第164話 南の〖亡獣〗

 雲間を引き裂くようにして超音速で飛翔する。

 長距離飛行アーティファクトでしばらく南下していると、南の大魔境が見えて来た。


 そこは北極とは打って変わって、生命の氾濫した大森林だった。

 大陸の際の際まで植物が生い茂り、土色が露出している部分などほぼほぼ見当たらねぇ。


 緯度が低くて高温多湿な点も合わせて、熱帯雨林と言うべきか。

 植生はシダ植物やヤシの木っぽいものが中心。内陸は枝葉に覆われていて地面が見えねぇ。


 鬱蒼と生い茂る樹木はどれも馬鹿デカく、神社にあったら神木として崇められそうなサイズだ。

 〖マナ〗の影響で森林が強靭化している訳だが、この大陸は植物魔獣の大魔境じゃねぇ。


 南大陸を席巻する種族の姿は、少しして見えて来た。


「────っ!」

「────ッ!!」


 遥か眼下で木々を薙ぎ倒し争っていたのは、多頭の〖凶獣〗達。

 どちらも頭や脚、尻尾などの各部位がそれぞれ異なる生物種となっており、パッチワークのような印象を受ける。


 彼らの〖種族〗はキメラ。

 神話のキメラと違い、身体を構成する種族は獅子や山羊に限定しない。

 死肉を食らうことでその種族の身体特長を吸収する、それがこの世界のキメラだった。


 星神の話じゃこの大陸で最も繁栄している種族であり、“古王”もそうであるとか。


「(時間がありゃキメラの戦い方とか見てぇけど、この大陸バカみてーに広いんだよなぁ……。道草食う時間はねぇし、〖亡獣〗が居たらちょっくら戦うくれぇに留めねぇと)」


 そんなことを考えながら飛んでいると、ちょうどよく巨大な影が見えて来た。

 大きさ的に〖亡獣〗で、しかも見るからにキメラだ。

 早速降下を開始する。


「(〖制圏〗は……要らねぇか。〖レプリカントフォーム〗!)」


 最新かつ最強の武器を模倣していると、件の〖亡獣〗がオレを見上げた。

 隠密系〖スキル〗をフル発動させてたんだが、さすがに勘が良い。


「「ムェロロロロっ」」


 そのキメラは前後に一本づつ首が生えていた。

 前はデカい牙の生えたマンモスみてぇな首で、後ろはキリンに似た細長ぇ首。


 だが、こいつの姿で一際目を引くのは首ではなく、その下。

 タコ足の如く四方八方へと伸ばされた夥しい数の腕である。


 腕はどれもが異様に長く、毛むくじゃらの猿のような手もあれば、タコの足みてぇに吸盤付きの物もあり、とにかく種々雑多なものが生えていた。

 そして全ての手が地面に向いたかと思えば、樹の根を持ち上げながら金属球が腕と同数、浮上する。


「「キルルルルッ!」」


 ちょうど手に収まるサイズの金属球をキメラが握ったかと思えば、全球同時に放り投げて来た。

 オレが〖亡獣〗だった頃の〖投擲〗より遥かに高い球速で、しかも──、


「(魔球かよっ)」


 ──めっちゃ複雑な軌道を描いてやがる。

 〖弾道予見〗がバグりそうなほどに入り組んでいた。

 野球やっててこんな球を投げられたら厄介なことこの上ねぇ。


「(でもそうか、こいつの〖制圏〗は捻じれとか変化球とかその辺か)」


 キメラ周辺の植物を見つつそう分析する。

 アイツの周りでは木々が渦巻くような歪な形状になっているのだ。それらが〖制圏〗の効果で合ってるなら、オレの予想もそう的外れじゃねぇだろう。


「(と、そろそろだな)」


 一番速い魔球がすぐそこまで迫っていた。

 左右へフェイントをかけたかと思えば、突如として直進をしてオレの体を貫こうとしている。

 それをオレは新武器で冷静に弾いた。


「(うん、やっぱ遅すぎるな)」


 それからも魔球を正確に弾いていく。

 複雑な軌道を描く魔球も、速度が足りなきゃただの一発芸だ。


 まあ〖亡獣〗相手なら充分に速ぇはずだが、オレは〖王獣〗で、しかも〖弾道予見〗や〖明鏡止水〗などの処理能力補助の〖スキル〗も多数ある。

 【栄枯雷光輪廻】に【真化】してからは通電の強化量も上がった。

 これじゃ無防備に受ける方が難しい。


「「メラっ!?」」

「(よいせっと)」


 オレの存在に気付いた時以上に刮目するキメラ。

 そこへさらに加速して突っ込み、新武器で肩を貫く。

 巻き毛な毛皮を何の抵抗もなく貫いたものの、血飛沫は上がらねぇ。新武器の性質を思えば当然だ。


「「キォォッ!?」」


 キメラが自身を貫いた激痛と、そして不可思議な悪寒に悲鳴を上げる。

 きっとこいつは血管に氷を差し込まれるみてぇな感触を味わってるんだろう。実際、肩の付近の血は凍っちまってるしな。


「(やっぱり極棘きょっきょくの力はスゲェな、〖亡獣〗が一発でこれか)」


 極棘。こいつは“極王”の捕食器官バッカルコーンから作った武器だ。


 形状としてはUFOキャッチャーが近ぇか。

 半透明なアームの先に、六本の針金みてぇな捕食器が付属する。


 “極王”は後衛型の魔獣だったからほとんどの能力を武器に落とし込めなかったが、これだけは別だった。

 触れたモノから熱を急速に奪い、動きを鈍らせて捕食するっていう便利な性質を持っていたので、それをそのまま活用させてもらった。


「(と、まだ二本しか刺してなかったな)」


 オレを引き剥がすべく腕の群れがやって来るのを見つつ、残りの棘をキメラに巻き付ける。

 キメラがビクンッと震えた。

 ここまで来ればもう何もしなくてもじきにキメラは死ぬだろう。


「(すまねぇが最期に少し付き合ってもらうぜ、【栄枯雷光輪廻】)」


 【ユニークスキル】の雷をキメラの深奥、〔アルケー〕へと突き刺す。

 農作物を刈り入れるような丁寧さはなく、野を焼き尽くすような荒々しさで。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>白毫びゃくごう呈す珀陽ひゃくよう玲瓏れいろう(?)、不破勝鋼矢の〖魂積値レベル〗が764に上昇しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 二発目で成功。

 極棘によるダメージを差し引いても、大成長を遂げていると言える。


「(けどまだまだ足りねぇ)」


 最終的に、オレはカオスを倒さなきゃならねぇんだ。

 相手の強さが未知数な以上、もっともっと【ユニークスキル】の練度を上げねぇと。


「(無傷の〖亡獣〗を一撃で即死させる。まずはそこからだ)」


 そんな中間目標を立て、オレは大魔境の空へと飛び立つのであった。




 ──そして、その時点より四十二時間十七分後。

 オレは“古王”の名を戴く至上の生命体と邂逅する。


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