第183話 星を侵し壟断す溶混弄呑3
雷光が迸り、残像をなぞるようにして穂先が閃く。
幾本もの樹木が斬り飛ばされ、直後、残された切り株達が捻じれて巨大花に変わり、蕾に戻り、花芽となって一点に凝縮され……そして一転、爆裂した。
周囲の木々を巻き込んだ凄絶な破壊を撒き散らすも、その頃にはオレはもう離れていて大した影響は受けねぇ。
最早自傷も厭わなくなったカオスの範囲攻撃だが、悉くが意味を為していなかった。
オレの〖雲隠れ〗の速度に付いて来れてない、ってのが一つ。
もう一つは根本的な威力不足だ。
「(神様も言ってたな、あの時点で戦ってても負けはしねぇって)」
星神との交信を思い出す。
あの時は負けることはないが勝てもしないから力を蓄えろ、って言われたんだった。
あれから僅か一週間。
最善を尽くして来たつもりだし、事実【ユニークスキル】の【真化】によってダメージを通せるようにもなった。
けれど──、
「(──終わりが見えねぇな)」
現在、模倣している古槍の数は四振り。
それらを縦横無尽に振るい、〖嵐撃〗や〖舞闘〗もフル活用してカオスの伐採を進めている。
だがそれでもほとんど進捗してねぇのが現状だ。
むしろ開戦時よりカオスは海に近づいている。
分かっちゃいたが、古槍だけでチマチマ削ってたんじゃ埒が明かねぇか。
『“魔王”! アレをやる、準備を頼んだ!』
『任せよ』
これまでの戦闘で、カオスは再生能力が特に秀でてる訳じゃねぇことは確認済み。
植物魔獣の〖王獣〗らしく通常の傷はすぐに塞がるが、『回復』とかの能力傾向がある訳ではなさそうだった。
故に合図を〖念話〗で伝え、そして古槍を二本まで減らす。
これからすることを考えれば四本も振るう余裕はねぇ。
「(こっちだぜ、カオス!)」
「…………」
地を裂き現れた根の槍を跳躍して躱し、そのまま斜め上へと飛んでいく。
雷撃を振りまいてカオスを実体化させつつ、迫り来る枝や蔓を切り払いながら空を翔けた。
カオスの中心部に近づくほど
それらをやり過ごし際限なく高度を高めながらも、隙を見ては雷を落とす。
なるべく広範囲に、出来るだけ多く実体化体積を増やせるように。
カオスの方もただ実体化させられてるだけじゃねぇ。
〖混沌〗の力を使い、構っちまった己の部位を再び不定形化させようとしている。
とはいえ、オレが形質定義する方が速度は上だが。
何つーか、カオスの力の使い方は大味なのだ。過大なエネルギーを統制できてねぇっつぅか。
限界を超えて肥大化した弊害か。
水槽の水をひっくり返すみてぇに大雑把に力をぶち撒けることは出来ても、水圧を極限まで高めてウォーターカッターを作るような細かい制御は全くの未熟。
しっかりと固められた実体化部分を解すのに時間が掛かる。
「(おおっ、あそこがカオスの端か!)」
雲を抜けても上昇を続け、ふと地上に意識を向けるとカオスの全体像を見ることができた。
遥か上空のオレに枝を届かせるためか、広がった体をオレの下に集め積み重ねている。
姿形は樹海に似てるが、本質的には泥とかに近ぇのかもしれねぇな。
形質定義なしで攻撃した時の手応えも粘体みてえだったし。
「(高さはこんだけありゃぁ充分か)」
『余の準備は完了した。いつでも良いぞ』
深みを増した紺碧の空の中、“魔王”から連絡が来た。
少し遅れて銀嶺達も追いつく。
『ジャストタイミングだぜ、じゃあ早速頼む!』
『〖オーダーオルタレーション〗、汝は風を受けぬ、汝は地に引かれん』
オレに掛かる重力が増した。
重力の概念を完全には伝えられなかったから、正確に言うと追加で引っ張られてるだけだが細かいことは置いとく。
「(〖超躍〗)」
銀嶺の一つを取り込み、落雷のような速度で落下を始める。
追い縋っていたカオスの枝達を古槍で引き裂き、アーティファクトや〖神の杖〗の効果でぐんぐん加速していく。
