第4話 取り戻す

 


 入院して間もなく。

 ひどく暴れたことがあって、1週間別室に入れられた。そこは暴力的な行為をする者を隔離する部屋だと聞いた。暴力は人にだけじゃない、自分に対してもだ。

 彦助が聞いた。

「自殺する可能性があると……?」

「万一の場合に備えて。そういうことです。しばらくはご家族も面会をお控えください」

 勝子は気丈な人なのに彦助に縋って泣いていた。

「泣くな! 泣きたいのは……哲平なんだ……」



 その部屋から出てきた時の哲平はもう別人だった。喋ることもほとんどなく動作は緩慢。

「薬の影響もあるんです。少しずつ軽い薬になっていきますから心配はいりませんよ」

 ただ考える事にひどく時間がかかっているのだと説明された。説明されても不安しかなかった。


(哲平さん…… また俺を怒ってよ。俺をからかってよ、哲平さん)

 もう、そんな日は来ないかもしれない…… 華は泣き叫びたかった。けれどそうしなかった。

「俺さ、遊びに来るから」

「俺も来るぞ。お前が……大事なんだ、哲平」

 華は隣に立つ河野部長を見た。硬く握られた拳は真っ白だった。


 車に乗って部長に聞く。まるで自分に言い聞かせるように。

「部長…… 俺たち、やっていけますよね? 哲平さんを取り戻せますよね?」

「やっていくんだ。取り戻す。あいつは芯が強い。負けるわけがない。このままじゃ千枝にも申し訳が立たない」

「そうだよ…… 千枝さんが悲しむ…… 太陽みたいに笑うんだって…… いつものろけを聞かされてたのに。……俺、頑張るよ。一生懸命頑張る!」

「みんなも助けてくれる。俺たちならきっとやれる」


 これからは河野部長と二人三脚だ。ジェイの時と同じ。また長くて静かな戦いが始まる。

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