第180話 決戦の始まり

『──てな訳で、協力を取り付けられたぜ!』

「どういう訳か分かりませんが……それは僥倖です」

「やったねコウヤ君!」


 “魔王”との戦いの成果を二人に報告する。

 場所は帝城の中庭。なんでも、オレ達の姿が消えてから上空での凄絶な〖マナ〗の激突を感じ取り、この場所で見守っていたらしい。


 二人にも帝城の官吏にも随分と心配掛けちまったが、話は丸くまとまったのでオールオッケーってことにしとこう。

 少しして、文官っぽい感じの人と話し合っていた“魔王”がこちらへと歩いて来た。

 たかがそれだけの所作一つ取っても風格がある。


「余はこれより二日の休養を取る。カオス討伐が長引くようであれば延長も行おう」

「有難く存じます」

「さて、先程は半日ほど準備期間があると言うておったが、具体的には何をするのだ?」

「お互いの能力の擦り合わせやカオスとの戦闘の段取りでございます。連携の確認もしておいた方がよろしいかと」


 こうしてオレ達はカオス対策を着々と進めて行くのであった。




 それから半日後。


「いよいよ、だね」

『あぁ、いよいよだ』


 “古王”に与えられたダメージが完全に癒えるのを待っていると、ポーラが話しかけて来た。

 場所は砂浜。低い波の寄せる音を聞きながら相槌を打つ。


 この海岸線には、元々は城砦があった。

 だが、それは辺境伯の魔法により一キロ近く後退している。地盤を操る大魔法によっての荒業だ。

 “魔王”が居てくれたんであっさり避難に応じてくれた。


「何だかなぁ、とんでもないことになっちゃったよね。昔は魔法学校に入学するのが夢だったのに。〖政圏〗奪って追い出されちゃったのもずぅっと昔のことみたい」

『それ聞かされた時はオレもさすがに驚いたぜ。そういや“魔王”に取りなしてもらったりしねぇのか? アイツなら復学も簡単にさせられんだろ』

「うぅん、出来ることには出来るだろうけど……でも今は目の前のことに集中しなきゃな、って」

『そいつはそうだな。ポーラはカオス戦の支柱の一つな訳だし。サポート頼んだぜ』

「どーんと任せて! ……なんて言い切る自信はないけど、でも精一杯やるよ。アタシの〖属性〗の真価を教えてくれたコウヤ君のためだもん。絶対に手は抜けない」


 強い決意を秘めた声でポーラは言った。

 空色の瞳が海の彼方を睨んでいる。


『……あの水平線の向こうに居るんだよな』

「うん、〖空間把握〗の端でピリピリ感じるよ。浸食し続ける濁流みたいな禍々しい力が、カオスの〖制圏〗が近づいて来てる」

『それじゃあボチボチ始めねぇとな』

「傷はもういいの?」

『あぁ、粗方塞がった。さあ行けオビアMarkⅡ』


 オレの思念に従い、羽の生えた犬型疑似魔像機が飛び立った。




 ◆  ◆  ◆




 東の大魔境にて。“緑王”を撃破したカオスは西進を続けていた。

 〖スピード〗が低い──無論、他の〖王獣〗と比べてだ──カオスだが、戦闘地点が比較的西寄りだったこともあり、一日程で海岸部のすぐ近くにまで辿り着いていた。


 と、そこで空を行く物体に気付く。

 地上からの攻撃など届きようもない高高度を、謎の四足獣が飛翔していた。その様子はまるでペガサスのようだが、素体となっているのは犬のようにも見える。


 ──呑ミ込メ呑ミ込メ呑ミ込メ呑ミ込メ


 されど正体など関係ない。

 カオスという〖忌世怪カルキノス〗の精神を占めるのは、生きとし生ける全てを取り込まんとする妄執だけだ。

 飛行機を捕まえようとする幼子みたいに枝を空に掲げる。


 カオスに幼子と異なる点があるとすれば、それは力の有無か。

 掲げられたその枝は、幾度も形を崩しながら高く高く伸びて行き、継ぎ接ぎのようになりながらも飛行犬の居る高度まで到達。

 飛行犬はより授けられた〖スキル〗よって必死に躱そうとするも、〖王獣〗との速度差は歴然であり、あっという間にカオスの魔手に捕ま──、


『──させねぇよ』


 寸前、飛行犬の前に孔が開き、そこから飛び出した者が枝を受け止める。

 犬はすかさず孔を潜り、その孔自体も次の瞬間には消え去った。

 それを見届けた不破勝鋼矢は、浮力を一転して下へ向け、高速落下を開始する。


「(高度計測完了、爆撃最適高度まで三百、二百──)」


 カオスはその姿を覚えていた。“緑王”の『経験値』の一部と、死体を掠め取った不届き者。

 飛行犬に対するものの比ではない、夥しい数の枝々が鋼矢を呑み込まんと迫る。

 そして両者が交錯する間際、先手を打ったのは鋼矢。


「(ここだな、発動──)」


 この場に現れた時より既に準備は万端に整っていた。

 通電や〖陽光をソーラー統べる者・ロード〗等の強化バフに限った話ではない。

 切り札に必要な長時間の溜めもまた終わらせていたのだ。


「(──〖色なき王権:無季燦々〗!)」


 〖貯蓄〗も含めた九十万超の保有〖マナ〗。そのほぼ全てを注ぎ込んだ正真正銘の最大火力。

 〖王獣〗でさえ一撃で蒸発しかねない極大攻撃が、地上を最も効率的に破壊できると学者達が割り出した最適高度にて、解き放たれる。


 星の命運を決する闘いは、天地を染める閃光と共に幕を上げたのだった。


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