第11話 おいてけぼり。

 宇宙服を着けずに、手袋だけめて、宇宙空間に飛び出すアリエス。

 彼女のプラチナブロンドの頭髪がまるで水中にいるかの様に漂う。


 前世、普通に宇宙に憧れていた普通の日本人成人男性の記憶を持つアリエス。

 どうしても、宇宙空間に飛び出す瞬間はいつもワクワクしてしまうのだった。

 例えるなら、誰もいないビーチで海に飛び込むような感覚と言えば良いだろうか。

 高揚感の為か、頬を染めうっとりした様子のアリエス。



(この感覚、いつ味わっても最高です)



 吸血鬼ヴァンパイア族の目には、宇宙空間はまったくの暗闇ではなく、魔力の源である魔素の濃さによって、独特な紫色がかった海の様に見えている。


 魔素が濃い場所は、まるで温水の様に温かくもある為、寒さをそれほど感じない。

 それに吸血鬼ヴァンパイア族の身体であれば、魔素を水を掻く様にすれば泳ぐ事もできる。

 吸血鬼ヴァンパイア族の本領は宇宙でこそ発揮されるといえるのかもしれない。


 とは言え、本当に泳いで移動するのは非効率なので、手に持った宇宙銃――宇宙空間を移動するためのガスの噴射装置――をプシュプシュと撃って移動していく。




「入り口を見つけましたわ」


 思念と音声を相互変換する宇宙通信機は、空気がなくとも通信が可能だ。


「お姫さん、くれぐれも慎重にな」

「了解ですわ」





(どうやって開ければいいのかしら?)



 入り口らしき、一辺がおよそ2メートル、正方形状のドアを開けるべく、手袋をはめた手でノックしてみたり擦ってみたり。

 暫くそうしていると、ドアがひとりでに開いた。



(あら、どこかのスイッチが反応したのかしら)


 

 アリエスが躊躇なく入っていくと、そこはエアロック――気圧調整室だった。

 外部と繋ぐドアが閉じ、ゆっくりと空気が満たされていく。


「あ、空気、と重力もありますね。明かりもあります」


 弱いながらも重力も感じられ、アリエスの足が床に着いた。

 非常灯の様なオレンジ色の明かりがいくつか灯っており、視界も良好だ。



「そうか、お姫さん、もう少し、中を探索しながらここにいてくれ」


「はい?」






 突然ドックから離れていく、クロマグロ号。






「え、どうして?」


「……ザっ……あ……で……ザザ―――――」





 雑音を最後に、通信が途絶えてしまう。

 楽しい冒険のつもりが、突然の置いてきぼりとなってしまったアリエス。



  プシャ――――



 途方にくれるアリエスをよそに、エアロック内に空気が満ち、ドック施設の内部へと繋がるドアが開いていく。



(わ、私、こんなところに一人とりのこされてしまったというの……?)



 誘導灯がアリエスを中に誘う。








「……ヤットコノ時ガ来タ。待チカネタゾ我ガ主マイマスターヨ――」







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