第158話 永遠に溶けざる凍海氷灼5
「ルリリリリリリ」
「(なんだっ!?)」
上空のクリオネ目指して氷上からテイクオフした直後、文字通り目を疑う現象が起きた。
クリオネの姿がブレ、四つに増殖したのだ。
四体のクリオネは東西南北に別れ、オレを見下ろしながら攻撃準備に入った。
ご丁寧に〖制圏〗の強さも均されており、また感じられる〖マナ〗量もどれも同一である。
「(幻影、だよな……?)」
クリオネの能力的に幻のはずだが、〖王獣〗なら自分と同じ〖ステータス〗の分身を作れてもおかしくねぇ。
そっちの可能性も視野に入れつつ動いていこう。
「ララララ!」
「(声も四つ重なって聞こえんなぁ! シールド起動!)」
豪雨のような氷晶光弾に翻弄されつつ方策を立てる。
攻撃から本物の位置を割り出すのは無理だ。氷晶光弾の四分の三は幻影だったが、残りの四分の一も飛んで来る方向はまちまち。
多分光弾は、氷晶さえあれば本体から離れてても発射できるんだろうな。
幅広く警戒しなくちゃならねぇしかなり厄介だ。
「(取りあえず離脱だなっ)」
少し考えてそれしかねぇと判断。上ではなく横へ舵を切る。
〖遁走〗する背中には追い撃ちの光弾が放たれるが、それらを凌ぐのは然程難しくねぇ。
ある程度距離が取れたところでオレは進路を上空に戻し、クリオネと同じ高度に戻る。
クリオネ達はと言うと、上下左右のフォーメーションを取って注意を一点に絞らせねぇようにしていた。
「レレララ」
「(やっぱ〖弾道予見〗が騙されてんのはダルイな)」
前方を覆い尽くさんばかりの予測軌道を改めて認識し、溜息をつく。
さすがにこの数の光弾は避け切れねぇ。
まあ、ほとんどは幻影だし位置をズラしつつシールドを張れば結構簡単に防げるが。
なお熱線は発射地点を変えられねぇからか、それとも他に幻影と併用できねぇ理由があるのか、幻影が作られてからは飛んで来てねぇ。
これはむしろ、体温を上げられねぇ分熱線が無くなったのはマイナスかもしれねぇけど。
「(あれ、でもそれなら……)」
光弾が壁の如く押し寄せるのを見ながら一つの実験を始める。
一番弾幕が薄そうな位置へと移動し、そして使いっぱなしだったシールドを解除。
数発の光弾がオレに当たり、目の覚めるような冷気を流し込まれる。
「(
だが冷たかったのは一瞬。
すぐに体内の太陽石によって体温が上昇させられ気にならなくなる。
体表に張った氷ももう溶けちまった。
「(これ、光弾も克服できたんじゃねぇか?)」
自然吸収分を帳消しにする勢いで〖マナ〗が消費されているが、それだけ太陽石の出力は上がっている。
オレの付近では陽炎みたく光が揺らいでおり、光弾を受けても問題ねぇ程の熱を放っている。
反面、融点が近付くから熱線には弱くなるので、熱線が使われなくなったのは幸運だ。
元からほとんど当たってなかったし変わりねぇっちゃ変わりねぇけど。
そうして心に余裕が出来たので、少し反撃してみることにした。
「(四重起動、熱線眼球! 〖
熱線──チャージが
次いでクリオネは新たな攻撃手段を解禁した。
「ラリラ」
感じる〖マナ〗の収束地点は上。
白んだ空に輝くのは七つの光の球。
遠くにあるにも関わらずかなり大きく見える光球から、〖弾道予見〗の予測線が伸びた。
「リロロ」
「(太っ)」
光弾の隙間を縫ってどうにか攻撃範囲を脱する。直後、光の柱が落ちて来た。
光球が真下にレーザービームを吐き出しているのだ。
それらは物理的な破壊力を有するようで、命中した箇所の氷を貫き、深い穴を穿っている。
当たったらオレも地面に叩き付けられかねねぇ。
まあ持続時間は短いらしく、もう消えかかっているが──、
「ロラリ」
「(連発できんのかよっ)」
──空に追加で現れた七つの光球を見、即座に進路を調整する。
「(これじゃジリ貧だな、やっぱり接近戦しかねぇか)」
出来ればどの幻影が本物かくらいは当たりを付けてから挑みたかったが。
しかし、現状のオレに看破の手立てはねぇ。
「(臆病になり過ぎるなよ、っと)」
開戦時にも思ったことを再度、自分に言い聞かせる。
〖王獣〗相手に安全策だけで勝てる訳がねぇ。光弾はある程度受けられるのだし、これは取るべきリスクだろう。
「(〖超躍〗!)」
追いかけて来るクリオネから逃げ続け、光の柱で姿が隠れたのを機に反転。
〖爆進〗等の補正を受け、一気にクリオネとの距離を詰める。
上下左右のクリオネの内、オレが目を付けたのは上に居る一体。
本物なら戦場を一番俯瞰できる上側に居たいんじゃねぇか、って思ったからだ。
光弾の妨害を最小限の回避とシールドで防ぎ、被弾を十発以下に抑えて肉迫。
至近距離での雷撃をお見舞いするも、雷はクリオネを素通りして行った。幻影だったのだ。
「(〖千刃爆誕〗!)」
すかさず魔性鉱物の塊を爆散させる。
残る三体を同時に狙い、次の瞬間にはオレは氷塊にガッチリ固められていた。
放った刃が消え去ってるし、『凍結』されてる間に氷塊で挟まれたんだろう。
「(生憎だがもう氷塊は効かねぇ!)」
高温の体を活かし、力尽くで突破しようとするも、また時間が飛ぶ。
氷塊の量が増した。
幻影のクリオネはいつの間にか姿を消しており、そして本物は氷晶光弾をいくつも浮かべて放つ態勢だ。
「リリ」
またも『凍結』。
多量の〖マナ〗が弾けたかと思えば、真冬の池に投げ込まれたような感覚に襲われる。
『凍結』中に光弾をぶつけられまくったからだ、ってのは現在進行形で飛んで来ている光弾達を見れば分かる。
当初、危惧していた『凍結』コンボ。その使用にクリオネは踏み切ったのだ。
太陽石の効果だけではこれを凌ぎ切るのは難しい……が、だからこそ他の手も考えてある。
「(〖武具格納〗!)」
取り出したのは森亀の甲羅から作った巨大盾。
ポーラの空間拡張袋に体を仕舞ってしまえばこれですっぽり全身を隠せる。
そんな風に思って取り出したその武器は、『凍結』が解けた瞬間に凍り付き砕け散った。
〖凶獣〗武器で〖王獣〗の相手が務まる訳ねぇし、一発でも『凍結』を凌げただけ充分だ。
それからも幾度か盾を取っ替え引っ替えして『凍結』を凌ぎ、そして『凍結』が来る大体のテンポを掴んだところで本命を切る。
「(頼んだぜ、〖レプリカントフォーム〗!)」
それは表面に真っ白な獣皮を使った盾。白イタチの毛皮で作った物だ。
抜きん出た寒冷耐性を誇り、光弾に対しても大きな効果が見込める。
「ルル……」
何度壊しても出て来る盾に苛立たし気な様子を見せつつも、クリオネは〖マナ〗を迸らせる。
『凍結』の前兆だ。本来は前兆を察知してから動いたんじゃ間に合わねぇが、これだけ何度も食らえば先読みも出来るようになる。
「(〖ブロック〗ッ──)」
『凍結』が発動する直前、オレは防御のための〖ウェポンスキル〗を発動させたのだった。
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