第165話 植物大陸の決戦
◆ ◆ ◆
不破勝鋼矢が“古王”に遭遇する数刻前。彼の居場所より遥か北東、東の大魔境と呼ばれる地にて。
大陸の命運を賭けた決戦は最終局面に差し掛かっていた。
「げ、げげげ、げ……」
「…………」
大地を割って飛び出したのは瑞々しい緑色。
達人の刺突ですら止まって見える程の神速で突き上がるそれの正体は、植物──竹である。
竹の性質に由来する高速成長〖スキル〗、植物の成長を異常促進する〖制圏〗、そして再生〖スキル〗等を併用することで、その高速刺突は実現していた。
が、しかし。
同時に繰り出された百本近い竹は、敵を貫けはしたものの重大な傷は与えられなかった。
「…………」
「げげぶばぁっ!?」
ばかりか、相手に触れたところから竹が形を失い、取り込まれる。
自身の身体を焼かれ、溶かされ、奪われる、得体の知れない感覚に、竹の魔獣は堪らず悲鳴を上げた。
すぐに自切するも、幾分かの力を吸われ、地中に張り巡らせていた根の一部を失った。
こうしてまた竹の魔獣の支配域は減り、敵が本体へと一歩近づく。
竹の魔獣に逃げ場はない。
敵がその肥大しきった肉体で四方を包囲しているからだ。
「げげぐ……っ」
「…………」
敵の、混沌種の首魁たるカオスの進行を止められない。
そのことに、“緑王”爛漫誇る
戦闘の趨勢は一目瞭然。カオスが王手目前だ。
“緑王”の本体は竹林中央の他より格別太い竹……ではなく、地中に潜んでいる根だが、しかしカオスも当然地中に根を伸ばしている。
その魔手が“緑王”を呑み込むのは時間の問題だった。
「げげゲゲゲゲ……ッ!」
故に“緑王”は決断した。無二の切り札の行使を。
〖緑の王権・万緑一貫〗。自身に強力な再生効果をもたらすと共に、生命力を過剰燃焼させ超成長を引き起こす。
その速度・物量は通常の刺突の比ではなく、さらには刺している相手から〖ライフ〗や〖マナ〗、水分、栄養を吸収する効果も付随する。
少しでも身を食い破れれば、奪った生命力でどこまでも威力を増し続ける必殺の〖スキル〗。
だが生命力の過剰燃焼の代償で、しばらくの間再生速度が大幅に落ちる諸刃の剣。
それでも他に活路はないと繰り出したその技は、カオスをいとも容易く貫通した。
「…………」
「ゲゲゲゲゲッ!」
だがそれは“緑王”の勝利を意味しない。
カオスの姿は、明確な輪郭を持たない。
樹海と同規模のその肉体は、荒海の如く不安定。炎のように自由自在。
ある時はタンポポのような花を咲かせたかと思えば、次の瞬間にはナズナに似た葉を付け、気づけばススキさながらになっている。
そんな七変化が体の至るところで、てんでバラバラに起きていた。
花なのか、草なのか、木なのかさえも定かでないその身体は、竹に貫かれた部分をすぐさま切除することが出来、それ故に吸収効果は無効化される。
“緑王”の放った竹は数百本にも及んでいたものの、それもカオスの〖王獣〗すら凌駕する巨体の前では焼け石に水。
体に穿たれた数百の穴も、然して痛痒を感じていないかのようにカオスは前進する。
「グゲゲ……」
切り札が易々と凌がれたことで“緑王”も観念する。
抵抗手段は残されていないのだと。
ズボリ、と地中から本体の根を出し、逆さまになる。
そして棒高跳びでもするかの如く、体を撓らせ跳びあがった。空から逃げ出すつもりなのだ。
しかし、それが勝ち目のない挑戦だと“緑王”には分かっていた。
そもそも、その程度で逃げられるのなら王権を使う前にそうしている。
逃走を阻んでいるのは、不定形の植物に埋め尽くされた地平線。
雑多な植物を徒に繋ぎ合わせ、組み換え続けているようなカオスの巨躯は、文字通り地の果てまで追っている。
〖王獣〗の卓越した身体能力を以てしても、ジャンプして逃げ切るのは不可能だった。
それでも生存本能に衝き動かされた“緑王”は空へと逃げ、飛行能力を持たない彼は自由落下を開始する。
その姿を見たカオスは攻撃すべく力を溜めた。
予想していた通りに“緑王”の行為は報われず──、
「(いっただきまぁす!)」
──一筋の雷条が貫いた。
◆ ◆ ◆
~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~
・・・
>>白毫呈す珀陽玲瓏(?)、不破勝鋼矢の〖
・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(いやぁ、助かったぜ)」
“緑王”の死体を〖武具格納〗に仕舞いつつ、状況を整理する。
今から数時間前、オレはこの大魔境へとやって来た。
神様が予言した“緑王”の敗北は、五日目の今日だったからだ。
普通にやってたんじゃ〖王獣〗五体討伐なんてぜってぇ間に合わねぇ。
だからカオスが弱らせた“緑王”の『経験値』を掠め取ることにした。
カオスの強化も邪魔できる一石二鳥の作戦だ。
「(戦闘スピード速すぎてどこで割って入ればいいかって感じだったけど、こっちに跳んでくれて助かったぜ)」
〔魂〕に触れた時の感覚からして、どうも根っこが本体だったみてぇだしな。
〖隠密系スキル〗全開で空から様子を窺ってたが、てっきりあのデカい竹を壊せば勝ちかと思っていた。
魔獣教の出した混沌種も根が本体だったし、上位の植物系魔獣はそっちを潰す必要があるのかもな。
「…………」
その時、へばりつくような殺意を感じた。
カオスだ。
獲物を横取りしたオレへと、無数の植物を向けている。〖マナ〗の動きからして遠距離攻撃が来そうだった。
また、〖制圏〗も延びて来ている。対抗していた“緑王”の〖制圏〗が消えたからだ。
オレは少しでも隠密性を上げるため〖縄張り〗は切ってたからこのままだとアレに呑み込まれちまう。
『ま、お前に構ってる時間はねぇんだけどな。テメェの番は次だ、あばよーッ!』
そんな捨て台詞を残してオレは上空へと飛び上がる。
そこでは子機に乗ったポーラが魔法の準備をしており、たちまちオレが通れるサイズの孔が開く。オレ達が抜けると孔はすぐ閉じた。
こうしてオレとカオスの初遭遇は幕を閉じたのだった。
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