第4話 運送屋、クロマグロ号。

 アリエスが学園を出て、自分の屋敷へと急ぎ戻ると、屋敷中はてんやわんやの大騒ぎとなっていた。


 アリエスは目的の人物を探す――見つけた。



「ザンド! ザンド! どうしたのです、この騒ぎは?」


「お嬢様! お嬢様! 戦争が始まるという事です! 急ぎ帰国の準備を整えるので、お嬢様はその間、お茶でも飲んでゆっくりとおくつろぎくだされ!」


 シンタロウが言っていた『戦争』とは、どうやら本当の話だったようだ。

 ザンドはみるみると荷物をまとめあげていく。


「ザンド! グレゴリはどうしたのです?」


「グレゴリは船の手配に向かいました! 直接屋敷の中庭に着ける手筈になっております!」


 とても慌てた様子が残念執事に見えてしまっているザンドだが、彼は普段はスマートなかなり出来る方の老執事である。

 今の事態が、出来る彼を残念執事に見せてしまう程の非常事態という事だろう。


 ザンドはスマートな老執事、グレゴリは筋骨隆々髭もじゃの老騎士で、この2人のみがアリエスの『お付き』になる。

 因みに、お付きの2人ともに人間族である。



 一般人であれば、大型の旅客船に乗って帰れば良いのだが、アリエスは伯爵令嬢。

 大型旅客船だと、途中の検問等に引っ掛かったとすると、まず捕らえられてしまうだろう――。

 ザンドとグレゴリは、そう状況を読み、自分たち3人を運んでくれる船を探していた。



 その頃、グレゴリは自分たちを運んでくれる船を探し当てていた。

 探し当てたのだが、この運送屋、少々問題がありそうで――。



 ――運送屋『クロマグロ号』。


「お頭、お客さんですぜ」

「客? そう言ってアタシを油断させておいて皆で犯すつもりだな? くっ……殺せ」


 船長が人間の女性で、船長と主操縦士以外の船員が全員オーク種族とゴブリン種族という船を見つけたのだが、どうも船長の言動が少しおかしい。

 何かあるとすぐに「くっ……殺せ」と言うのだ。

 死にたがりなのだろうか。



「船長、言われた通りの額を用意してきたぞ。もう時間が無い。このまま屋敷に向かってくれ!」


「殺せ……何だと、本物の客なのか? あんた人間族か? そうか、野郎共、仕事だ。総員配置に付け――っ!」




「大丈夫じゃろうか……この船」


 心配になるグレゴリ。

 しかし、他に3人を運ぶと名乗りを上げた船は無かったので、諦めるしかないのだった……。






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