やがて音速を超えたが空気抵抗は皆無。“魔王”の魔法のおかげだ。
速すぎてカオスの枝の迎撃が間に合わなくなるも、ここまで加速すれば後はもう速度や〖爆進〗と〖神の杖〗の効果だけで押し切れる。
瞬く間に迫る地上。
そこでは木々を折り重ね、体を山のように盛り上がらせたカオスが防御態勢を取っていた。
オレの落下の威力を少しでも和らげるためだろう、固い棘のような物に変化させた体をを無数に折り重ね、隙間には緩衝材の如く枝や幹などを詰めている。
山岳級のデカさなこともあり、オレを止められねぇまでも威力半減くらいは出来そうだ。
「(形質定義!)」
だが、それにも構わずオレは雷撃を放ちまくる。
ひたすら使い倒したことで形質定義の力も成長しており、一発で結構な面積を実体化させられるようになった。
そんな中、常識外れの速度によってあっという間に距離は縮まり、
「〖エリアホール〗!」
「(〖縄張り〗解除!)」
そして再びオレは上空に戻された。
「(〖隠形〗、〖超躍〗!)」
速度は激突直前のまま。その上で、宙を蹴り飛ばして一層加速する。
〖スキル〗で気配を消すのも忘れねぇ。
『〖オーダーオルタレーション〗、汝は光を透過する』
“魔王”がオレを透明にした。カオスは転移したオレを見失っており、防御を解いていいのか困惑している様子。
計画通りだ。
初めて遭遇した混沌種への決定打となった、上空からのメテオアタック。
破壊力は太鼓判を押せるが、この技の問題点は発動までのタイムラグがデカ過ぎること。
巨体故に回避は出来なくとも、防御される可能性は大いにあった。
だからこそポーラに協力を頼んだ。
衝突する前に孔を開けて転移させてもらい、加速を重ねつつ相手の隙を突く。
今回、転移のマーカーとなったのは銀嶺。
銀嶺は最初の落下開始地点から少し移動しており、それにより防御を固めたのとは微妙に異なる地点へ攻撃できる。
「(〖レプリカントフォーム〗!)」
既に十二分に加速した状態のため、数瞬の内に肉迫。
山岳の中腹とも呼べる地点へ着弾する刹那、複数の〖スキル〗を起動させる。
「(〖暗殺〗ッ、〖神の杖〗ッ、〖クエイクスイング〗!)」
強力な〖スキル〗を乗せて放つ一撃は、槌による振り下ろし。
使用武器は“古王”の爪と槌尾を組み合わせて作った古槌だ。
この決戦に備えて調整した古槌の特殊効果は回復阻害と……大地刃化。
ヘッドを地面に叩きつけることで無数の岩刃を発生させられる。
「(──ゥラァッ!)」
大爆音が全身を劈いた。
〖神の杖〗でも反射しきれねぇ程の衝撃に、古槌が軋む。
だがそれは冠絶した威力の証左。巨大隕石の落下に比肩する衝撃がカオスを貫き、その下の地面を揺らした。
「…………っ」
防御を固め山脈じみていたカオスの巨体が、散り散りになって弾け飛ぶ。
直撃したのは極々一部に過ぎねぇが、余波だけでもそれ程の威力があった。
次いで、地中から飛び出した岩石の刃が残存していたカオスの肉体を寸断する。
見渡す限りを埋め尽くする岩刃は、根こそぎカオスを攻撃していた。
古槌で生成される岩刃の規模や攻撃力は、地を打つ力の強さで決まる。
そこに〖嵐撃〗の補正も合わされば、〖王獣〗すら容易く切り裂けるのだ。
「(っし、転移から衝突までのラグも短かったし形質定義した分は確実に砕けたな! この調子で──)」
息を呑む。
今までもカオスの〖マナ〗量は驚異的だったが、それが一斉にうねり始めた。
この膨大な〖マナ〗を練り上げて放つ〖スキル〗の正体を、オレは知っている。
「(〖王権スキル〗……っ)」
痛手を負ったカオスが、遂に切り札を切ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます