第19話 クロマグロ号の事情。

 少々、時間を巻き戻す。


 検問船『スタースワン4029』は、怪しい民間船『クロマグロ号』を絶賛追尾中であった。

 追尾対象に『未開拓悪路グランド』に入られてしまったが、今のところ、追尾は順調である。



「恐らく、奴等はこのあたりの小惑星帯に出るつもりだろう。船長、途中ワープアウトの準備を」

「はっ」

「我等二人は、ワープアウト時に隠蔽魔法を掛けよう。少しは気付かれにくくなるやも知れん。その呼吸を合わせよう。合図をしてくれ」

「はっ」


 双子の男エルフは、ひとりの人物かの様に、指示出しを交互で行っている。

 それもそのはず、彼らは人間でいうと二十歳そこそこの青年にしか見えないが、御歳おんとし300と少々。

 千年以上生きるといわれるエルフ族ではあるが、生まれてから300年もの間、ずっと行動を同じくしているだけの関係があった。




 追っている民間船『クロマグロ号』が動きを見せる。


「目標、途中ワープアウトします」

「よし、こちらも出るぞ」

「ワープアウトまでカウントします。10、9、8、……」


 双子の男エルフ二人が、交互に魔法詠唱を行う。


「XXX XXX XXX ダークネス」

「XXX XXX XXX ライトシールド」

「XXX XXX XXX インフォハイド」



「ワープアウトします」



 亜空間から抜けると、小惑星が直ぐ目前に迫っていた。



「む!?」「回避!」「はっ!」「わっ――」「神よ――」



 すんでの所で、回避する検問船『スタースワン4029』の操縦士。



「ふぅ。……よし、よくやった。航海図マップを出せ。奴等は何処だ?」

「探知魔法を使います」

「こちらの場所は出来るだけ覚られるなよ」

「了解です」

「船長、我等は巨竜機人アスタロイドで出る準備をしよう」

「はっ」




 その頃、『クロマグロ号』では――。

 


 アリエスが小惑星のドックに探検に出掛けている間に、残された面子の間では問題が起こっていた……。





「入り口を見つけましたわ」

「お姫さん、くれぐれも慎重にな」

「了解ですわ」


『クロマグロ号』船長のヒルダが、アリエスと通信をしている後ろで、その問題は少しずつ姿を見せ始めていた。



「何だと、ニャニャ操縦士、あのクソ双子エルフは連邦イェーヘンの『双頭毒蛇ダブルヘッド』だって!?」

「にゃにゃっ」

「ニャニャは、いつ、あいつらの顔を見たんだ?」

「にゃにゃ、にゃにゃにゃっ」


「そうか、ニャニャが連邦軍にいたときの元上司か」

「にゃにゃ――!」

「あは、勝手に軍の保管食料のサバ缶を食っただけでクビにされたのか。そりゃニャニャが悪いぜ」

「にゃにゃ……」



「しかし、なぜ、連邦の毒蛇が共和国ウァーン軍に……」

「……これは、もっとまずい事態かもしれないぞ」

「……もしかして、そういうこと?」

「捕まったら、俺ら、協力罪どころか消されたりして……」



 ニャニャ以下、船橋ブリッジ船員クルーがひそひそ話をしているが、とうとうヒルダの耳にも聞こえてくる。


「どうした、お前ら」

「あ、姉御」「お頭」「まずいかもっす」

「おい、一度に言われても分からん、代表者が落ち着いて説明しろ」


「あ、お頭、おれっちが説明します」

「よし、『ゴブ助』説明しろ」

「おれっちの名前は『レイジ』……あっはい。実は、ニャニャが――」

「にゃにゃ、にゃにゃっ」



 ニャニャ操縦士が漸く事情を伝えると、ヒルダは、この瞬間、非常に状況が不味いことに気付く。


「な、なんだって!? あの『双頭毒蛇ダブルヘッド』だって? ま、マズいんじゃないかい。噂ではあの兄弟、隠密魔法が得意のはず。もう近くに来ているかもしれないよ! 全力で探知魔法を打て、こちらの場所が知られても構わない!」



「ああっ、発見しました。かなり、近づかれています。距離500!」

「なんだと、やはり、隠密魔法か?」



 ギリギリ命拾いした、クロマグロ号――――。



「よし、お姫さんを置いて一旦このドックを出るぞ! ――客人、構わないか?」


「船長、それが正しい判断ということで間違いないのですね?」ザンド

「いざというときは、我らも剣を持つ」グレゴリ



「もちろん、すぐに戻ってくる! 総員、出発準備!」

「もう準備出来ています!」

「よし、お姫さんに一言、言っておくか」



「――あ、空気、と重力もありますね。明かりもあります」

「そうか、お姫さん、もう少し、中を探索しながらここにいてくれ」

「はい?」


 説明も疎かに、港から離れていくクロマグロ号。


「……ザぇ……ど……し……!ザザ―――――」


 アリエスが何かを言っているが、もう雑音しか聞こえない。


「後で戻ってくる!」


 最後にそれだけ言い残して――向こうには雑音だろうけど――、ヒルダは宇宙通信機を切る。






「姉御! あいつら巨竜機人アスタロイドを準備しているのが見えます!」

「な、何だと! もうだめだ、くっ……殺せ! せめて最後はオークに……」


「船長、何とか逃げてくれ、お嬢様の為に!」



「……奴等が実は『連邦』だとすると、お姫さんは連邦に連れていかれて、アタシらは消されるんだろうねェ。そして、アタシはエルフ男に犯られ殺られて終る……そんな最後なんて御免だよ。野郎共、アタシの為にも絶対捕まるんじゃないよ!」


「船長、そこはせめて『お嬢の為』と言わんか――……」

「お嬢さま、絶対戻ってきますからね――……」


「にゃにゃ――……」






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