第171話 褪せぬ白亜の不易竜咬5
“古王”の『不変』とオレの形状固定は似ているようで微妙に違う。
幾度もの衝突を経て気づけた相違点、それは固定の定義だ。
形状固定の場合は『形を与える』って効果だからか、その形状からの変形を防ぐ。
例えば自分の身体に使った場合、変形もしづらくなっちまう。
だが『不変』はもっとフレキシブルらしい。
“古王”は『不変』を適用している部位も何不自由なく動かしていたし、実際、あの力は形状というよりは状態とかそういう広い概念に働いているんだと思う。
この相違点こそが突破口だ。
「(形状固定、対象・血液!)」
「ぐごっ、ごぉ……っ!?」
“古王”の牙の合間から雷光が漏れ出る。
同時、呻き声も漏れた。肉を伝った雷が、血管内の血液をゼリー状に固めたからだ。
形状固定の出力は、とっくに『不変』の強度を超えている。
「(即死は無理でも形状固定なら、通る!)」
けれど望んだ水準には全然届いてねぇ。
〖レジスト〗し難い体内から放ったってのに、凝固させられたのは口の付近の僅かな箇所だけ。
異様な感覚で当惑はさせられても、即座に命は奪えねぇ。すぐに反撃されちまう。
「(連続だっ、形状固定!)」
“古王”の頭部に張り付いた状態で、全身全霊で【ユニークスキル】を行使する。
あちらもここが分水嶺だと察しているのか、顎に渾身の力を籠め、身体を激しく暴れさせている。
何度か試してみたが、やっぱり鱗越しだと形状固定は防がれるようだった。
子機を追加で三機ほど口内に侵入させつつ、防御にも【ユニークスキル】を使う。
接触しているために、『変化』の力を浴び続けているのだ。
けどこっちの勝負でもオレ側が優勢だった。
これは固まった血を解すのに力を割いてるからってのが大きい。
触れている対象を強制『変化』させる能力を用いれば、固定された血も元に戻せる。
もっとも、大雑把に固めればいいオレと、血管っつー繊細な部位を傷付けねぇようにしなきゃならねぇ“古王”とでは作業に要する集中力も変わって来るが。
「グ、ゴゴゴぁ……ッ」
「(そうだなァ、こっからは純粋な押し合いだ!)」
一層苛烈になった咬撃がオレの体を僅かに削る。
何かの〖スキル〗で威力なり防御無視倍率なりを強化したらしい。
けど反面、“古王”がそちらにリソースを使っていた間に凝血の範囲は広がった。これが脳なり首なりの太い血管にまで及べば奴もただじゃ済まねぇはず。
牙に触れていることであちらの攻撃は通りやすくなっているが、それはこっちだって同じことなのだ。
既に能力の性能で上回ってんのもあって、純粋な力比べならオレに分がある。
「(グオオオオオォォォッ!)」
なので“古王”はフィジカルで優位に立とうとする。
さっきから天へ地へと暴れ回っているし、今など山に真横から突っ込んだ。
ガリガリと斜面が突き破られ、そのままどんどんと奥へと突き進んで行くと溶岩が噴き出した。
どうやら火山だったらしい。
だがオレも“古王”もそんなの意にも介さず、そのまま突き進みやがて火山を突き抜ける。
開通した穴は、オレの〖陽煌炉〗に炙られマナクリスタルに変質しており、まるで水晶のトンネルみてぇになっていた。
そんな幻想的な景観もすぐに視界から消え去る。
“古王”が空高く飛び上がったのだ。
けれど、ここまでやってもオレは振り落とされねぇ。
〖背水陣〗の〖不退転〗効果も使って必死にへばり付いている。
「グぅ、ぅぐぐぐぎゃぅぅ……ッ」
着々と広がる凝固範囲。遅々として進まない攻撃。
このままではジリ貧だと察した“古王”は大きな賭けに出た。
「グロロロルァッァァアアアアっ!」
「(王権か!)」
大人しくなる肉体の動きとは対照的に、絶大な〖マナ〗が奮い立つ。
しかしそれは悪足掻きだ。これまで見て来た王権系はどれも溜めに時間が掛かる〖スキル〗だし、こんな土壇場まで使わなかったのだから“古王”のそれも似たようなものだろう。
「(形状固定!)」
発動準備で守りが緩んだのを見逃さず、一気呵成に固形化範囲を広げていく。
それが最後の一押しとなった。
「が、ア゛ァ……っ!?」
「(ようやくかっ)」
グラリと巨体が揺れたかと思えば、高まっていた〖マナ〗が霧散した。“古王”が制御を保てなくなったのだ。
地に倒れ這いずりつつも、慌てて『変化』で快復を図っているが、そんな衰弱状態ではコントロールも覚束ねぇ。
「(──詰み、だな)」
“古王”を絶えず護っていた『不変』の力が綻ぶのを感じる。
勝敗は既に決定的。これ以上は苦しめるだけだ。
何回かは失敗するかもしれねぇが、とっとと〔
「(──いいや、これは収穫じゃねぇか)」
〖ステータス〗の表記のせいで勘違いしていた……あるいは、神様も誤解しているのかもしれねぇが。
ともかく、オレの即死の雷撃は、生命を収穫している訳じゃねぇ。
「(大地に還る時間だぜ、【栄枯雷光輪廻】)」
すっかり魔炎に覆われた大地を稲光が照らし出した。
雷が貫くのはあらゆる生命の根幹たる〔
決して触れ得ぬはずのそれを焼き尽くし、母なる大地へと還元する。
食物連鎖。生々流転。それは、天寿を迎えた頂点捕食者の死骸が微生物に分解されるような、そんな無常が想い起こされる現象であった。
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