第9話 未開拓悪路。

 "ワープ航法が誕生するまでには3人の天才が必要だった。


 かつて、勇者の弟子であり、愛人でもあった一人の大魔女がいた。

 その魔女は、勇者から聞いた『別次元に物を収納出来るたぬき型ロボット』の話をもとに、マジックアイテム『アイテムボックス(かばん型)』の開発に成功する。

『アイテムボックス(鞄型)』はこの世界の物流業界に大きな革命をもたらしたという。


 この一人目の天才の名は『スエイ魔女博士』という。


 そして次の天才は、人類が宇宙進出してから約半世紀後に登場する。


 彼女は、かつて勇者がもたらした『SF小説』に登場する『ワープ航法』をなんとか実現しようと頭を捻っていた。

 徹夜続きで朦朧もうろうとしていた彼女の助手丶丶丶丶丶が『アイテムボックスA』に入れた実験器具を、誤って『アイテムボックスB』から取り出してしまう。

 その助手の失敗を目にして彼女はひらめいた。


「出発地点と到着地点にアイテムボックスAとBの口を作って、その間を通ればいいじゃん」


 この二人目の天才の名を『ドール魔女博士』という。


 最後の三人目の天才は、ドール魔女博士の弟子の『リム魔女博士』である。


『実践と恐怖の天才』リム魔女博士は、実際に丶丶丶人を丶丶乗せた丶丶丶船で丶丶実験を丶丶丶行い丶丶多くの丶丶丶犠牲者を丶丶丶丶出し丶丶ながらも丶丶丶丶、ワープ航法を実用の域まで完成させる事に成功する。


 現在のワープ航法、正式名称『スエイ・ドール・リムワープ航法』はこうして生まれた。"


 ――『ワープ航法の誕生と犠牲者遺族たちの悲鳴の記録』より。



 "ワープ航法はいつでも同じ結果を約束するものではない。

 亜空間――通常の魔法・物理法則が通じない空間、ワープ航法に利用する特殊空間のこと等を指す――の魔素が均一でないと、航路がずれていく事になる。

 航路がずれた場合、出口として設定した口から出ることがかなわない。

 そうなった場合、外側から出口を開けてもらわない限り、永遠に亜空間をさ迷うことになるだろう。


 もっとも、それは大昔の事であり、現在は亜空間から通常空間に戻る方法は編み出されている。

 ただし、亜空間側から通常空間へと戻る場合には、出現地点は確立論的にしか決まらない。

 つまり、「神のみぞ知る」ということだ。"


 ――初級宇宙魔女読本『ワープ航法基本概論』より。




「ニャニャ主操縦士は優秀な航路予測士でもある。アタシ達も何度か『未開拓悪路グランド』は経験している。その度に『もう二度と使わねぇ』と決意するんだがな……」


「にゃにゃ!」「『任せて!』と言っている」

「信頼していますわ、ニャニャさん」



 さて、アリエス初体験の『未開拓悪路グランド』はかなり揺れた。

 流石の吸血鬼ヴァンパイア族の体でも、かなりの負担がある。

 ザンドとグレゴリも目を瞑ってじっと堪え忍んでいるようだ。



 いったい、『未開拓悪路グランド』突入からどれ程の時間が経ったのだろう。

 ニャニャ一等操縦士の計画プラン通りに進んでいるのだろうか。



「やはり、追ってきてるな。あちらさんにも相当な腕の航海士と操縦士がいるようだ」


 ヒルダがアリエスに声を掛けてくる。

 この悪路にも関わらず、双子の男エルフの検問船は振り切れず、ついてこられてしまっているようだ。



「予定通り、計画のプランBに移行するぞ。ニャニャ! V315番をR316番への途中変更準備!」


「にゃっ!」


「これより当船は『未開拓悪路グランド』から計画的途中ワープアウトを行う!」


『クロマグロ号』の船橋ブリッジが再び慌ただしくなる。

 彼らはこれより、わざと「神のみぞ知る」方法でワープ中の亜空間から通常空間に戻ろうとしていた……。




「上手く行けば、この辺りの小惑星帯アステロイドベルト宙域に、出るはずだ。ニャニャ頼むぞ!」


「ニャニャさん期待しております!」


「にゃー!」






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