第167話 褪せぬ白亜の不易竜咬
“古王”の翼は力強く風を掴む。
一度羽ばたくごとに強風が吹き荒れ、オレの二倍はある巨躯を縦横無尽に舞わせる。
〖転瞬〗が〖空蝉〗に上位化したことで大幅に回避力の上がったオレに、何度も爪牙を当てかけていた。
それでも何とか近接攻撃は躱し切れていたが、
「ガアアアァァァツ!」
「(重っ、なんつー出力だっ)」
ブレス攻撃を避け損ねちまった。
“古王”の顎から吐き出されたのは〖マナ〗の息吹。
それはアーティファクトの魔弾同様、炎や風に変換されていない純粋な〖マナ〗の放射だった。
変換工程は原始的で、〖マナ〗効率自体は悪いようだったが、そこに凝縮された〖マナ〗の量は莫大。
クリオネの打撃の比じゃねぇ衝撃に襲われ、地面へと叩き落とされる。
「(〖受け流し〗、〖超躍〗っ)」
「グルァッ」
地面に着くや、すぐさま横へ跳んだ。
オレを追って落ちて来た“古王”によって大地が深く陥没するも、すんでのところで被害を免れる。
「(やっべぇ……ブレスに防御無視が乗ってたら終わってたな)」
未だにオレの〖ライフ〗は満タン──〖貯蓄〗によって満タン以上に〖ライフ〗を蓄えられるので紛らわしいが、つまりは戦闘開始から全く減ってねぇ。
まあそれは相手も同じなのだが。
「(今度はこっちの番だッ、サンレーザー!)」
オレは周りで浮遊する八つの子機を操り、〖マナ〗のレーザーを放った。
子機には浮遊や〖マナ〗シールドの他にも、〖マナ〗レーザーを放つ効果も備わっているのだ。
威力や燃費じゃ普段使っているアーティファクトには及ばねぇが、反射的に使えるから即応性じゃこっちが上だ。
ビギュン! と発射された八つの光条は、しかしダメージを与えることはできなかった。
〖
“古王”の全身を覆う臙脂色の厚鱗が原因か。
〖嵐撃〗は既に十発以上溜まっているが、まだまだ突破できそうにねぇ。
ここらでズガンと一発、大きくカウントを溜めたい……が、そんな暇はなさそうだ。
「(〖超躍〗!)」
「グガァッ!」
横っ跳びの直後、下から上へと“古王”の巨爪が振り上げられた。
そして大地が左右に割れる。爪は地面を掠めてさえいなかったってのにだ。
「(攻撃範囲拡大の〖スキル〗……じゃあねぇな。〖マナ〗を使った気配もねぇ、あれが素の〖パワー〗で起こってんのかよっ)」
「ギュオオアアァァ!」
驚く間もなく追撃が来る。
頭にあるトリケラトプスみてぇな角で気の遠くなる程の〖マナ〗が消費されたかと思えば、空が光った。
刹那、降り注ぐ幾条もの稲妻。
そのうちの一発を食らっちまったが、遠距離攻撃には防御無視は乗らねぇし問題なし。
問題なのはむしろ──雷に打たれつつ前傾姿勢になり、腰だめに構えている“古王”の方だ。
「(ぜってぇ何かあるやつじゃんっ、〖武具格納〗ッ、〖ブロック〗ッ、〖超躍〗!)」
白イタチの盾を取り出して〖ウェポンスキル〗を使い、そして回避に適した空中へと逃げる。
また、子機を使ってシールドも張った。三つの子機の間に三角形のシールドが出来ている。
さらに並行して身体を改造しシールドのアーティファクトを……ってところで衝撃に襲われた。
充分な稲妻を吸収した“古王”は、常軌を逸した初速の突進で瞬きより早く接近、衝突したのだ。
景色が後ろから前へ矢のように流れていく。
白イタチの盾とシールドが砕ける音は、音速以上のスピードで吹っ飛ばされたため聞こえなかった。
「(〖ライフ〗が千近く削られてんな、クソったれ!)」
オレの〖ライフ〗は〖貯蓄〗も合わせて約一万七千。
さっきの稲妻突進をあと十七回食らったら死んじまうことになる。
