第172話 侵入

「(〖縄張り〗、『収束』)」


 〖制圏〗がオレの内側に収まり、辺り一面を焦がしていた白い魔炎が鎮火する。

 これが燃えたままだといずれは“古王”の体までマナクリスタルになっちまう。

 アイツの耐性なら心配なんざ要らねぇだろうが、品質を少しでも損なっちゃいけねぇ。


「(空間魔法のマーキング付きの鉄球を置いて……と、新しい〖スキル〗を見てみるか)」



~スキル詳細~~~~~~~~~~~~~~

雲隠れ 逃走時、素早さに補正。逃走時、隠密能力に補正。〖マナ〗を消費し、白煙を噴出させられる。


縊殺 絞殺時、膂力に補正。絞殺時、対象の酸素欠乏を促進。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 今回は【ユニークスキル】主体で戦ってたからか成長した〖スキル〗が少ねぇな。

 まあ二つも上位化しただけ儲けもんか。


「(取りあえず、〖雲隠れ〗……ふぅん、そんな感じか)」


 試しに新〖スキル〗を使ってみたところ、霧とも煙ともつかねぇ真っ白な気体が体中から噴き出した。

 ロケットみてぇな勢いで体が逆方向に押されるが、反対に煙はオレの居た地点に滞留し、辺りを白く染め上げている。


「(煙幕か、もしくは噴射の勢いで加速するって感じだな。〖マナ〗の燃費も良いし使えるな)」


 〖縊殺〗の方はまあ、カオスには使えねぇだろうが場合によっちゃ役立ちもするだろ。

 そうして早々に〖スキル〗確認を切り上げ、“古王”の亡骸へと向き直る。


「(さて、本題はこいつの加工だよな)」


 〖マナ〗能力に偏っていたクリオネと異なり、“古王”はバリバリの肉体派だ。

 当然、作れる武器も類を見ねぇぐらい強力な代物になる。


「(〖激化する戦乱〗……んー、迷うなぁ)」


 武器としてのポテンシャルを解析して行くが、そのあまりの情報量に圧倒されちまう。

 “古王”の体は部位ごとに宿す性質が違ぇし、どれをどんな武器にするのか悩ましいところだ。


「(まあでも時間もねぇしパッパと決めてかねぇと)」


 てなわけで、素早く特殊効果を取捨選択していく。

 『不変』の残滓もあったが、生前の頑強さとは比べるべくもねぇ。

 時間はかかったものの、いくつもの武器を造り上げられた。


「(特にこいつらは出来がいいな)」


 目玉となるのはこの二つ。牙から作った槍と鱗から作った盾だ。

 それぞれ古槍、古盾と名付けた。

 古槍には防御無視や回復阻害などが、古盾には状態不変の効果が付属している。


「(〖ヘビースラッシュ〗)」


 古槍で試し切りをしてみた。

 穂先に一本、その付け根にも数本牙の付いた古槍が、勢いよく振り下ろされる。


 ──ゴッオオオオオオォォォォンンッ!!


 水晶の大地に渓谷が生まれた。

 規格外の巨体を持つ“古王”から作られた古槍は、オレの全長と同じくらいの長さがある。


 だが、それを加味しても今回の被害規模は隔絶していた。

 古槍には攻撃範囲拡大の武器効果も付いているのだ。


「(とんでもねぇモンが出来ちまったな……と、惚けてる暇はねぇな。【栄枯雷光輪廻】)」


 それから【ユニークスキル】で気になったことを試していると、〖マナ〗の揺らぎを感じ取った。

 虚空に孔が開き、ポーラが現れる。


「今度も問題なく勝てたんだね!」

『おう!』

「良かった、じゃあ行こっか。賢人さんも準備終わってるよ」

『だな。時間も押してるし急ぐか』


 実験を止めて早速孔を潜る。

 その先は例の大空洞。

 ガヤガヤと騒めくそこで、賢人が普段と異なる服装をして待っていた。


 そちらは一旦置いておいて、オレは空間拡張した布袋をいくつも被り、サイズを人間大に調整する。

 さらには〖擬態〗で露出部分を人肌っぽくし、衣服も着用。

 複雑な部位を包帯で隠した結果、顔や手をグルグル巻きにした不審者が誕生したが、取りあえずはこれで変装完了だ。


「(ついでに〖隠形〗も発動、っと)」

「……ふむ、わたくしの計器でも〖マナ〗が拾えなくなりました。素晴らしい隠行ですね」


 そう褒めてくれた賢人もまた、市井に紛れられるような、地上の街で一般的な服を着ている。


「二人共、準備はいーい?」

『ああ、オレは特に持つもんもねーしな』

わたくしも必要な物品はこちらの空間拡張鞄に」

「それじゃあ行こうか、帝都へ!」


 ポーラが元気よく言った。


 オレが“緑王”の『経験値』を掠め取ったあの段階で、帝都へのマーキングは済んでいた。

 帝都には〖政圏〗っていう〖制圏〗の類似能力が張り巡らされてるらしいので、〖縄張り〗を解除して孔を潜り抜ける。


 その先でオレ達を待っていたのは、暗く狭い裏路地。見上げれば建物に挟まれた一筋の曇り空が見える。

 騒ぎになってもいけねぇし、こういう人気ひとけのない場所にマーキングしてもらっていたのだ。


『ここが帝都か。……たしかに、これは凄ぇな』

「分かるの?」

『あぁ、〖縄張り〗を使ってると段々分かるようになって来るんだ』


 オレが感嘆しのはここら一帯を覆う〖政圏〗の重厚さ。

 路地だとか都市だとかには到底収まらねぇ。最低でも数十キロ四方はある〖王獣〗のそれにも引けを取らねぇ効果範囲。


 そして強度もまた超一級。信じ難い“古王”すら上回っているのだからとんでもねぇ。


『んで、問題はここからだな。“魔王”に接触する段取りは全部そっちに任せてたけど、大丈夫か?』

「問題ないよ、賢人さんと一緒にいくつか案を出しといたから」

「ええ。差し当たっては──」


 賢人が口を開いたその時、


「──魔獣だあああああぁぁぁっ、帝都に魔獣が出たぞおおおぉぉぉぉぉっ!!」


 そんな叫びが響き渡ったのだった。


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