第169話 褪せぬ白亜の不易竜咬3
「ガロォォォッ!」
「(〖レプリカントフォーム〗、形状固定!)」
“古王”の背中に生えた鋸歯のような部位。
奴はそれを高速回転させ、前転するようにして斬りかかってきた。
それを防ぐのは、模倣しある程度伸ばしてから形状固定した緑槍。
穂先を鋸歯に合わせたことで、突進の勢いを大幅に落とすことに成功する。
その隙に脇へ逃れ、雷撃を一発。
これまで同様鱗に弾かれるも、オレは確かな手応えを感じていた。
「(っし、傷は付けらんなくても〔
【ユニークスキル】の使用頻度を増やしたことで、即死させること自体は可能だって気づけた。
まあ
「(他の魔獣なら雷撃食らわせてるうちに弱ってくれるんだが……)」
「ギュアアアアアアッ!」
「(お前はそんな甘くねぇよなっ)」
“古王”がその長く鋭い爪を地面に刺すと、マナクリスタルの地表を突き破り、辺り一面から岩石の刃が飛び出した。
防御無視は乗っていないためダメージはねぇが、命中時の衝撃で体勢を崩される。
「ギュオギッ!」
「(〖超躍〗ッ、形状固定ッ、〖ブロック〗!)」
そこへ繰り出されたのはシンプルな突進、からの噛み付き。
大地を抉りながら迫る牙撃を紙一重で躱し、それから防御を固める。
牙には当たらずとも“古王”の巨体を完全に避け切るのは難しい。
爪先にぶつかり弾き飛ばされる。
「(痛つつ……〖ライフ〗の減少量は五十ちょいか。今んとこ出力じゃあっちが上だな)」
形状固定……【栄枯雷光輪廻】はまだ覚えて間がねぇ。“古王”の〖牙〗の出力にはまるで及ばない。
今回は牙に触れなかったからこそ針で刺された程度の傷で済んだが、もし噛み付かれていたらと思うとゾッとする。
「(だったらやることは一つだッ)」
開いた距離を利用して雷を二、三発食らわせ、同時に空高く飛び上がった。
また大地の刃に邪魔されちゃ敵わねぇからな。
“古王”もすぐに飛び上がり近づいて来て噛み付く。
オレはそれを大きく避けた。“古王”の噛み付きには漏れなく範囲拡大の効果が乗っているからだ。
「(空中だと噛み痕が見えねぇのはちょっと怖ぇな)」
これまでの噛み痕は、“古王”の顔の前方に三日月形に刻まれていた。
空中だと範囲の再確認ができねえから、忘れねぇようにしねぇと。
そんなことを考えながら、無防備な“古王”の背に雷撃を見舞う。
先程の噛み付きを避けた勢いのまま背後に回り込んでいたのだ。
“古王”は空中での機動力にも優れているが、それでも真後ろを取っちまえばしばし一方的に攻撃できるはず。
そう思っていたのだが、そんなに甘くはなかった。
「ガルルルォォォ!」
「(おわっ、なんだソレかっけェな!)」
背中から尾にかけて生えている、ステゴサウルスの物によく似た板状の骨。
それが暗紫色に光ったかと思えば、次の瞬間無数のビームが放たれていた。
暗黒のビームは防御無視でこそなかったものの、オレが避け切れねぇくらいの速度と、バランスを崩しちまうくらいの威力があった。
〖マナ〗消費も重そうだが、強力な攻撃手段である。
「グオオオォォォ!」
「(クッソ、羨ましいなァ色々持っててっ)」
暗紫光線で怯んだ僅かな隙を突き“古王”は旋回。
オレへと再度牙を剥いた。
「(まあでも、多彩さはお前だけの特権じゃねぇけどなッ!)」
「ガグっ!?」
迫り来る“古王”が突如、えずいた。
それは喉に飛び込んだ三角錐──オレの子機のせいだ。〖擬態〗で空に溶け込ませ、潜ませていた。
あちらが身体の特性を利用するなら、こっちもそれに倣うまでである。
「(【栄枯雷光輪廻】!)」
「ググゴオオォォォゥ!」
相手の気が逸れたところで突進の軌道から逃れ、【ユニークスキル】を発動。
食い縛られた“古王”の牙の隙間から雷光が漏れ出る。子機からでも雷は出せるのだ。
体内からでも『不変』は破れねぇが、体に触れてっから即死はさせ易くなっている。
「(雷撃! 雷撃! 雷げ──)」
「グラァァッ!」
「(──いってっ、やりやがったなこんにゃろっ)」
体内に潜り込んだ子機が舌に絡め取られ、砕かれた。
“古王”には至近距離の対象を無理やり『変化』させる〖スキル〗がある。それを使ったのだろう。
砕かれた子機は、〖貯蓄〗の〖ライフ〗によって自動で復活した。
このままじゃ〖貯蓄〗が無為に削られちまう、と慌てて形状固定を発動。
『変化』の被害は抑え込めたが、形状固定の力を注ぎ続ける必要があるから即死の雷を扱う余裕はねぇ。
口腔内からの脱出も難しそうだし、これで残る子機は七つ。
「グオオォォォッ!」
「(おっと、そう簡単には翔けさせねぇぜ」)」
開いた距離を詰めるべく大きく羽ばたこうとした“古王”の翼を、密かに飛ばしていた四つの子機が打つ。
それらはその後も気配を消しつつ翼などに衝撃を与え、飛行姿勢を崩していた。ちょうど、オレが地上でされたような感じだ。
”古王”は子機を叩き落とそうとしばしその場で暴れていたが、オレ本体が横槍を入れまくったため、諦めたようにこちらへ向き直った。
そのまま突っ込んでくるが、妨害の甲斐あって速度は多少鈍っている。
おかげで間合いの確保にも余裕が生まれ、距離を保ちつつ子機から雷撃を浴びせられた。
だが、少し飛んだところでオレの動きは唐突に止まる。
例の、目に見えねぇ柱に当たったのだ。
「(っ、またかっ、でもこれって──)」
「グラァ!」
「(──やっべ、〖超躍〗!)」
宙を蹴って横へ跳び、すんでのところで牙を避けた。
”古王”は見えねぇ柱などねぇように過ぎ去り、旋回し、オレを追って来る。
距離が一気に縮まっちまったが、フェイントや子機を駆使してどうにか再び離れた。
「(あの柱、”古王”自身には当たらねぇのか。オレを受け止めてもビクともしなかったし、特殊な部位ってよりは〖スキル〗だな)」
空気を『不変』にしている……にしては発動条件が謎だ。いつでもどこにでも出せるならもっと有効な使いどころがあるはず。
「(んー、設置タイプ……事前に仕掛ける必要がある、とかか? 〖
“古王”の猛攻を捌きつつ、全方位へと魔弾を放射する。
威力はほとんど乗ってねぇが、その分チャージを短縮できた。
〖マナ〗の弾丸達はそれぞれ弾道を微妙にズラしながら大気中を駆け、虱潰しにする。
〖
「(おっと、このまま進むと密集地帯だな。進路変更っと)」
飛ぶ爪撃を躱すのに合わせ方向転換。
森の残っている方角へと飛んでいく。即ち、これまで戦場にならなかった地域だ。さっきの魔弾レーダーでこっちには見えねぇ柱がないと分かっている。
「(設置系って予想が正しいなら、戦闘中に“古王”が来てない場所に柱がねぇのも頷ける。あとは設置条件だけど……っとっ)」
“古王”の速度が急上昇した。
〖空中跳躍〗でも使ったかのように、その足で宙を蹴ったのだ。
「(んな隠し玉持ってたのかよっ)」
振り切られる子機。瞬きより早く縮まる距離。
牙の攻撃を身体で受けるのは不味い。咄嗟にマナクリスタルの盾を取り出た。でも形状固定を掛ける猶予はねぇ。
即座にオレは水晶盾を蹴り飛ばして後退し、直後牙が水晶盾を貫いた。
なおも追い縋る“古王”を何とかやり過ごし、子機を再び妨害に充てられるようになったことでふと気づく。
水晶盾が落下して来ねぇ。
虚空に縫い付けられたみたくそこに留まっている。
「(! そういうことか!?)」
水晶盾に穿たれた牙の痕を見て一つの仮説が組み上がる。
「(まさか、空気だか空間だかを対象に『不変』を使ってんのか?)」
ポーラの魔法を何度も見ていたからか、その発想はすんなりと飲み込めた。
「(なるほどなるほど、そういうことが出来るんなら、オレも……)」
そうして謎の足止めのタネが割れると同時、オレは一つの
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