第15話 初めて。

 アリエスの唇が巨大ロボットの座席に触れようとする正にその寸前、ピタリと止まった。


「……そういえば、貴方のお名前はなんと言うのでしょう? まだ聞いておりませんでした」



「ワタシノ名称ハ『ドラグヌフ』デス」と答える、無機質な男性AIの音声。



「……ドラグヌフ。実は私、この様な事をしている場合では無いのです。私の連れが大変な事になっている筈なのです」


 クロマグロ号が突然にアリエスを置いてドックを離れてしまったのは、それだけの理由があったに違いない。

 例えば、検問船に見つかりそうになった……とか。

 つまり、アリエスがするべきは、いつ戻ると知れないクロマグロ号をしっかりと待っている事だろう。



「ワタシガ調ベタトコロニヨルト、確カニ、オ連レ様ガ危機ニオチイッテイル様デス。1隻ノ宇宙船ト1機ノ『巨竜機人アスタロイド』ト呼バレル機体ニ追ワレテイルヨウデス。ツマリ、私ガ役ニ立ツデショウ」


 そう言って、ドラグヌフが映し出した映像には、検問船と巨竜機人アスタロイドに追われているクロマグロ号の姿があった。


「わ、映像が凄い……」


 アリエスは、離れた位置の映像を鮮明に映し出された事に、思わず驚きの声を上げてしまう。

 こんな凄い映像を映す機能は、最先端である筈の巨竜機人アスタロイドにさえも搭載されていない。



(――やはりこの機体、見た目はショボいですけれど、金持ちの道楽で作られた最先端の機種なのでしょうか?)



「それにしても、巨竜機人アスタロイドあの船検問船に積んでいたとは……となると尚更なおさらです。こう言っては何ですが、ドラグヌフ、貴方はそれほど強くはないのでしょう?」


 探りを入れるアリエス。


コノ程度アスタロイドナラ問題アリマセン。ワタシハ、コウ見エテ、コノ宇宙史上『最強ノ兵器』デスヨ」


「……中々の大口ビッグマウスですわね、ドラグヌフ。貴方は本当に、あの巨竜機人アスタロイドと戦えるというのですか?」


「余裕ノ勝利ヲ、約束シマショウ。ワタシト貴女ノチカラガ合ワサレバ」


 この巨大ロボット、嫌に自信たっぷりである。



「……なるほど。それほど言うなら試してもいいのかもしれませんね。でも、私ひとりでも貴方を動かすことは可能なのですか? それに貴方を勝手に動かしては、貴方の本当の持ち主にしかられるのでは?」


「マズ、ワタシノ本当ノ持チ主ハ、モウ、コノ場所ニ戻ル事ハアリマセンノデ大丈夫デス。ソレカラ、ワタシハ一人乗リ型デス。ソノ他、全テワタシガ『フォロー』スルノデゴ安心ヲ。運悪ク貴女ノ腕ガ悪ケレバ、ソレモ『フォロー』シマショウ」


「失敬な。私の操縦技術は結構なものですのよ。分かりました。では、貴方の血液オイルを吸わせていただきますね」



 アリエスは意を決して、今度は本気で巨大ロボットドラグヌフの血を吸おうと、コックピットの座席に再度、頬を染め、唇を顔を近づけていく。


「コ、今度コソ……」


 無機質な男性AI――巨大ロボットドラグヌフの音声が、何故か期待した声をらす。


 アリエスの目が、トロンとして、怪しい光を放ち始めた。

 少し開いた唇の間から、可愛らしい、しかし淫靡いんびな雰囲気を放つ牙が姿を見せる。

 この牙を穿うがたれた者は、男女問わず、アリエスの前にひれ伏す事になるだろうと、巨大ロボットドラグヌフは確信した……。


 そして、とうとう――。


  カプッ//----------


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 ----------//……ん、っふぅ」



「グォッ……」


 初めての吸血行為を終え、血液オイルを一滴もこぼさないように美しい色の舌でめとるアリエス。

 その感触に、思わず巨大ロボットドラグヌフうめき声を上げる。


「ふぅ。貴方の血液オイル、さすがに竜血というだけあって、とっても美味びみでしたわ。……これで、私と貴方の間で『血の契約』が結ばれた事になりますの?」

「……ソノヨウダ。魂ノ強イ結ビ付キヲ感ジル。ヨロシク頼ム、我ガ主マイマスターヨ」






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