第186話 星を侵し壟断す溶混弄呑5

「(ウッソだろ……)」


 開いた口が塞がらねぇ。スライムに口はねぇからあくまで比喩だが。


『あれってフィスだよな……? 何やったらこんな短期間であんな強くなるんだ……??』

『短期間云々はコウヤ君が言えることじゃないと思うけど……なんでも、すっごく強い冒険者に師事してたらしいよ』

『すっごく強い冒険者って凄いんだな……』


 思わず馬鹿みたいなことを呟きつつも、フィスの様子を観察する。

 最初の一撃で体が温まったのか、二撃目三撃目と回を経るごとに動きは格段に良くなっている。


 これならあっちの方は大丈夫そうだ。

 オレはオレの為すべきことに集中しよう。


 なお、“魔王”が担当してる方は天変地異みてぇになってて眷属達がチリ紙みたく吹き飛んでいた。

 こちらも全く心配は要らない。


「(心配は要らないが……いつまで続くんだ? この〖王権スキル〗……)」


 カオスに接近し、形質定義と斬撃を浴びせつつ疑問を浮かべる。

 オレのにしろ“極王”のにしろ、〖王権スキル〗がこんなに長く発動し続けることはなかった。


 攻撃系と召喚系とじゃ性質が違うのか、あるいはカオスのが特殊なのか。

 どんな理由にせよ、これが〖マナ〗のある限りずっと続くようなら不味い。


 カオスの〖マナ〗は〖ライフ〗と同じく底無しで、それが尽きるのは当分先になる。

 “魔王”はともかく格闘主体のフィスはどこかで体力切れになりかねねぇ。


「(根本解決ができりゃそれが一番だよなッ。形質定義、『チャージスラッシュ』!)」


 束ねた放った雷を辿るようにして疾走し古槍を振るう。

 カオスの木々をまとめて伐り飛ばした先にあるのは〖王権スキル〗の発生地点。巨大な柱に見えた植物の集合体の根元だ。


「(形質定義、〖ウェーブスラッシュ〗!)」


 狙うのは集合体を生み出し続けている木々。

 古槍から放たれた斬撃波が柱の底を薙ぎ払う。

 オレの直径よりずっと太い柱だったが、防御無視の斬撃波は一撃で断ち切った。


「(っ、そうなるのか)」


 これで終わり、かと思いきやここから一キロ程離れた地点で再度黒い柱が上がった。

 なんだか水漏れを塞いだら、別の部分から水が噴き出したみてぇな感じだ。


 元より、カオスには明確な部位はねぇ。

 この〖王権スキル〗も発生個所は自在なんだろう。


「(取り敢えず黒柱を順繰り潰して行くか)」


 破壊から発生まで僅かなタイムラグがあった。何もしねぇよりかはマシだろう。

 けどこんなの、気休めにもならねぇのはよく分かってる。

 〖スキル〗を止めるには発動者を殺すのが一番だ。


「(それが出来ねぇから困ってるんだけどな、【栄枯雷光輪廻】!)」


 これまでとは趣向を変えて〔アルケー〕を土に還す雷撃を放ってみた。

 けれど当然カオスを即死させることはできない。成功する見込みがあれば初めからやっている。


「(この感触……〔アルケー〕の強度は“古王”を超えてるな)」


 “古王”のは付け入る隙がねぇ鉄壁って感じだったが、カオスのはそれ以上。

 途方もなくおおきなモノを前にして放心するような、そんな感覚。まるで仕留められる気がしねぇ。


「(これなら伐採し切る方が現実的だろうけど……形質定義、〖ウェーブスラッシュ〗!)」


 二つ目の〖王権スキル〗発生源を潰すも、今度はカオスの樹海の奥に柱が現れた。

 柱を狙う分足止めが疎かになっちまうが、他に打てる手もないのでオレはそちらに向かう。


 それから日が傾くまで、ひたすらに伐採と再発生が繰り返された。

 遅々とした一進一退の攻防。

 ダメージを与えているオレと前進を続けているカオスは、どちらも目的達成に近づいてはいるが……如何せん、進みが遅すぎる。


「(〖王権スキル〗に時間制限はねぇっぽいし、本格的にやべぇな)」


 フィスが来てくれたおかげで、膠着の裏でカオスが眷属を使い力を蓄えることはねぇ。

 でもそれもフィスの体力が持つ内は、だ。

 動きっぱなしだってのに不思議と疲労はなさそうだが、体力や〖マナ〗は確実に減っているはず。


 早期決着が望ましい。

 そんな、ここ数時間で何度繰り返したかも分からねぇ決意を新たにするも、やっぱり気が逸るばかりで打開策は浮かばねぇ。


 今、出来ることは【ユニークスキル】を連発し練度を上げることくらい。

 オレに苦境を破る手立てはねぇ。


『──コウヤ、今は大丈夫ですか?』


 オレ以外ならば、話は別だが。


『賢人か! カオスの攻撃にも慣れを通り越して飽きて来たし余裕はあるが……どうしたよ?』

『今しがた完成したのです、例のアーティファクトが』

〖マジか!?〗


 それはいくつか考えたプランの中でも特に頼り難い、完全に他人任せの策だった。

 実現できるかは完全に賭けだったので無いものとして扱っていたが……完成したのであれば非常に有効な一手となる。


「(〖日下の革新イノベーション〗!)」



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

日下の革新イノベーション 非通知情報記録域アカシックレコードのアーティファクトに関する情報を閲覧できる。常時、マナクリスタルやアーティファクトの情報に関する知力に補正。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 この世全てのアーティファクトの情報が集まるアーカイブへと接続し、必要な情報を掬い上げる。

 そもそもアーティファクト自体がそれほど作られていないため、候補を絞るまでもなく目的の情報は見つかった。


「(ありがとうなタナシス。使わせてもらうぜ、〖Uアップデート〗!)」


 地底の国で世話になったタナシスはここ一週間程、他の学者と協力しこのアーティファクトの開発に取り組んでくれていた。

 そんな彼に心の中で礼を言い、己の体をそのアーティファクトへと作り替えていく。


 やがてオレの体の中心には翡翠色に輝く複雑なアーティファクトが現れた。

 それはあるいは祭壇と呼んでもいいかもしれない。

 ドームの成り損ないみてぇな、円く並んだ六枚の板状マナクリスタルがこのアーティファクトの基幹だ。


「(解析完了……機能も完璧に再現できてるな。そんじゃ景気付けに一発ッ、【栄枯雷光輪廻】!)」


 攻撃を止めたオレにここぞとばかりに迫っていた枝葉へ向けて【ユニークスキル】を発動。

 次の瞬間、目も眩むほどの雷光が全てを蹂躙したのだった。


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