第170話 褪せぬ白亜の不易竜咬4
雷鳴が轟き鋭爪が唸りを上げる。
雷撃を引き裂いた勢いのまま“古王”はオレに牙を剥き、それを躱されるや宙を踏みしめ転回。棘付きの槌尾を鞭の如く撓らせた。
「(形状固定!)」
それをオレは
眩しく発光する体表に、絶対の『変化』を刻む尾撃が命中するも、それは僅かな瑕疵も残せずつるりと滑り抜けた。
『変化』と形状固定が同出力ならば、オレの〖タフネス〗が負けるはずがねぇ。
そこへ子機が駆け付け“古王”に体当たりし、至近距離から雷撃を食らわす。
「(よし、もう牙以外は安定してノーダメだな)」
空を蹴って高速移動する“古王”に対処しながら【ユニークスキル】の成長を実感する。
開戦以来、【栄枯雷光輪廻】の成長は目覚ましい。
オレの【ユニークスキル】は闘いの中でこそ育つ、って神様の言葉は正しかったんだと分かる。
「(まぁ、それだけじゃねぇだろうが)」
使えば使うほどに力への理解が深まった。【真化】してから抱いていた芯を掴む感覚が加速した。
力の作用している対象が把握できるようになった。
半ば分かっていたことだが、オレの【ユニークスキル】は『経験値』や〖スキル〗熟練度の獲得にも補正を掛けている。
そしてどうやらその効果は、【ユニークスキル】自体にも及んでいるようだった。
加えて、〖勇気〗の『全ての能力に補正』が【ユニークスキル】の性能も底上げしてくれている。
だからこそ【栄枯雷光輪廻】はこの短時間で“古王”の『変化』の出力に追いつけた。
「(このまま即死を成功させるとこまで行きてぇが……さすがに厳しいよなぁ)」
そもそも〔
そして〖王獣〗の上……星神の位階に至るには、条理を破る程の絶大な刺激が必須だ。
【ユニークスキル】ではそれが出来ねぇから地道に〖レベル〗を上げている訳で、そっちを目指すのは無理筋。
即死を通りやすくするだけなら相手を衰弱させればいいんだが、『不変』のせいでそれもムズい。
「(だからこそ、
「グルァ!」
「(形状固定! 雷撃!)」
爪の一撃を子機で受け流し、雷で反撃。
子機は軽いため衝撃で遠くに弾き飛ばされるも、戻って来るまでの時間は他の子機達が稼いでくれる。
子機を妨害に出し始めた当初はかなり遠めの位置取りをしていたが、ここのところは“古王”の尻尾が届かないくらいの間合いを維持している。
これなら七つの子機を全て妨害に充てられるし、オレ自身もアクロバティックに動いて相手を翻弄できる。
反面、さっきみたく不意打ちを受けるリスクは上がっちまったが、それでもメリットの方が大きい。
宙を普通に蹴るようになった今の“古王”相手だと、子機を置き去りに距離を詰められるのが一番不味いからな。
「(雷撃!)」
「グルルルルルゥオオオオッ!」
そうして、オレ達の戦闘はある種の膠着状態に陥った。
しかしながらそれは互いが全力を尽くした上での拮抗だ。
純粋な〖スタッツ〗では遥か上を行く“古王”の攻撃を、強化された思考速度と回避〖スキル〗によって躱す。躱せねぇモンは往なす。
子機の突進に“古王”が慣れて来たため、より相手の意表を突ける角度やタイミングを模索した。
同様に、“古王”の方もオレが避けられねぇよう少しずつ戦法を変えて来る。
牙以外じゃ決定打にならないと学習し、他の攻撃で崩しを入れつつ咬撃を主軸に攻めるようになった。
そんな攻防は目まぐるしく舞台を変え、空中で戦っていたかと思えば次の瞬間には両者地に落ち、湖の上まで弾かれ、飛び込んだ衝撃で湖底が露出。
続く“古王”の牙を跳び上がって躱し再び空中戦へ。
少しでも気を緩めれば捕捉される。張り詰めた糸のような膠着。
極限の緊迫の中【ユニークスキル】が急成長しているのが実感できた。
揮えば揮う程に【栄枯雷光輪廻】は精度を、確度を、強度を増す。それは敵対者の強さと性質に助けられている部分もあるのだろう。
『変化』は形状固定と対立する能力だから、訓練にはもってこいだ。
一振りごとに〔
無駄なく、素早く使えるように。広く、数多くを対象に取れるように。
めきめきと能力が向上する傍ら、気づけば辺りは暗くなっていた。
オレも“古王”も暗闇なんざ障害にならねぇが、それ程の時間闘い続けているのだという指標にはなる。
「(〖リペア・ムーンライト〗!)」
「ギャルルゥアアアッ!」
オレは回復〖スキル〗により疲労を退け、体力を取り戻す。
“古王”はそんな工程は挟まず猛攻を継続。
全く疲労を感じさせねぇし、常時発動型の回復〖スキル〗でも持っているのか、あるいはこれも『不変』の力なのか。
かれこれ半日以上も戦っている訳だが、互いにリソースが枯渇する様子はねぇ。
それは広大な〖制圏〗から〖マナ〗を『徴収』しているからってのが大きい。おかげで互いに〖マナ〗の掛かる〖スキル〗を連発出来ている。
特にオレは全身マナクリスタルなので周囲からも自動で吸収できるため、【ユニークスキル】やその他での消費も全く苦にならねぇ。
そうして満天の星が瞬くようになった頃、牙を無傷で受け止めることに成功する。
「グル!?」
「(ここだな)」
まさか最初は通じていた攻撃がこの短い期間で効かなくなるとは思いもしなかったのだろう。
予想外の感触に“古王”は動揺。反射的に距離を取ろうとする。
だが、この隙を逃す手はねぇ。
ずっとタイミングを計っていた奥の手を切る
「(形状固定、対象・空気!)」
“古王”の口内にあった子機から【ユニークスキル】を放射した。
依然、強制『変化』の力を受け続けちゃいたが、今なら他に力を割く余裕もある。
「ぐ、ごぉ……っ!?」
固形化した空気に呼吸を妨げられた動揺で、“古王”の動きが一瞬鈍った。
莫大な〖ライフ〗を有する〖王獣〗を窒息させるのは現実的じゃねぇが、ちょっとした隙くらいは作れる。
「(〖超躍〗ッ、〖呪縛〗!)」
そしてこの隙に畳みかける。
一息に距離を詰め、顔面に纏わりつき、〖マナ〗を滾らせ【栄枯雷光輪廻】を発動。
「形状固定、対象──」
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