第182話 星を侵し壟断す溶混弄呑2
制顕により出現した〖制圏〗には、通常とは異なる性質がいくつかある。
その一つが埒外の支配力。数時間前に行った実験では、“魔王”が全力を出しても数メートルとオレの〖陽煌炉〗を奪えなかった。
「(さあ来い!)」
突然現れた謎の炉にも怯まず、カオスは前進を続ける。
オレも同じく前に出、そしてオレの方が先に〖陽煌炉〗とカオスの〖制圏〗の境界に着いた。
制顕の特徴その二。オレが動いても制顕の範囲は変わらない。
多分、土地に定着することが関係してるんだろう。発動した時点で影響範囲は固定され、オレがその場から離れてもしばらくの間は残留し続ける。
だからオレ自身が〖陽煌炉〗の縁に立つことも出来る。
まあ、自前の〖制圏〗も発動してっから白炎は制顕の外側にまで伸びているんだが……そのことはいい。
「…………!」
「(撃ち落とせ!)」
そして三つ目の特徴。それは制顕によって現れた地形は、発動者の意のままに操れるというもの。
カオスの放った黒い葉や花弁の嵐を、白い溶銑の奔流が焼いて行く。
溶銑の発生源は〖陽煌炉〗の中心、中空に浮かぶ黄金の円環だ。
その金環からは止めどなく溶銑が流れ出しており、地上の炉へと注がれている。それを奔流として放出したわけだ。
焼かれた黒葉はマナクリスタルに変じ、〖
オレの手札が一つ増えた。
「(お、来た来た)」
それからもう一つ、背後から手札がやって来る。
風を切って到着したのは純ミスリル製の武具の数々。“魔王”の銀隷だ。
オレとの戦闘で大半が粉砕されちまってたが、急ピッチで修復したのである。
『手筈通り迎撃は余が担う。汝は攻撃に専念せよ』
『了解!』
〖念話〗で応答した後、オレを抜き去った銀隷を追うようにして勢いよく飛び出す。
カオスは多種多様な……もしくは種々雑多な攻撃を仕掛けてきたが、不壊と綱紀──混沌に呑まれ辛くなる効果だ──の法則を与えられた銀隷がある程度は防いでくれた。
まあ、まだまだ距離もあるし、小手調べって感じの攻撃ではあるんだけども。
近づけばカオスの攻撃は激しさと正確さを増し、遠からず銀隷だけじゃ捌き切れなくなるだろう。
「(だからこっちも攻撃して防御にリソース割かせねぇとな、【栄枯雷光輪廻】!)」
現在のオレが同時に制御できる雷撃の数は、十三。
それなりの〖マナ〗が吸い上げられ、十三条の雷がカオスを穿った。
「…………」
だがカオスは雷撃など意にも介さず魔手を伸ばしてくる。
いくつもの根と幹、草や花までもを撚り合わせて一本の巨槍を形成。鋭鋒の如き穂先を真っすぐに突き出してくる。
『銀隷じゃ無理だ、オレが止める!』
『相分かった』
散開した銀隷の前に立ち模倣した古槍を構えた。
巨槍の太さはオレの直径以上。物理的には太刀打ち不可能な重量差だが、オレには頼りになる〖スキル〗がある。
「(〖超躍〗、〖爆進〗、〖穿孔〗、〖チャージスラスト〗──)」
重ね合わせるのは突進に適した〖スキル〗達。
速力が二段飛ばしに跳ね上がるのを体感し、激突の間際、【ユニークスキル】を発動する。
「(──形質定義!)」
雷撃の着弾とほぼ同時、古槍と巨槍がかち合った。
古槍の柄から伝わる確かな手応え。形質定義によって混沌の性質を打ち消された巨槍は、普通の木のように穿ち抜かれ木片を撒き散らす。
だがあちらも〖王獣〗。たとえ能力が無効化されようとタダでは終わらねぇ。
無駄にデカイ巨槍を無理やりに圧縮して、内部を突き進むオレの勢いを削ごうとしてくる。
「(〖超躍〗!)」
再度宙を蹴った。飛行アーティファクトにも全力で〖マナ〗を流し加速度を確保。
最初と同等の速度に戻る。
『〖オーダーオルタレーション〗、汝は止まらぬ』
『ナイス!』
さらには“魔王”の後方支援により、オレに減速緩和が付与された。
勢いを維持したまま巨槍を突破しカオスの眼前へ躍り出る。
と、そこで“魔王”の減速緩和が解除。〖オーダーサヴェイランス〗って魔法で離れてても戦況は把握できるのだ。
カオスが無数の蔦や枝を差し向けて来るも、急降下して狙いを外す。
「(〖神の杖〗、形質定義、〖コンパクトスラッシュ』!)」
カオスの末端──樹海の最前列目掛けて落下しつつ【ユニークスキル】で着地点付近を固定。そして古槍による斬撃をお見舞いした。
古槍には攻撃範囲拡張の追加効果もある。ただでさえ長大な武器だがこの効果によってさらなる大打撃を与えられるのだ。
「(〖雲隠れ〗、『チャージスラッシュ』!)」
だが一撃加えた程度で満足なんてしてられねぇ。
カオスからの反撃を横っ飛びで避けつつ刃を水平に振るって追撃。そして空へと飛び上がり次の攻撃へ。
カオスには痛覚はねぇみてぇだし、そもそも古槍の拡張攻撃でさえ相手の規模からすれば掠り傷未満。
古槍の回復不能効果があるから理論上はいずれ殺せるはずだが、時間を掛け過ぎればカオスが標的を人間大陸に移すかもしれない。
そうなる前に倒さねぇと。
「(形質定義、〖レプリカントフォーム〗!)」
雷撃をばら撒いてダメージを通せる部位を増やしつつ、もう一振りの古槍を模倣。そして独楽みたく回転し広範囲を斬り付けた。
武器を増やすのは弱点を増やすのと同義だが、四の五の言ってられねぇ。
ここからはどれだけ火力を出せるかが鍵だ。
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