調になる巨大ロボ。



 今ここに、広義の意味でアリエスの貞操が危機に瀕していた……。




 アリエスが巨大ロボットドラグヌフの姦計に陥ろうとした正にその時、アリエスが胸に抱えていた宇宙通信機に通信が入る。




「―――――ザザ………ザっ……あ……お嬢様っ、アリエスお嬢様!」


「その声は、ザンド!?」

「お嬢様、無事でしたか!?」

「お嬢!」「お姫さん!」「無事だったっすね、良かったっす!」「にゃにゃー!」



 すんでの所で守られたアリエスの貞操であった。




「は、早く、私を回収してくださいっ、膀胱が破裂しそうですっ」







 危機は一旦回避出来ましたが、まだまだ危険な旅は続きます。

 アリエス一行の旅の結末やいかに。





 ~fin~






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TS転生した吸血伯爵令嬢は巨大ロボットの夢を見る 黒猫虎 @kuronfkoha

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