第12話 好奇心は少女を殺す。

 結局、アリエスは、ドック施設の内部を探索しようと、奥へ進んでいた。

 ふと「好奇心は猫を殺す」という前世のことわざを思い出すアリエス。



吸血鬼ヴァンパイア族というのは、こういう時も好奇心が抑えられない種族なのね……)



 さて、宇宙の片隅で偶然に出会ったこの施設。

 やたら高級感が漂い、空気も美味い。



(――床は大理石なのかしら? あら、ここは何故か絨毯? ほこりは舞っていない……。空気が澄んでいる……美味しい。ここはもしかして、金持ちの道楽貴族か高級商人の隠れ家なのでしょうか……)



 アリエスがそうして進んでいくと、施設の案内板の様な標識を見つけた。

 薄暗いオレンジの光の所為か、文字が読み取れない。

 宇宙通信機についているライト機能で照らしてみると、これまでに見たことの無い文字だった。


「これはなんでしょう。暗号かしら……」つい声に出してしまうアリエス。



 しばし解読を試みるが、あっさりと諦めて先に進むと、広い空間に出る。

 すると、突然、



   バシッ



 まばゆいライトに照らされるそこに存在したものは。



 そこには。



「な、巨大ロボット!?」



 見慣れた『巨竜機人アスタロイド』とは異なる巨大ロボットが直立していた―――。







 突如姿を見せた巨大なロボットを暫し、呆然と眺めていたのだが、どうにか正気を取り戻したアリエス。

巨竜機人アスタロイド』の操者パイロット候補生として、自然に興味を抱く。



操縦席コックピットはどこかしら? あ、これが昇降機ね」


 アリエスは直感で、昇降機を操作し、上部に昇っていく。



「少し、不格好ですわね。土人形ゴーレムみたい……。見たことの無い機体だわ。オリジナルなのかしら?」


 やはり、金持ちの道楽なのかもしれない。

 あれこれ感想を抱いている間に、昇降機は一番上まで昇り切った。



「ここが操縦席コックピット?」


 勝手にあちこち触ってしかられるかもしれないが、吸血鬼ヴァンパイア族の好奇心なのか、どうにも止まらない。



「どうやってコレ丶丶、開くのかしら?」


 操縦席コックピットの入り口をまた、小突いたり、さすったりしていると。



   プシュン



「あ、開いてしまいました?」


 あっさりと入り口が開いてしまい、逆に驚くアリエス。



「お、お邪魔しますわ……?」



 吸血鬼ヴァンパイア族の少女の好奇心は止まらない――――







 操縦席コックピットに乗り込むと、中は一人乗り用単座だった。


 アリエスや元婚約者のシンタロウたちが訓練を受けていた『巨竜機人アスタロイド』等は基本、二人一組で操縦する。

 たくさんの部品をコントロールしないといけない巨大ロボットの操縦は、さすがに一人では難しいというのがこの世界の定説であった。

 ただ、どこかの研究所では一人乗り巨大ロボットの研究開発が行なわれているという噂は常にあったので、アリエスの中で「もしかして、ここがその秘密の研究所? 説」が生まれていた。


 そして――。


「何と言い表せば良いのでしょう。この手触り……」


 アリエスが座席のシートや壁を触ってみたところ、なんともいえない、気持ちよい感触だ。

 この感触は……?


「ヘビ革? ワニ革? あ、これは、鱗」


 古い時代については分からないが、宇宙時代のこの世界ではあまり装飾に使用される事がない爬虫類系の感触。

 アリエスの前世の記憶がほんの少し役にたった瞬間である。

 これはヘビ革、ワニ革などの爬虫類系の感触だろうか。

 爬虫類系と異なる点としては、僅かながら『毛』が生えていたりする。


『毛』が生えている鱗。

 そんな生き物がこの世界に存在する、又はかつて存在したというのだろうか。


 そうこうしていると、



   プシャン



 入り口が閉じられてしまった。



「あ、え? 私、開じこめられた――――?」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る