第25話 双頭毒蛇、最後の日。

 

ヴェルト大丈夫か」


「グフッ――――すまん、兄貴ヴェルス、少々怪我をしてしまった。これ以上は無理そうだ……」



 後部座席のヴェルトの方が負傷したようだ。



「機体の方も、もうダメだな。胸部と腹部の装甲がこれだけ削られたら、操作系統にも影響あるな。右側が全部ダメになってる。ここまでか、我々の負けだな」



 伯爵令嬢に敗北信号を送ると、撤退を邪魔しないという信号が返ってくる。



「全操縦は俺がするよ」



「ゴフッ――――頼む、兄貴ヴェルス



 機体に大きくあいた穴は、緊急の修復機能で応急処置的に塞がれている。



ヴェルト、もう少しだからな、頑張れよ」



「ああ、大丈夫だよ、兄貴ヴェルス。さっき、痛み緩和の魔法を打ったから」



「お前、いつの間にそんな新しい魔法覚えたんだ」




 二人の乗る巨竜機人アスタロイドが検問船に回収される。




ヴェルト、よし、着いたぞ」




「 」




「おい、着いたぞ――」




「 」




 後ろを振り返った兄の眼に映ったのは、300年間、片時も離れることの無かった己の半身が、目を見開いたまま、呼吸をめた姿だった。


 顔の側で、涙と鼻血が球になって漂っている姿だった。


 腹から内臓をこぼしながら物言わなくなってる姿だった。








「――おいおい、そんな、おい!」







ヴェルト……ウソだろ、ヴェルト…………」







 何度呼びかけても、返事が返ってこない。







「ヴェルト――――!!!!!」








 アリエスの『恒星剣ジュリオール』は巨竜機人アスタロイドの腹だけでなく、ヴェルトのわき腹も削っていた――――。









「ぐぅっ…………伯爵令嬢――アリエス嬢、絶対許さん…………只では殺さん、散々辱しめて、犯しまくって、一生奴隷として殴りながら飼ってやる!!」









 ヴェルスヴェルトの復讐を強く誓う。









 弟を想う男の涙は、宙に零れ、弟の頬まで届き、少しだけ濡らした。









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