第159話 永遠に溶けざる凍海氷灼6

「(〖ブロック〗──)」


 〖ウェポンスキル〗の発動直後、オレは『凍結』する。

 正確には、『凍結』が解除され風景がスキップされたことでオレは『凍結』していたって認識したわけだが……まあ、そこら辺は重要じゃねぇ。


「ルルッ!?」

「(っし、成功だ!)」


 何十発もの凍結光弾を受けた白盾の表面には薄く氷が張っていたが、それだけ。砕けるどころか罅すら入っていなかった。

 これは盾自体の耐久力もあるが、強度向上の〖ウェポンスキル〗の働きもデケェ。


 本来、〖ブロック〗は瞬間的にしか使えねぇ〖ウェポンスキル〗だが、その分効果は高い。

 そして一瞬しか使えねぇ〖スキル〗でも、時間を止められてるならその間ずっと効果が続く。


 さっきまでは『凍結』の対象がオレの意識かもしれねぇって懸念もあったが、今回〖ブロック〗が持続してたことでその可能性は否定された。

 さすがに意識が途切れたら〖ウェポンスキル〗は維持できねぇはずだからな。


「リリリ!」

「(ほい来た〖ブロック〗ッ──)」


 頭では分析を進めつつも、体は覚えたタイミングを逃さねぇ。

 『凍結』の来る直前で〖ウェポンスキル〗を発動し、光弾を受け止める準備をする。


 けどクリオネも馬鹿正直に正面突破を試すのはやめたらしい。

 『凍結』が解けた時、クリオネはオレの背後にテレポートしていた。……いや、時間停止中に後ろに移動しただけだろうが、オレにはまるで瞬間移動のように見えた。


 移動に時間を使ったためか、光弾はあんま食らわなかったが、だからって楽観はできねぇ。

 体温が下がり続ければ『凍結』時間は長くなるし、いずれはダメージも食らうようになっちまう。


「(〖レプリカントフォーム〗、五重!)」


 白盾を五つ模倣した。前方に掲げているのを含めてこれで六つ。


「(立方防御陣形!)」


 上下左右前後。全方向に白盾を一枚ずつ向け、サイコロな防御の構えを取る。視界も〖透視〗があるから問題ねぇ。


 しかしこうしてっと〖進化〗する前に戻った心地だ。

 つっても白盾はタワーシールド──長方形に近ぇしきちんとした立方体になった訳じゃねぇけど。


「ルルララ!」

「(〖ブロック〗、三重ッ──)」


 間髪入れず『凍結』が来た。

 クリオネの居る方向と上下の白盾で〖ブロック〗を発動する。


 普段は影が薄いが、〖多刀流〗のおかげでオレは〖ウェポンスキル〗を並列使用しやすくなっている。

 咄嗟であっても三重発動なら可能だ。

 これだと六面のうちの半数しか守れねぇが、左右は氷塊に挟まれてるし背面以外は平気──、


「(ぐえっ、そう来たか。判断ミスったな)」


 ──と思っていたのだが、衝撃は左右からも響いた。

 氷塊の表面をやすりみてぇにしてザリザリ削ろうとしてやがるのだ。


 光弾に比べて氷鑢は白盾に効きやすい。擦られ続けると壊れそうだし対処しねぇと。


「(雷撃!)」


 両の氷塊に雷を放つ。

 今の雷撃なら大魔境の氷も容易く砕けるはずなんだが……一撃では穴を穿つのが限界だった。

 多分クリオネの〖スキル〗に強度を上げるものがあるのだろう。


 なおそのクリオネは『凍結』中、正面から動かず光弾を連射してたようだが、そっちは〖ブロック〗のおかげで大した被害はねぇ。

 また『凍結』のタイミングが来たので三面〖ブロック〗──今度は正面と左右の面を守った──をし、次の瞬間オレは氷山の中に居た。


「(不味っ!)」


 反射的に、ここに居てはならない悟る。

 そう思わせる程に莫大な〖マナ〗が分厚い氷の斜面の上、クリオネの体から立ち上っていた。


「(模倣解除、〖レプリカントフォーム〗!)」


 白盾を解き、イッカクドリルを四つほど模倣。

 それからクリオネの反対側、氷山の奥に向かって氷を微塵にしながらミミズの如く掘り進めていく。


 本当は氷山から出てぇが、この移動速度じゃ先回りされてまた『凍結』を食らうだけ。

 クリオネは強力な〖スキル〗の発動に集中しているのか氷山を操っては来ねぇし、このまま出来るだけ距離を取ろう。


「(けどどう考えても間に合わねぇよなぁ!)」


 理想は発動前に氷山の反対側に出ることなんだが、それよりは〖スキル〗の発動の方が早ぇだろう。

 チャージの所要時間は未知数とはいえ、さすがに限度があるはずだ。


 そして〖弾道予見〗によると、クリオネの〖スキル〗の射程は氷山を貫通している。

 非常に長距離かつ広域を殲滅し得る攻撃予測軌道であり、氷山内で躱すのは不可能。


「(妨害できるのが一番なんだけどなっ、熱線魔眼! ……やっぱ対策してるよなぁっ)」


 クリオネは幾重ものオーロラと氷晶の盾に守られており、熱線魔眼の一撃さえも耐え切りやがった。

 消費〖マナ〗度外視の絶対防御には、次の一撃で決着を付けるっていう“極王”の意気が籠っている。


「(だったらこっちは全力で防御するだけだな!)」


 幸い、時間はまだありそうだ。

 奥へ奥へと掘り進めながら、防衛策も施していく。


 その一つは〖武装の造り手〗による氷の盾化。

 大魔境の氷山を一息に武器に化するのは難しいが、付近にある氷を少量ずつなら片手間にでもできる。

 施す調整も強度アップだけだしな。


 また白盾も複数枚、模倣した。

 こいつが今回の主力だ。


 最後に、ある〖スキル〗を全力で発動しつつ運命のときを待つ。

 それが起こったのはオレが氷山の中枢まで辿り着いたのとほぼ同時。

 際限なく進んでいたクリオネの〖マナ〗増大がピタリと停止し、オレは〖ウェポンスキル〗を使用。


「(さあ来い! 〖ブロック〗三重!)」

「ラルロルルレルゥ!」


 そうして、絶対的な裁きを下す白の光が迸った。


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