それに、今は〖貯蓄〗分が身代わりになってるが、もしオレ本来の〖ライフ〗に到達するようなら体積が減少しちまう。
ジリ貧を避ける意味でも、もう稲妻突進は食らえねぇ。
だから遠距離勝負を挑みてぇが、稲妻突進が届かねぇ距離まで素直に離れさせてくれるかっつーと……、
「(そう甘くはねぇよな)」
「グルルルァァアア!」
空中のオレに突進したことで一緒に宙を飛んでいた“古王”が、羽を動かして距離を詰めて来る。
彼我の距離がグングン縮まる。
「(……ここだな、〖超躍〗ッ、〖コンパクトスラッシュ〗!)」
「グオォォ!?」
さながら見えない壁で跳ね返ったボールのように、“古王”側へと方向転換。
奴の下を通り抜けるようにして〖空蝉〗の回避補正を発動し、すれ違いざまに極棘と
緑槍は“緑王”の素材から作った武器で、端的に言うと竹槍みてぇな外見だ。
特殊効果は主に二つ。超成長による高速伸長と、穂先に接れた対象からの生命力の吸収。
極棘も緑槍も鱗は貫けなかったが、特殊効果で多少はダメージを与えられたんじゃなかろうか。
「ギュアア!」
「(〖千刃爆誕〗、〖
巨体とは思えない小回りの良さで旋回した“古王”に刃の群れをお見舞いする。
またも無傷でやり過ごされるも、〖嵐撃〗のカウントは大幅に溜まった。
それから魔弾やサンレーザーを浴びせつつ一直線に飛ぶが、距離は徐々に詰められている。
〖遁走〗込みでも移動速度じゃ負けてんな。
周囲に利用できそうな障害物もねぇし、引き撃ちはそろそろ潮時か。
「(……ふぅ、ここらで腹ぁ括るか、〖超躍〗!)」
宙を蹴り、向かうは地面。
〖神の杖〗の補正もあり、落下速度はオレの方が速かった。
戦闘開始地点から離れているため無事だった森が、着地の衝撃で見るも無残に千切れ飛ぶ。
クレーターの底に埋まったオレへと、“古王”は臆せず突貫して来る。
だが、オレの急降下に反応が遅れたため一拍の猶予が出来た。この隙に準備を終わらせる。
「(〖縄張り〗──鎔かせッ、〖
~制圏詳細~~~~~~~~~~~~~~~
あなたの〖制圏〗は〖陽煌炉〗です。
〖陽煌炉〗内では万物が魔炎に飲まれ、マナクリスタルへと姿を変えます。
追加効果:『制圧』『徴収』『識別』『合理』『精工』『文明』『覇王』(NEW)
候補一覧
覇王(NEW) 『覇王』を除く〖制圏〗の全効果に補正。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
”古王”とぶつけ合っていた〖制圏〗の力を、意識的に強める。
押し合いじゃ結局互角のままだが、大地の様相が変化した。
森を一瞬にして白い炎が包み込む。
溶融と冷却を経た土がガラス化するように、その炎に巻かれたモノ全てはマナクリスタルと化す。
〖マナ〗を過剰投入して〖制圏〗の効果を高めたことで、大魔境の大地であっても短時間でマナクリスタルへと変えられた。
「グォルァッ!」
「(起爆、〖超躍〗!)」
即席のアーティファクトで自爆し、爆風に押されるようにしてギリギリ躱した。
首から地面に落ちた”古王”は、砕け舞い散るマナクリスタルの破片の中まるで応えた様子もなく起き上がる。
オレが言うのもなんだが、呆れるほどの耐久力だ。
「(……よし、下の方までちゃんとマナクリスタルになってるな)」
クレーターの中心の“古王”と視線がかち合うも、オレが注目しているのはその足元。
クレーターの底までがマナクリスタルになっているのを確認し、いくつかの武器を模倣する。
「(保険は充分だな。行くぜ“古王”!)」
接近戦の始まりだ。
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